第3章
夢小説設定
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呼び出しは、簡潔だった。
団長室。余計な前置きはない。
「リヴァイ。班を作る。」
それだけで、話の重さは十分に伝わった。
役割。目的。運用。
──俺の戦闘能力を、最大限に引き出すための班。
討伐。突破。混戦時の制圧。
そして何より、俺が"迷わず刃を振るう"ための周囲。
「選抜は、君に任せる。」
エルヴィンはそう言った。
「腕の立つ者を。ここぞという場面で、要になる。」
それだけ。
質問は、不要だった。
「……分かった。」
短く答えて、部屋を出る。
廊下に出た瞬間、頭の中で名前がいくつか浮かぶ。
強い者。動ける者。判断が速い者。条件は、明確だ。だが──
一番最初に浮かんだ名前に、俺は舌打ちをした。
……チッ。
考えるまでもない。理屈で言えば、最適解だ。
状況把握。対応力。無理をしない判断。
俺の動きについてこれる。
むしろ、俺が想定しない角度から支える。
── ユニ。
だが、それを"班員"として選ぶ事と今の距離でいる事は、まったく別だ。
近すぎる。
そう判断して距離を取った事を、俺はまだ覚えている。
そして、それで泣かせた事も。
◇
数日。
俺は誰にも言わず、選抜を進めるふりをした。
候補の名前を並べては消し、条件を再確認しては同じところに戻る。
ユニを外せば、戦力は落ちる。
だが、入れれば──
俺は指揮官として、どこまで冷静でいられる?
守るだけなら、簡単だった。距離を取るのも、得意だった。だが──"そばにいたい"と、泣きながら言われた。
それは今までのどんな戦場よりも、判断が難しい。
……クソが。
机に肘をついて、視線を落とす。
俺は、班を作る。
それは、俺が戦うための"刃"だ。
なら、そこに入れるのは、迷いなく命を預けられる相手でなければならない。
──信頼できるか。
答えは、もう出ている。
だが「選べるかどうか」と「選ぶべきかどうか」は、別問題だ。
俺は、紙を伏せる。
今はまだ、決めない。決められない。
数日ぐらい悩んだところで、誰も困らねぇ。
……困るのは、俺だけだ。
静かな執務室で、答えの出ない名前が、何度も頭をよぎった。
それでも──消す事だけは、できなかった。
────────────────
訓練場の端。
私は装備の点検をしながら、無意識に視線を上げていた。
少し離れた場所に、リヴァイ兵士長がいる。
いつもと同じはずだ。立ち位置も、姿勢も、周囲の見方も。なのに──何かが、違う。
目が合う。すぐに逸らされるわけじゃない。
けれどその視線は──私を"見て"いない。
正確には、私を見ながら別の事を考えている。
以前は違った。
確認するため。危険がないかを見るため。私が、動けているかを見るため。
今は何かを量っているような、決めかねているような。
胸の奥が、ひどく落ち着かない。嫌な感じだ。
前に距離を取られた時も──確かその直前は、こんな空気だった。
私は、思わず口を開いていた。
「……どうか、されましたか?」
自分でも、少し早かったと思う。でも、聞かずにいられなかった。
リヴァイ兵士長は、ほんの一瞬だけこちらを見る。
「……いや。」
それだけ。
いつもの短さ。いつもの声。
なのにその"間"が、答えになっていない気がして──私はそれ以上、踏み込めなかった。
「……そうですか。」
そう返して、視線を落とす。
作業に戻る。指は、ちゃんと動く。けれど──
胸の奥に、小さな棘が残ったまま。
(嫌だな……。)
理由は、分からない。何を考えているのかも、知らない。
でもこの沈黙は、"何も起きていない"沈黙じゃない。
私は、ちらりともう一度だけ見てしまう。
リヴァイ兵士長は、こちらを見ていなかった。
遠くを──いや、もっと近い何かを、じっと考えるように見つめている。
その背中が少しだけ、遠く感じた。
嫌だ。
理由の分からない距離が、また、できてしまうのは。
私はぎゅっと、手のひらを握る。
まだ、何も言われていない。
まだ、何も決まっていない。
……そう。"まだ"だ。
それなのに、心だけが先に、不安を覚えてしまっていた。
───────────────
見てしまう。
意識する前に、視線がそっちへ向いている。
訓練場。廊下。食堂。
理由は、ない。確認でも、指示でもない。
ただ──そこにいると、分かるから。
……いや。いるかどうかを、確かめている。
自覚した瞬間、少しだけ眉が寄る。
馬鹿らしい。そんな必要は、どこにもねぇ。
それなのに、ユニが動くたび、視界の端で追っている。
誰と話しているか。疲れていないか。無理をしていないか。
前なら「問題があれば止める」だけだった。
今は違う。
問題がなくても、見ている。
──見て、しまう。
「……どうかされましたか?」
不意に、声。
気づかれていたらしい。
一瞬、呼吸が止まる。
「……いや。」
短く返す。
それ以上は、何も言えない。言えば、余計な線を引くことになる。
ユニは少しだけ首を傾げて──それ以上、踏み込まない。
……助かる。
だが同時に、胸の奥が妙にざわつく。
前も、そうだった。
距離を取る前。自分で理由を付ける前。
考え事が増えて、言葉が減って、視線だけが先に行く。
──嫌な予感がする。
分かってる。
これは、兵士長として必要な思考じゃない。
判断を鈍らせる。選択を歪める。
それでも、見ないという選択が、今はできない。
視線を逸らして、拳を握る。
……くそ。
自分の変化が、一番厄介だ。
そしてその変化の中心にいるのがあの小さな背中だという事実を、俺はもう否定できなくなっていた。