第3章
夢小説設定
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訓練場の端。
装備を外しながら、私は何となく、視線を巡らせていた。
……あぁ。
やっぱり、あの子だ。
ユニ。
今日は、対人格闘術。
相手を指名される事もなく、訓練が終わった今も、どこか所在なさげに立っている。
肩が、ほんの少しだけ落ちている。
分かりやすいほど、しゅん、だ。
「……?」
声をかけられて、ユニが顔を上げる。
「どうした?元気なくない?」
一般兵士の声。
心配そうな、でも、踏み込みすぎない距離感。
「……いえ。」
即答。
けれどその否定には、芯がない。
「大丈夫、です。」
そう言って、小さく首を振る。
……うん。
これは、大丈夫じゃないやつ。
案の定だ。
「なぁ、なんかあったんじゃないか?」
ひそひそと、声を落として話す兵士達。
悪意はない。むしろ、気遣いだ。
それが分かるからこそ、余計に胸にくる。
ユニはそれに気づいていないふりをして、装備をまとめている。
一生懸命、平常を装って。
……あぁもう。
私は、思わずため息を吐いた。
「はぁ……。」
完全に巻き込まれ事故だよ、これ。
視線を、別の方向へ向ける。
──いた。
リヴァイ。
少し離れた場所で腕を組み、訓練場を睨むように見ている。
表情は、いつも通り。無愛想で、不機嫌そうで。でも……違う。
あれは、「見ないようにしてる」顔だ。
意識的に、距離を取ってる。
取ろうとして──盛大に、失敗してる。
そりゃ、ああなるよ。
ユニは、理由も分からず避けられてる側。
周りは、異変に気づき始めてる。
で、本人だけが、一番混乱してる。
……最悪の配置。
「まったく。」
私は、小さく呟いた。
「君達、ほんと不器用だねぇ。」
誰に向けた言葉かは、自分でも分かってる。
ユニの方を見ると、まだ兵士たちに囲まれている。
「本当に、何でもないです。」
そう言いながら、視線は無意識に──リヴァイの方へ流れかけて、途中で、止まる。
見ちゃいけない、と、自分に言い聞かせたみたいに。
……あー。
これは、長引くな。
私はもう一度、深く息を吐いた。
そろそろ、首を突っ込む頃合いかな。
──壊れる前に。
兵舎裏。
訓練が終わって、人の気配が少しずつ散っていく時間帯。
俺は装備の手入れをするふりをしながら、頭の中を空にしようとしていた。
──無駄なことは考えるな。
──関係ねぇ。
──兵士と、兵士長だ。
そう、何度も。
「リヴァイ。」
呼び止められる。
……面倒な声だ。
振り返ると、ハンジが珍しく軽口を叩かない顔で立っていた。
「少し、いい?」
「用件を言え。」
ぶっきらぼうに返す。
ハンジは一瞬だけ言葉を探すように視線を泳がせてから、まっすぐこちらを見る。
「あのさぁ、リヴァイ。もうちょっと、上手くやりなよ。」
「……あ?」
何の話だ、という顔をしたつもりだった。
「ユニの事。」
即答。
「かわいそうだろ?あんなにしゅんとして。」
「……見てねぇ。」
事実だ。少なくとも、意識して見ないようにはしていた。
ハンジは、小さく息を吐いた。
「……見てないってさ、それは"兵士長"としても、
ちょっとおかしくない?」
……。
余計な事を言う。
「俺は、訓練を見てる。個々の感情まで、管理する気はねぇ。」
いつもの理屈。正論だ。
だが──
「へぇ。じゃあ、あの空気も?」
ハンジが、顎で訓練場の方を指す。
「名前呼ばれなくてさ、明らかに落ち込んでるのに、誰にも聞けなくて。周りの一般兵が、気を遣って声かけてるの、見てた?」
……。
胸の奥に、小さく、嫌な音がした。
「……関係ねぇ。」
絞り出すように言う。
「兵士として、公平に扱ってるだけだ。」
「ふーん。」
ハンジは納得していない顔のまま、それでも声を荒げなかった。
「ねぇリヴァイ。君さ──避けてるよね。」
一瞬。ほんの一瞬、言葉が詰まった。
「……は?」
「距離。態度。視線。」
淡々と、指を折っていく。
「分かりやすすぎ。昨日の私の煽り、効きすぎなんだって。」
……チッ。
「余計な事を言った覚えはねぇ。」
「あるある。──"ユニって、かわいいよね"。」
思い出させるな。
「……は?」
思わず、昨日と同じ返事が口から出る。
ハンジは、困ったように笑った。
「ほら、そういうとこ。」
一拍置いて、少しだけ真面目な声になる。
「ユニはさ、理由も分からず、兵士長に距離取られてる。自分が何かしたのかって、真面目に考えちゃうタイプだよ。」
……知ってる。
知ってるから、見ないようにしている。
「君がどうしたいかは、私には分かんない。」
そう前置きしてから、
「でも、"何もしない"って選択は、もう、誰かを傷つけてる。」
その言葉は、妙に静かで。逃げ場を、きっちり塞ぐ言い方だった。
俺は、無言で視線を逸らす。
ハンジはそれ以上踏み込まない。
「……ちょっと、考えなよ。」
それだけ言って、踵を返した。
1人残される。
頭の中を、また無にしようとする。
──関係ねぇ。
──余計な感情だ。
──仕事に支障は出してねぇ。
……本当に?
ふと、浮かぶ。
訓練場で名前を呼ばれなかった時の、ユニの一瞬の表情。
気づかれない程度に、ほんの少し肩が落ちた事。
それを、見なかった事にしたのは──
「……クソ。」
誰に向けた言葉かも分からず、小さく吐き捨てた。
上手くやれ、だと。
そんな器用さがあったら、こんなところで立ち止まってねぇ。