第3章
夢小説設定
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夜の食堂は、昼間とは違う空気だった。
仕事を終えた兵士達が思い思いの席に集まって、酒と食事でようやく肩の力を抜いている。
私は──自分の席の前で、少しだけ迷っていた。
配膳台に並んでいるのは、水と、薄い果実水。
……いつも通り。
「あの……。」
小さく手を挙げると、近くにいた兵士が少し意外そうな顔をした。
「私も……お酒、いいですか?」
一瞬、静止。周囲の視線が集まる。
「……飲めるのか?」
横から、低い声。
リヴァイ兵士長だった。
私は、素直に頷く。
「はい。むしろ、好んで飲みます。」
ほんの一瞬、リヴァイ兵士長の眉が動いた。
「……無理はするなよ。」
「はい。」
即答。
そのやり取りで、許可が下りたと判断したらしい。
次の瞬間私の前に置かれたのは、小さめの杯。
……まぁ、最初はこれくらい、ですよね。
そう思いながら、一口。
……美味しい。
二口目。三口目。
気づけば、杯は空になっていた。
「次、頼んでもいいですか?」
周囲がざわつく。リヴァイ兵士長が、無言でこちらを見る。
「……飲みすぎるな。」
「大丈夫です。」
その自信は、根拠があった。
私は、あまり酔わない。酔っても──
「ふふっ。」
自分でも分かるくらい、口元が緩むだけだ。
そして──料理。
パン。肉。煮込み。
──美味しい。
「これも、いただきます。」
「……お前、まだ食うのか。」
「はい。」
即答。
デザートが運ばれてくる。
「……それもか。」
「はい。」
さらに、もう一皿。
「……。」
周囲の兵士が、完全に引いている。
私は気づかない。
だって──美味しい。
フォークを持つ手は止まらない。
えへへ、と笑いながら、ケーキを口に運ぶ。
合間に、お酒も一口、二口……そして最後の一口を飲み干して、息を吐いた。
「……おい。」
向かいから、低い声。
「まだ飲む気か。」
「いえ、もう大丈夫です。」
そう答えながら、視線は──
卓の端に置かれた、デザートの皿に向いていた。
「……。」
視線に気づいたのか、リヴァイ兵士長が無言で私を見る。
「……あの。」
少し、間を置いてから。
「デザート、追加してもいいですか?」
沈黙。1秒。2秒。
「……は?」
聞き返された。
「甘い物、好きなので。」
えへへ、と笑うと、兵士長の眉が僅かに寄る。
「お前……、」
呆れた、というより──理解できないものを見る目。
「さっきから、どれだけ食ってるか分かってるか。」
「はい。」
即答。
「でも……まだ入ります。」
再び、沈黙。
「……お前、」
小さく、息を吐いて。
「その胃袋で、なんで体は小さいままなんだ。」
……ひどい。
「努力はしているんですけど……。」
「努力の方向が違ぇ。」
結局、デザートは追加された。
しかもふたつ。
「……俺より食うな。」
ぽつりと落とされた言葉に、私は、また笑ってしまう。
「ふふ…、すみません。」
反省しているつもりはある。本当に。
食べ終えたあと、リヴァイ兵士長がこちらを見る。
「満足か?」
私は少し考えてから──
「……まだ、食べられます。」
その瞬間──はっきりと、引かれたのが分かった。
「……帰るぞ。」
それ以上は、何も言われなかった。
廊下。
食堂を出ると、夜の空気がひんやりと頬に触れる。
私は、少しだけ酔っていた。
頭は、ぼんやり。足取りも、いつもより軽い。
「……ふらつくな。」
横から、低い声。
「ふふ、大丈夫です。」
言いながら、自然と距離が近くなる。
寄り添うように歩いても、リヴァイ兵士長は避けなかった。
廊下に、2人分の足音が響く。
静かで、穏やかで。
「……楽しかったです。」
ぽつりと、零す。
リヴァイ兵士長は少しだけ間を置いてから。
「……そうか。」
それだけ。
部屋の分かれ道で、私は立ち止まる。
「また一緒にお酒、飲みましょうね。」
何気なく。当たり前みたいに。
「……気が向いたらな。」
素っ気ない返事。
でもその声はどこか──柔らかかった。
私は満足したまま、自分の部屋へ足を踏み入れた。
お腹も。心も。今日はいっぱいだった。
───────────────
朝。
本部の廊下はいつも通りの時間に、いつも通り動き始めている。
俺は壁際に立ち腕を組んだまま、通り過ぎる兵士達を流し見していた。
──静かだ。
昨夜の騒がしさが、嘘みてぇに。
「おはようございます。」
その声で、視線を向ける。
ユニだ。
昨日あれだけ食って、飲んで、笑って──
挙句の果てに「まだ食べられます」なんて言っていた奴が、今はいつもと変わらない顔で立っている。
顔色、問題なし。足取り、軽い。呼吸も、安定している。
「……元気そうだな。」
確認半分、皮肉半分。
ユニは一瞬きょとんとしてから、小さく首を傾げた。
「はい。よく眠れました。」
即答。
……本当に、よく分からねぇ。
昨日の量で、二日酔いも、胃もたれも無し。
俺は、無意識にため息を吐いた。
「お前……その体で、どこに全部入ってる。」
ユニは少し考えてから──
「……?」
意味が分からない、という顔。
そのまま、何事もなかったように続ける。
「今日の訓練、少し楽しみです。体が軽くて。」
……逆効果か。
俺は視線を逸らし、短く言う。
「調子に乗るな。今日は、普通にやれ。」
「はい。」
素直な返事。
そのままユニは軽く会釈して、廊下の先へ歩いていく。
背中を見送りながら、俺は思う。
──昨日のあれは、夢でも、幻でもなかった。
ただ、翌朝には何も残さず、ケロッとしているだけだ。
……悪くねぇ。
そう思ってしまった時点で、もう、負けだな。
俺は小さく鼻で息を吐き、いつもの場所へ歩き出した。
今日も、いつも通りだ。
──少なくとも、表向きはな。