第3章
夢小説設定
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本部の移転に伴い、建物内はいつもより慌ただしく人が行き交っている。主に、片付けや荷造りのためだ。
私はもう、自分の分の荷造りは済ませている。
だから──誰かの力になれればと思って、部屋を出た。……のだが。
「私にできる事は、ありますか?」
思い切って声をかけると「……は?」と、間の抜けた反応が返ってきた。
リヴァイ兵士長の部屋。
扉は開いていて、中はすでに作業の途中だった。
机の上は片付いている。必要な書類だけが、きっちりまとめられている。
……私の出る幕は、どう見ても、ない。
「その様子だと……もう、ほとんど終わってますよね。」
「見りゃ分かるだろ。」
即答。
「……ですよね。」
少し気まずくなって、私は正直に事情を話すことにした。
「エルヴィン団長の部屋は……どれが必要で、どれが荷造りしていいものなのか、判別がつかなくて。」
あの部屋は、資料も書類も多すぎる。
勝手に触るわけにもいかない。
「ハンジ分隊長の部屋は、モブリットさんがいらっしゃいますし……私が入るより、任せた方が早いと思って。」
一拍、置いて。
「それで、資料室にも行ってみたんですが……、」
言いながら、少し、視線が下がる。
「重い箱は持てませんし。高い棚の資料にも手が届かなくて……。」
結局。
「……何もできずに、戻ってきました。」
自分で言っておいて、情けなくなる。
沈黙。
リヴァイ兵士長は腕を組んだまま、こちらを一瞥して──
「そりゃ……」
短く、息を吐く。
「残念だったな。」
責めるでもなく、慰めるでもなく。ただ、事実をそのまま言ったような口調。
でも──
「無理に役に立とうとするな。できる奴が、できる事をやるだけだ。」
淡々とした声。
私は、少しだけ目を瞬かせた。
「……はい。」
そう答えると、
「だったら、今は俺の邪魔をしないってのが、一番の貢献だ。」
いつもの調子。けれど──
「……分かりました。」
そう言いながら、なぜか胸の奥が少し軽くなった。
役に立てなかった事実は変わらない。
それでもここに来てよかったと──思えてしまうのが、不思議だった。
◇
翌日。
朝の点呼が終わって、各自が散り始めた頃だった。
「ユニ。」
呼ばれて振り向くと、リヴァイ兵士長が立っている。
「新しい本部に行くぞ。」
一瞬、意味が分からなかった。
「……え?でも、移転は来週じゃ……。」
「その前に、掃除だ。」
即答。
なるほど、と納得する前に、もう歩き出している。
私は慌てて、その背中を追った。
◇
新しい本部。
門をくぐった瞬間、思わず足が止まった。
……広い。
想像していたよりも、ずっと。
建物の規模も、敷地も。
「……ここを、掃除するんですか。」
ぽつりと漏らすと、「そうだが?」と、何でもないように返ってくる。
……2人で?
一瞬頭の中で計算して──すぐに諦めた。
しかも──私は、一度だけ見たことがある。
リヴァイ兵士長の、"掃除"。
あの徹底ぶり。一切の妥協なし。
(……私に、できるだろうか。)
不安は、正直に言えば大きかった。
「立ち止まるな。まずは、埃落としだ。」
そう言って、ハタキを渡される。
「……はい。」
ぎこちなく動かす私を見て、リヴァイ兵士長は、ため息ひとつ。
怒られるかと思った。けれど──
「力、入れすぎだ。手首を使え。」
そう言って、私の動きを横から修正する。
「……こうだ。」
言葉は短い。でも、分かりやすい。
箒がけも、雑巾がけも、水の切り方も、床の拭き順も。ひとつずつ、丁寧に教えてくれた。
驚くほど、根気強く。
「……なるほど。」
試してみると、確かに楽だった。
「覚えるのは早いな。」
ぽつりと。
それだけなのに、胸の奥が、少し温かくなる。
◇
1日目が終わる頃には、腕も脚も、正直限界だった。
でも、翌日も掃除は続く。
丸二日。磨いて、拭いて、掃いて。
埃ひとつ残さない勢いで。
最後に広間を見渡した時──床は、光っていた。壁も、窓も。
「……終わりだ。」
リヴァイ兵士長の声。
その表情を見て、私は、思わず息を呑んだ。
目が──生き生きしている。疲れているはずなのに。相当、疲れているはずなのに。
満足そうで、どこか、楽しそうで。
……あぁ。
この人、本当に掃除が好きなんだ。
「……お疲れ様でした。」
そう言うと、「お前もな」と、短く返される。
それだけなのに、妙に嬉しい。
体は、くたくただった。腕も、脚も、正直、もう動きたくない。
それでも──リヴァイ兵士長の、その表情を見られたから。
「……来週から、ここが本部になるんですね。」
ぽつりと言うと、
「あぁ。」
その声は、どこか落ち着いていた。
この場所で、また日常が始まる。
そう思うと不思議と──疲労より、達成感の方が勝っていた。
私は生き生きとした横顔を、そっと、もう一度だけ見た。