第3章
夢小説設定
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訓練場。
対人格闘術の組み合わせが、淡々と組まれていく。
「次は──そこと、そこ。」
リヴァイ兵士長の声。
名前が呼ばれるたび、兵士達が前へ出ていく。
私は列の中で、静かに順番を待っていた。
……前回。
この訓練で、私は外されていた。
理由は、分からない。聞くつもりも、なかった。けれど──あの時胸の奥に残った感覚は、まだ、消えていない。
「次は──」
組み合わせを選ぶ声が、一拍止まる。
その瞬間──私は、考えるより先に手を挙げていた。
「……?」
周囲の視線が、一斉に集まる。
リヴァイ兵士長の視線も。
「……リヴァイ兵士長。」
声は、震えていない。
「お相手、お願いできますか。」
一瞬──訓練場の空気が、止まった。
誰かが息を呑む音。誰かが、小さく息を吸う気配。
リヴァイ兵士長は、私をじっと見ていた。
探るようでもなく、測るようでもなく。ただ──"兵士を見る目"。
「……いいだろう。」
短い返答。
「出ろ。」
私は、一歩前に出る。
胸の奥が、静かに熱くなる。
逃げたい気持ちは、ない。勝てるとも、思っていない。
でも──やらない理由は、なかった。
向かい合う。距離は、ほんの数歩。
構えは取らない。互いに、自然体。
「始め。」
合図と同時に、私は一気に間合いへ飛び込んだ。
力でぶつからない。重心。軸。関節。
相手の身体が、構造上"そう動く"瞬間を狙う。
腕を受け流し、足を払う。
──倒れる。……はず、だった。
けれどリヴァイ兵士長は、倒れない。
地面に着く前に片手をつき、次の瞬間には──脚が飛んできていた。
「っ……!」
反射的に躱す。
身体を、柔らかく使う。力を受けない。流す。
距離を、取る。
呼吸は、乱れていない。
もう一度踏み込む。
今度は、関節。
肘。肩。可動域の限界。
……取った。
確信した、その瞬間──
「──甘ぇ。」
低い声。
視界が、反転する。
私の腕が、足で払われていた。
倒れる。
──いや。
受け身。
転がって、距離を取る。
間に合った。でも──もう、分かっている。
通用しているのに、勝てない。
私の動きは、"普通の人間"には、十分だ。
でもこの人は──倒される事を、最初から想定している。
倒れながら、次を出す。受け流しながら、反撃する。反射神経が、桁違いだ。
私は息を整えながら、もう一度構える。
逃げない。引かない。持久戦。
私が耐えている間、リヴァイ兵士長は一切、無駄な動きをしない。
小さな動き。最短の反応。
そして──崩された。
気づいた時には、地面に押さえつけられていた。
力ではない。
体重。角度。完全に、動けない。
「……そこまでだ。」
声が、落ちる。
終わり。
私は、ゆっくり息を吐いた。
悔しさはある。でもそれ以上に──納得があった。
立ち上がると、リヴァイ兵士長はもう視線を外している。
「悪くねぇ。」
それだけ。
褒め言葉でも、慰めでもない。事実としての評価。
私は、小さく頷いた。
「ありがとうございました。」
胸の奥が、少しだけ温かい。
勝てなかった。でも、外されなかった。
挑む事を、拒まれなかった。
それだけで──今は、十分だった。
私は、次の訓練へ向かう兵士達の中に戻る。呼吸を整えながら。
──また、挑める。
そう、はっきり思いながら。
───────────────
夜。
新しい本部の静けさは深い。
灯りを落とした執務室で、俺はいつもの椅子に腰を下ろしている。
背もたれに体重を預けるでもなく、机に突っ伏すでもない。ただ、座る。
──これが、一番眠れる。
平均して、2、3時間。それ以上は、最初から期待していない。
目は閉じている。だが、意識は完全には沈まない。沈める気もない。
浮かぶのは、昼間の訓練の光景だ。
「……リヴァイ兵士長。お相手、お願いできますか?」
手を挙げた、ユニの声。
真っ直ぐで、迷いがなくて──逃げ場を与えない言い方。
断る理由は、なかった。外す理由も、もうない。
間合い。踏み込み。体重移動。
転がしに来る動きは、正確だった。
関節。足払い。重心の崩し方。
理屈としては、完璧だ。
……普通の相手ならな。
だが倒された瞬間に、体が勝手に動く。
手をつく。腰を捻る。脚が出る。
反射だ。考えている暇は、ねぇ。
ユニは、それを受け流した。
躱した。吸収した。柔らかい。しなやかだ。
──だからこそ、長引く。
力で押さえ込めない。一撃で決められない。持久戦になる。
最後に息が上がるのは── ユニの方だ。
負ける。それは分かっていた。
だが、あの目──
倒されても地面に転がっても、悔しさより先に「通じたか」を確かめる視線。
……くそ。
考えすぎだと分かっていても、思考は止まらない。
あいつは、強い。だが、無敵じゃない。折れないが、削れる。
……俺が削る側に回るのは、本意じゃねぇ。
目を閉じたまま、小さく息を吐く。
隣の窓。
意識が、勝手にそちらへ向く。
あの部屋だ。
灯りはもう落ちているはずだ。
ちゃんと寝ているだろう。
──そうであってほしい。
椅子の上でほんの少しだけ、姿勢を崩す。それ以上はしない。
考えすぎるな。踏み込みすぎるな。距離を──
……距離を、だ。
自分に言い聞かせながら、俺はようやく意識を沈める。
2時間後には、また朝が来る。
それでいい。
それ以上を望むほど、俺は器用じゃねぇ。
ただ──次に、あいつが手を挙げたら。
今度はもう少しだけ、本気で行く。
それくらいは、許されるだろ。
……兵士長としても。人としても。
そう思いながら、椅子に座ったまま、短い眠りに落ちた。