第3章
夢小説設定
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訓練場。
立体機動装置の金属音が、一定のリズムで響いている。
「──配置につけ。」
短く告げるだけで、全員が迷いなく散った。
無駄な確認はない。声を荒げる必要もない。
……悪くねぇ。
俺は高所にアンカーを打ち込み、全体を見下ろす位置を取る。
リヴァイ班。
まだ編成されたばかりだが──動きはもう、"個"じゃない。
「──開始。」
合図と同時に、全員が動き出す。
俺が前に出るのは、いつも通りだ。役割は変わらない。
突っ込む。切る。状況を崩す。だが──その後方。
視界の端で、ユニの動きが正確に噛み合っているのが分かる。
速すぎない。前に出すぎない。
俺が抜いた"空間"を、塞ぐ役。他の班員が入るための"線"を、作る役。
指示は、出していない。
……必要ねぇからだ。
一瞬、別の班員が進路を誤りかける。
だが──ユニが、間に入る。
声は出さない。合図もない。ただ、「いるべき位置」にいる。
結果、全体の流れは一切崩れない。
俺は、そのまま加速する。振り返る必要はない。
もう後ろを"確認"する段階は過ぎている。
俺が切る。その先で、誰かが必ず繋ぐ。
それが前提になっている。
……これだ。
俺は空中で一度だけ軌道を変え、さらに深く踏み込む。
他班なら「行き過ぎ」になる位置。
だが──来る。
案の定、退路はもう用意されている。
ユニだ。
逃げ道。次の展開。その両方を、同時に成立させている。
……補助じゃねぇ。
俺の動きを"前提"にしている。
地上に降り、全体を止める。
「──そこまでだ。」
全員が、即座に動きを止める。
息は上がっているが、誰1人混乱していない。
俺は全体を一瞥してから、最後に──ユニを見る。
目が合う。
余計な期待も、探るような視線もない。
ただ「次は?」とでも言いたげな顔。
……そうだな。
もう、迷ってねぇ。
「悪くない。」
それだけ言って、踵を返す。
褒める必要も、修正する必要もない。
今は、これで十分だ。
背後で、装置を外す音が重なる。
その中にユニの気配もある。
……やっぱり。
選んだ判断は、間違ってなかった。これは"俺1人"の戦いじゃねぇ。
リヴァイ班だ。
そうはっきり実感しながら、次の訓練内容を頭の中で組み立て始めていた。
───────────────
訓練場の端。
装備を外しながら、何人かが自然と同じ方向を見ていた。
「……なぁ。」
誰かが、ぽつりと呟く。
「あれ、リヴァイ班だよな。」
視線の先。高速移動訓練の区画。
そこでは──異様なほど、動きが噛み合っていた。
「速ぇ……けど、それだけじゃねぇな。」
別の兵士が、眉を寄せる。
リヴァイ兵長が前に出る。
それに引っ張られるように、ではない。
後方が、先に動いている。
「今の見たか?兵長が切り込む前に、もう退路作ってたぞ。」
「指示、出てたか?」
「……いや。」
誰かが、首を振る。
「出てない。」
一瞬の沈黙。
立体機動の音が、風を裂く。
兵長が進路を変える。
その"変化"に、誰かが遅れる──かと思った、その瞬間。
「──埋まった。」
思わず、声が漏れた。
空いたはずの間。そこに、迷いなく滑り込む影。
「……あいつ。」
名前を知らなくても、分かる。
「ユニ、だっけ。」
「前は、あんな前に出るタイプじゃなかったよな。」
「でも、前に出てるって感じでもねぇ。」
動きは、派手じゃない。切り込まない。目立たない。ただ──
「"そこにいなきゃいけない場所"にいる。」
誰かが、そう言った。
それが一番、しっくりきた。
リヴァイ兵長は止まらない。振り返らない。確認もしない。まるで、最初からそこにいると分かっているみたいに。
「……怖ぇな。」
冗談めかした声。
「何が?」
「いや、リヴァイ班が。」
少し、間を置いて。
「兵長が強いのは、知ってたけどさ。」
視線は、自然と揃う。
「──あれ、もう班として完成し始めてないか?」
誰も、すぐには否定しなかった。
訓練終了の合図が鳴る。
リヴァイ班は、散らない。無駄口もない。だが、どこか──
「……空気が違う。」
誰かが、最後にそう言った。
「連携が上手い、とかじゃない。」
もっと根本的な何か。
「兵長を"中心"にしてるんじゃなくて──」
言葉を探して、
「同じ前を見てるって感じだ。」
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
訓練場の喧騒の中で、リヴァイ班だけが一段、別の層にいるように見えた。
──────────────
訓練が終わり、装備を外す音があちこちで重なる。
息を整えながら、私は立体機動装置の留め具を外していた。汗はかいているけれど、不思議と疲労感は薄い。
──うまく、噛み合っていた。
それだけは、はっきり分かる。
「ユニ。」
声をかけられて振り向くと、班の兵士が2人、こちらを見ていた。どちらも、いつもより表情が柔らかい。
「さっきの判断、助かった。退路、あそこに作ってくれたの、見えてた。」
一瞬、言葉に詰まる。
褒められるのは、慣れていない。
私は、小さく首を振った。
「いえ……大した事は、していません。」
本心だった。
あの時あの場では、「そこに誰かがいなければならなかった」だけだ。
「いや、そういう問題じゃないだろ。」
別の兵士が、苦笑混じりに言う。
「兵長が前に出るって分かってたから、俺達も迷わず動けた。その後ろが、ちゃんと"整理されてた"。」
整理、という言葉に、少しだけ目を瞬く。
「……全員が、よく見えていただけです。」
私はそう答えながら、視線を落とした。
特別な事はしていない。誰かの代わりに動いたわけでもない。
ただ"今、この位置が空いてはいけない"──そう思った場所に、いただけだ。
「謙虚すぎだな。」
誰かが小さく笑った。
「でも、そういうとこだよな。」
それ以上、言葉は続かなかった。代わりに、軽く肩を叩かれる。
顔を上げると、装備を確認しているリヴァイ兵士長の背中が見えた。
こちらを見てはいない。
だが空気だけは──確かに、同じところを向いている。
私はもう一度だけ小さく息を吸って、装備を持ち直す。
「……行きましょう。」
自然にそう言うと、周囲が、当たり前のようについてきた。
特別扱いはない。それでいい。今はただ──
同じ速度で、同じ方向へ進めている。
それが、少しだけ嬉しかった。