第3章
夢小説設定
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冬。
外は、雪。
音を吸う白さが、本部の窓越しにもはっきり分かるほど降っていた。
廊下は冷え切っている。吐く息が、わずかに白い。
「……いねぇな。」
部屋に、いない。食堂も、違う。訓練場は、論外だ。
廊下を進みながら、舌打ちをひとつ。
「……どこ行きやがった。」
書類を持っていたのは、確かだ。仕事を放り出すような真似はしねぇ。
となると──
「暖かい場所」だ。
この寒さだ。無闇に外に出るとは思えねぇ。
雪が降ってる。気温も、落ちてる。
あいつは、寒さに弱い。自覚はしてねぇが、身体は正直だ。
足が、自然と向きを変える。
◇
談話室。
扉を開けた瞬間、暖炉の熱が空気ごと流れ込んできた。
……いた。
絨毯の上。暖炉の前。
最初は、丸く座って仕事をしていたんだろう。書類が几帳面に脇へ揃えられている。
だが今は──
猫みてぇに、床に転がっている。
膝を抱えて、身体を小さくして。髪が、頬に落ちて。呼吸は、深くて規則正しい。
完全に、落ちてる。
「……またか。」
声を落として、近づく。
起こすべきか、部屋に連れ帰るべきか一瞬、迷って──やめた。
ここにいる理由は、明白だ。
寒い。
それだけ。
談話室は、今いちばん暖かい。それを、身体で選んだだけだ。
無意識に、だが。
俺は、暖炉の前に腰を下ろす。
椅子じゃない。絨毯の上だ。
背中を、壁に預ける。
……床は冷たいが、火の熱が、それを相殺する。
視線を落とす。
近い。近すぎるが──今は、いい。
眠ってる時くらい、警戒を解いたままでいさせてやれ。
ブランケットは……あぁ、そこにあったか。
拾い上げて、音を立てないように広げる。
そして、肩から、そっと。
触れた瞬間、ユニの身体が、僅かに動いた。
だが、目は覚めない。
そのまま、少し丸まる。
……勝手に、寄ってきやがる。
俺は、動かない。動けば、起きる。起きればまた「大丈夫です」と言う。
そういう奴だ。
だから今は、このままだ。
暖炉が、静かに薪を鳴らす。
雪の音は、ここまでは届かない。
──悪くない。
少なくとも、探し回ってた時よりは、な。
俺は、目を閉じる。眠るつもりは、ねぇ。
ただ、しばらくここにいるだけだ。
あいつが、目を覚ますまで。
……それだけの話だ。
──────────────
ぱち、と。
目を開けた瞬間、まず視界に入ったのは──天井じゃなかった。
暖炉の火。ゆらゆらと揺れる、橙色。
……あれ?
ぼんやりした頭で考える。
私、書類を読んでたはずで。寒くて、暖炉の前に来て。猫みたいに丸まって……。
──寝てた?
その自覚と同時に、視線を動かす。
すぐ隣。
床に腰を下ろしている、見慣れた背中。
「……リヴァイ兵士長?」
思わず、声が漏れた。
呼ばれた本人は、少しだけ視線を下げる。
「起きたか。」
低く、短い声。いつもの調子。
けれど──近い。
思ったより、ずっと近くにいる。
書類を片手に、こちらを見下ろしていた。
「……。」
声を出そうとして、喉が動かない。
その前に、低い声が落ちてくる。
「次からは……どこに行くか、報告してから行け。」
淡々とした言い方。叱責、というほど強くもない。
……次から。どこに、行くか。
頭が、まだふわふわしている。
私は少し間を置いてから、その言葉をなぞるように考えて──ゆっくりと、目を瞬いた。
「……。」
それから、ぽつりと。
「……探しに、来てくれたんですか?」
自分でも、驚くくらい素直な声だった。
リヴァイ兵士長の視線が、わずかに鋭くなる。
「あ?」
短い声。
そのまま、一拍。
──ばちっ。
額に、鋭い痛み。
反射的に目を閉じる。
「いっ……!」
表面を弾くような、少し強めのデコピン。
八つ当たりみたいで、でも力加減は、完全に分かってやっている。
「勤務時間中だ。」
ぴし、と言い切る声。
けれど、その直後、ほんの僅かに、空気が軽くなった気がした。
私はようやく完全に目が覚めて、慌てて身を起こす。
「……!す、すみません!」
リヴァイ兵士長は、それ以上何も言わない。
ただ書類に視線を戻しながら、小さく息を吐いた。
……なんだか。
怒られたはずなのに、胸の奥が、変に落ち着いている。
暖炉の音が、また耳に戻ってくる。
私は額をさすりながら、小さく背筋を伸ばした。
──次からは、ちゃんと、報告しよう。
そう思いながら。