第3章
夢小説設定
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団長室。
窓は開け放っていた。夏が近い。閉め切ると、空気が重くなる。
書類に視線を落としたままペンを走らせていた──はずだった。
窓の外──中庭の方から、不意に声が届く。
距離はある。
けれど開いた窓越しなら、言葉の輪郭だけは十分に拾える。
「兵長、最近さ……、」
若い声。訓練帰りだろう。
「ユニへの接し方、変わったよな。」
一瞬、ペンが止まる。
「前から過保護っちゃ過保護だったけどさ。今は、なんつーか……、」
少し、間。
「ちゃんと見てる、って感じがする。」
別の声が、続く。
「分かる。」
「突き放さないし、甘やかしもしない。」
「放ってもいない。」
短い沈黙。
それから、誰かが言った。
「……育ててるよな。」
俺は、思わず息を吐いた。音を立てないように、ごく小さく。
育てている。
その言葉は、兵士長に向ける評価としては少し珍しい。
だが──間違っていない。
視線を、窓の外へ向ける。
中庭の一角。日陰。
あの背丈。あの距離。
声までは、もう聞こえない。けれど、配置だけで分かる。
近すぎず、離れすぎず。逃げ道は、常に残したまま。
……リヴァイらしい。
それでいて、以前よりもほんの少しだけ──「待つ」事を覚えた。
俺は、窓枠に手を置く。
「……なるほどな。」
独り言。誰に聞かせるでもない。
過保護かどうか、ではない。依存でも、庇護でもない。
兵士として、人として。
「信頼して任せる」、その一歩手前。
そこに、今の2人は立っている。
俺は、再び机に向き直る。
書類の続きを書きながら、ふと、口元が緩んだ。
「……微笑ましいな。」
夏の風が、団長室を抜けていった。
◇
昼下がり。
窓から入る風が、紙の端を僅かに揺らしている。
俺は書類に目を通しながら、向かいの椅子に腰掛けた人物を見ていた。
落ち着かない。というより──そわそわしている。
「……ねぇ、エルヴィン。」
ハンジだ。
ペンを指で回し、視線がやたらと窓の方へ向く。
「君、気にならないわけ?」
俺は、視線を上げないまま答える。
「何がだ。」
「決まってるでしょ。」
少し身を乗り出してくる。
「あの2人だよ。リヴァイとユニ。」
……来たな。
「いつまであぁしてるわけ?」
我慢できない、という調子だ。
「距離は近い。でも踏み込まない。話すときは静かで、離れるときは潔い。」
指を折りながら言う。
「見てるこっちがむず痒いんだけど。」
俺は、ようやく顔を上げた。
「……微笑ましいじゃないか。」
率直に言うと、ハンジは眉を吊り上げた。
「それ!それだよ!」
机を軽く叩く。
「もう"微笑ましい"段階はとっくに越えてるって!10代の恋愛じゃないんだからさぁ!」
声を潜めつつも、熱がこもる。
「分かってる?あれ、完全に──」
一瞬、言葉を探す。
「──お互いを生活の一部に組み込んでるやつだよ?」
俺は、口元を緩めたまま聞いていた。
「……否定はしない。」
「でしょ!?」
ハンジは、勢いづく。
「リヴァイもさ、薄々分かってると思うんだよ。でも、決めない。動かない。」
腕を組んで、ため息。
「"兵士長"としては正解かもしれないけど──人としては、ちょっと不器用すぎる。」
俺は、椅子の背に体重を預けた。
「だからこそ、だろう。」
「は?」
「リヴァイは、決めた瞬間に全てを背負う男だ。」
言葉を選びながら続ける。
「相手の人生も。自分の立場も。部下としての距離も。」
一拍。
「だから決めないまま、"許す範囲"を少しずつ広げている。」
ハンジは、じっと俺を見た。
「……それ、優しさ?」
「責任感だ。」
即答する。
「彼なりの。」
ハンジはしばらく黙ってから、肩をすくめた。
「……とは言っても、」
少し、声が柔らぐ。
「受け入れた方が、リヴァイも楽になると思うんだけどね。」
視線が、また窓の方へ向く。
「ユニは、もう覚悟できてるよ。あれは、"待ってる顔"じゃない。」
俺は、その言葉を否定しなかった。
「……そうだな。」
そして、静かに付け加える。
「だが待つ事を選んでいるのは──彼女も同じだ。」
ハンジが、ふっと笑う。
「ほんとにさ、手のかかる大人ばっかりだよ。」
俺は、書類を閉じた。
「だから、見ていて飽きない。」
窓の外。夏の光。
寄り添う2つの影を思い浮かべながら、俺は、もう一度言った。
「……微笑ましい。」
ハンジは呆れたように、でも少し楽しそうに笑った。
「エルヴィンがそれ言うと、全部肯定に聞こえるんだよね。」
それでも──否定はしなかった。