第1章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なんか、最近変だ。最近というより、少し前から。
忙しいのはいつもの事だし、準備が前倒しになるのも珍しくない。けど、そういう話じゃない。
空気が、ほんの少しだけ違う。
エルヴィンに聞いても、だいたい同じだ。曖昧に笑って、話題をずらす。忙しいとか、時期的なものだとか。嘘は言ってない。でも、全部も言ってない。
……まあ、そうだよね。あれはそういう人だ。
だから、聞く相手を変えることにした。
本部内を歩いていると、ちょうど都合のいい背中が視界に入った。兵士を捕まえて何か指示を出しているところで、動きに無駄がない。現場を回っている時の、あの感じだ。
リヴァイ。
「やぁリヴァイ、お疲れさま。」
声をかけると、リヴァイは一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を戻した。
「用があるなら、手短にしろ。」
「冷たいなあ。久しぶりに顔を合わせた同僚に。」
「無駄話をしに来たようには見えねぇが。」
相変わらずだ。でも、足は止めてくれた。
「ねぇリヴァイ。最近さ、なんか変じゃない?」
「……何がだ。」
「全体的に、かな。」
曖昧に言うと、リヴァイは鼻で短く息を吐いた否定もしないし、肯定もしない。
「エルヴィンには聞いたのか。」
「聞いた聞いた。案の定、はぐらかされた。」
「だろうな。」
即答だった。
「だからさ、どうせエルヴィンに当たっても、これ以上は出てこないでしょ。」
「で、次は俺ってわけか。」
「正解。」
軽く指を鳴らすと、彼は小さく舌打ちした。
「俺に聞いても、同じだ。」
「知ってるよ。」
即答すると、今度はリヴァイの方がわずかにこちらを見る。
「でもさ、エルヴィンと違って、リヴァイは嘘つかないでしょ。」
沈黙。
ほんの一拍。
「……言わないだけだ。」
「それそれ。」
思わず笑うと、リヴァイは不機嫌そうに視線を逸らした。
「別に、今すぐ何か起きるって話じゃないんでしょ?」
「……あぁ。」
「じゃあいいや。」
あっさり引くと、今度は逆に怪訝そうな顔をされた。
「深追いしねぇのか。」
「しないしない。」
肩をすくめる。
「そのうち、分かる時が来るでしょ。エルヴィンが動いて、リヴァイが現場に出てるなら。」
少しだけ間があって、低い声が返ってきた。
「……勘が良すぎるのも、考えもんだな。」
「褒め言葉?」
「違う。」
でも、否定も弱い。
「ま、いいや。」
そう言って手を振る。
「変なのは分かった。それで十分。」
通り過ぎざまに、もう一度だけ振り返る。
「無理はしないでね、2人とも。」
リヴァイは答えない。ただ、歩き出す直前に、ぽつりと落とした。
「……余計な心配だ。」
その背中を見送りながら、私は内心で思う。
──ああ、やっぱりだ。これは、何かが始まる前の空気だ。でも、今はまだ。踏み込む場所じゃない。
リヴァイの背中が人の流れに紛れて見えなくなるまで、私はその場に立っていた。ほんと、相変わらずだ。必要な事しか言わないし、聞かれていない事は一切喋らない。
なのに、不思議と分かってしまう部分だけは、隠しきれていない。
「……言わないだけ、か。」
自分でも小さく笑って、息を吐いた。廊下はいつも通りだ。
報告に向かう兵士、呼び止められて足を止める班長、雑多で平穏な日常。
なのに──胸の奥に、引っかかる感覚が残っている。
エルヴィンも、ここしばらく同じだ。
聞けば躱す。冗談めかして、肝心なところだけを綺麗に外す。
それ自体はいつものことなのに──今回は、少しだけ違う。
リヴァイも同じ。ああ見えて、何も感じていないわけがない。それでも口を閉じる時は、大抵"守る側"に回っている時だ。
「……やれやれ。」
肩をすくめて、歩き出す。
調査兵団の本部は、いつだって落ち着かない。遠征前特有の、あの空気が少しずつ濃くなってきている。
でも、今回のざわつきはそれだけじゃない。
誰か一人。ほんの少しだけ、位置を変えた気配がある。
確信はない。けれど、エルヴィンが動いて、リヴァイが黙っている理由としては──十分だった。
「……まぁ、今はいいか。」
踏み込む時じゃない。それを決めるのは、たぶん私じゃない。
私は歩調を戻して、いつもの調子で廊下を進む。研究資料の整理、次の遠征準備。考えるべき事は、いくらでもある。
ただひとつだけ。さっき、エルヴィンに向けて投げた言葉を、心の中でもう一度なぞる。
──今日は、無理してる顔じゃなさそうだ。
あれはエルヴィンに向けた言葉だったけど、半分は自分への確認だったのかもしれない。
まだ大丈夫。まだ、壊れてはいない。
だから今は、それでいい。