第3章
夢小説設定
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訓練が終わり、装備を外している最中だった。
汗を拭きながら、次の予定を頭の中で整理する。
報告書、点検、備品の確認──いつも通りの流れ。
「ユニ。」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
「はい。」
反射みたいに返事をした、その直後。
「……そこじゃねぇ。」
短い声。
言われて、周囲を見る。私は、少し離れた位置に立っていた。
「俺の視界に入るところにいろ。」
淡々とした口調。命令というより、いつもの調整。前にも、何度も言われてきた言葉。
だから私は特に疑問も持たずに──一歩、横へ移動する。
リヴァイ兵士長のすぐ斜め後ろ。いつもの位置。
「……それでいい。」
それだけ言って、兵士長はもう前を向いていた。
……いつも通り。何も、変わっていない。はずなのに。
装備をまとめながら、ふと、指先が止まる。
(……あれ?)
前にも、同じことを言われた。何度も。
その時は、「邪魔にならない位置」「状況確認がしやすい位置」そう理解して、何も思わなかった。
でも──今は。
("視界に入る"って……、)
確認のため?指示を出すため?
それとも──ただ、そこにいないと困るから?
胸の奥に、僅かな引っかかりが残る。
私はもう一度だけ、横目でリヴァイ兵士長を見る。
変わらない背中。変わらない距離。なのに。
(前と、同じはずなのに……なんで、今は気になるんだろう。)
答えは出ない。
ただ、"上司だから"という言葉だけでは、少しだけ足りない気がした。
その日の夜、ノートを開いた時。
「視界に入るところにいろ」
その言葉を自然と、書き留めていた。
理由は、まだ分からないまま。
◇
別の日。
訓練場の端。
立体機動装置を外しながら、私は自然とその位置に立っていた。
特別な理由はない。
次の動きに移る時、ここにいた方が楽だと思っただけだ。
視界が開けていて、全体も、リヴァイ兵士長の動きも見やすい。
──前にも、ここに立った事がある。
その時は、何も言われなかった。
だから今回も特に意識せず、そこにいた。
「……ユニ。」
低い声。
呼ばれて顔を上げると、リヴァイ兵士長がこちらを見ていた。
「もう少し、前だ。」
短い指示。
私は一瞬、意味を測る。
前?
言われた通り、半歩ほど前に出る。
それで終わりかと思ったが──
「……いや。」
兵士長が、ほんの少しだけ近づく。そして私の立っている位置を微調整するように、肩の横を、軽く示した。
「そこだ。」
たった、それだけ。
触れたわけでもない。強い口調でもない。ただ──"直された"。
私は、言われた通りの位置に立つ。
視界は確かに悪くない。むしろ、さっきより整っている。
……でも、胸の奥でまた、小さな引っかかりが生まれた。
(……前も、同じ事をされた。)
その時は、何も思わなかった。
「リヴァイ兵士長の判断だ」と、それだけで納得していた。
(けれど、今のこれは……)
上司としての指示?それとも──それだけじゃ、説明できない何か?
自分で考えたくなくて、私は一度、視線を落とす。
仕事のため。配置のため。効率のため。
そう言い聞かせれば、いくらでも理由はつく。
……つく、けれど。
リヴァイ兵士長は、もうこちらを見ていない。
何事もなかったように、他の兵士に指示を出している。
それが余計に、この違和感を静かに強めた。
(前と、同じはずなのに──今は、気になる。)
私は立ち位置を保ったまま、もう一度リヴァイ兵士長の背中を見る。
その背中はいつも通りで、変わった様子なんて、どこにもない。
……変わったのは、たぶん、私の方だ。
理由のつかない疑問が、胸の奥に静かに残り続けていた。
◇
さらに別の日。
訓練の合間、次の指示を待つ時間。私は少しだけ考えてから、立ち位置を決めた。
ここなら視界も広いし、次に動く時も無駄がない。リヴァイ兵士長の動きも見えるし、全体の流れも把握しやすい。
──悪くない。
そう判断して、そこに立つ。
しばらくして──
「……ユニ。」
呼ばれて、顔を上げる。
「一歩、そっちだ。」
短い指示。示されたのは、ほんの半歩分くらいの移動。
「……はい。」
言われた通り、位置をずらす。それで、終わり。……の、はずだった。
何気なく周囲を見る。
他の兵士達は、それぞれの位置のまま。誰も、動かされていない。
(あの人は……言われてないのに。)
ほんの一瞬そんな考えが浮かんで、すぐに消す。
たまたまだ。状況の違いだ。
そう思おうとして、ふと、視線を感じる。
顔を上げると、リヴァイ兵士長と目が合った。すぐに逸らされる。
──気のせい?
そう思って、前を向く。けれど、また、少しして。
今度は、はっきりと視線が重なる。
確認するみたいな。位置を測るみたいな。
(……?)
理由が、分からない。
怒られているわけでもない。注意されたわけでもない。
たださっきより、目が合う回数が増えている。
前から、こんなだっただろうか。
「……。」
胸の奥で、小さく引っかかる。
前にも、位置を直されたことはある。何度も。
その時は、何も思わなかった。
必要だから。合理的だから。そう受け取って、終わっていた。
でも──今は、違う。
同じ事をされているはずなのに、理由を探してしまう。
(……上司として、なのかな。)
そう考えてみる。それなら普通だ。指示のひとつだ。
でも、他の兵士には、言っていない。
私が自分で選んだ位置を、わざわざ微調整する理由。しかも危険でも、邪魔でもない場所なのに。
視線が、また合う。今度は、ほんの一瞬だけリヴァイ兵士長の眉が、僅かに動いた。
──確認。
そんな言葉が、頭に浮かぶ。
(……何を、確認してるんだろう。)
答えは出ない。出ないまま、訓練は続く。
私は与えられた位置に立ち、いつも通り動く。
仕事に支障はない。集中もできている。
それでも、胸の奥に残った小さな違和感は消えない。
前と同じ事なのに、前と同じようには受け取れなくなっている。
それだけは、はっきりしていた。
私はもう一度だけ、そっと視線を上げる。
また、目が合う。今度は、逸らされなかった。
ほんの一拍。
それから、何事もなかったように前を向かれる。
……分からない。分からないけれど。
(これ、普通じゃないかも。)
そんな考えが、初めて言葉にならないまま、胸に残った。