第3章
夢小説設定
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朝。
食堂へ向かう廊下は、すでに人の気配で満ちていた。
話し声。食器の音。
いつもの、調査兵団の朝。
角を曲がった先で──その背中が、目に入る。
リヴァイ兵士長。
壁際に立って、人の流れを避けるように、静かに、そこにいる。
……昨日の事が、どうしても頭をよぎる。
距離。視線。触れた、温度。
一瞬、足が止まりそうになる。
でも──私は小さく息を吸ってから、声をかけた。
「……リヴァイ兵士長。」
呼びかけると、すぐにこちらを見る。
「……あぁ。」
短い返事。
それだけなのに、胸の奥が、きゅっと鳴る。
昨日のあれは、なかった事にはなっていない。
けれどどう接していいのかも、分からない。
私は様子をうかがいながら、少しずつ、距離を詰める。
一歩。また一歩。
……止められない。
リヴァイ兵士長は、何も言わない。視線も、逸らさない。
──待っている。
そんな気がして、心臓が跳ねた。
隣まで来て、私は立ち止まる。
……いいのかな。ここに、いて。
そう思って、そっと見上げる。
視線が合う。ほんの一瞬。
それだけで、答えをもらった気がした。
「……行くぞ。」
低い声。
私は、小さく頷く。
「はい。」
並んで歩き出す。
足並みは、自然と揃っていた。
食堂に入ると、いつもより少しだけ、周囲の視線を感じる。
けれど、今は気にならなかった。
配膳を受け取り、空いている席へ。
リヴァイ兵士長が何も言わず、隣に腰を下ろす。
……隣。
昨日、欲しかった場所。
私は少しだけ姿勢を正して、食事を始めた。
金属のスプーンの音。湯気の立つスープ。いつもと変わらない朝。
それなのに、隣にいるだけで、胸の奥が静かに落ち着いていく。
──あぁ。
ちゃんと、ここにいていいんだ。
そう思えた。
私は、こっそり口元を緩める。微笑み、くらいの。
誰にも気づかれない程度に。
そのまま朝食の時間は、穏やかに流れていった。
「全員、少し静かにしてくれ。」
よく通る声。
顔を上げると、食堂の中央にエルヴィン団長が立っていた。
自然と、私語が止む。
「急な知らせになるが、調査兵団本部の移転が、正式に決まった。」
一瞬、空気が揺れた。ざわ、と小さな音が広がる。
やはり──そういう時期、なのだ。
「場所は、ここよりも内側。防衛上の理由と、現在の情勢を考慮した結果だ。」
淡々とした口調。だが、内容は重い。
「詳細は、後ほど書面で伝える。準備期間は短いが──各自、心構えだけはしておいてほしい。」
そこで、エルヴィン団長は一度、言葉を切った。
食堂を見渡す。
兵士一人ひとりを、確かめるように。
「なお──この件については、以前から幹部内では共有されていた。」
視線が一瞬だけ、こちらを掠めた気がした。
気のせいかもしれない。
「現場の混乱を避けるため、今まで伏せていたが──今日をもって、全体周知とする。」
それだけ告げると、エルヴィン団長は軽く頷いた。
「以上だ。」
短い。けれど、十分だった。
ざわめきが戻る。
「やっぱりな……。」
「そりゃ、あの後じゃな……。」
そんな声が、あちこちから聞こえる。
私はスプーンを置いたまま、少しだけぼんやりしていた。
──知らなかった。
でも「知らされていなかった」というより「知らなくていい立場だった」という方が、近い気がした。
それが少しだけ悔しくもあり──同時に、守られていたのだとも思う。
「…… ユニ。」
隣から、低い声。
リヴァイ兵士長だ。
視線を向けると、いつもの無表情。
でも──
「移動が始まったら、しばらく慌ただしくなる。」
事実だけを言う口調。
「荷物は、今のうちに整理しとけ。」
「……はい。」
短く答える。
それだけなのに、胸の奥が少し落ち着いた。
エルヴィン団長の言葉。本部移転。情勢。
全部、確かに重い。
けれど──私は、1人じゃない。そう思えた。
食堂の喧騒の中で、私はもう一度、スープのカップに手を伸ばした。
これから、また場所が変わる。
景色も、空気も。
でも──ここで得たものだけは、ちゃんと連れていける気がした。
静かに、そんな確信が胸に残っていた。