第3章
夢小説設定
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夜の空気は、もう秋の終わりを告げていた。
業務を終え、中庭を抜ける石畳を歩く。
昼間の名残は、どこにもない。吐く息が薄く白むほどの冷え。
──思ったより、寒い。
私は、無意識に歩幅を詰めた。ほんの少しだけ、隣へ。
触れない距離。けれど、確かに近い。
「……寒いのか。」
低い声が、すぐ横から落ちてくる。
気づかれていた。
「はい……少し。」
正直に答える。
夜風が、襟元を抜ける。秋の冷えは、急だ。
「リヴァイ兵士長は、温かいですね。」
言ってから、少しだけしまった、と思う。
言い慣れた言葉なのに、この時期になると妙に実感を伴う。
「そうか?」
短い返し。いつも通りの調子。特別な意味はない。少なくとも、口調からは。
「はい。」
私は、小さく頷く。それだけで、距離はそのままだ。
寄り添うでもなく、離れるでもなく。
──いつも通り。
歩く音。風の音。夜の静けさ。
前なら、これで何も考えなかった。
けれどここ最近、リヴァイ兵士長の視線がどこか違う。
見ている。でも、ただ確認しているだけではない。
考え事をしているような、どこか遠い目。
前に距離を取られた時も──確か、こんな空気だった。
……嫌だな。
胸の奥に小さく、ざわりとしたものが生まれる。
私は歩きながら、ほんの数秒だけ──顔を上げた。
夜の灯りに照らされた横顔。相変わらず、無表情に近い。
変わらない。少なくとも、外から見れば。
私は、何も言わない。問い詰めない。試さない。
近づき方も、距離も、変えない。
それが、私の選んだやり方だ。
──変わらない。
たとえ、不安が胸の奥で静かに膨らんでも。
私は、また前を向いて歩き出す。
隣にいる事を、当たり前のままに。
今は、それでいい。
夜の中庭を、2人分の足音が静かに抜けていった。
───────────────
夜。
本部の中庭を抜ける通路は、秋の終わりらしく思った以上に冷えていた。
業務は終わっている。急ぎの用件もない。ただ、帰路が同じだっただけだ。
──それだけのはずだった。
隣を歩いていたユニが、ほんの少しこちらへ寄る。肩が、触れるか触れないかの距離。
無意識だ。計算じゃない。
そういうところが、分かる。
「……寒いのか。」
聞くと、ユニは小さく頷いた。
「はい…少し。リヴァイ兵士長は、温かいですね。」
他意のない声。何かを求めているわけでも、甘えているわけでもない。ただの事実を、そのまま口にしているだけだ。
「そうか?」
そう返すと、それ以上距離を詰めてはこない。
寄り添うが、預けてはこない。
──変わらねぇ。
距離感も、歩幅も、言葉の選び方も。
前と、何も。
俺の方だけが、勝手に引っかかっている。
数秒── ユニが、ふと視線を上げてくる。
見上げる、というより──確認するような目。
「……?」
何も言わない。ただ、見る。
俺が、そこにいるか。離れていないか。それだけを確かめるみたいに。
俺は、視線を逸らさなかった。
避けもしない。歩く速度も変えない。
「……行くぞ。」
それだけ言う。
「はい。」
即答。
足音が、再び揃う。
夜気は冷たいままだ。だが──
さっきより、寒さは気にならなかった。
変わらないユニと、変われない俺。
それだけの話だ。
……それだけ、のはずだ。