第3章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
訓練場。
対人格闘術。
向かいに立つ兵士が、僅かに息を呑むのが分かった。
──いつもより、近い。
俺は構えを取る。
「……始め。」
号令と同時。一歩、踏み込む。
速さは、いつも通り。動きも、正確だ。
──なのに。力が、余っている。
相手の腕を取って、崩して、投げる。
着地の音が鈍い。
「……っ!」
「立て。」
間髪入れず、次。
脚を払って、受け身を取る前に、押さえ込む。
「遅ぇ。」
言葉が、自然と鋭くなる。
相手が悪いわけじゃねぇ。
分かっている。
だが──頭の中に、どうしても浮かぶ。
昨日。その前の日。距離を取ろうとして、不自然になった自分。
「……チッ。」
舌打ち。
相手の襟を掴んで、引き起こす。
「次。」
兵士の動きが、固い。
当たり前だ。
俺自身が、落ち着いていねぇ。
「兵長……、」
誰かが声をかけかけて、やめた。
それでいい。
今は──何も聞くな。
動けば、考えなくて済む。
考えなければ、心も追いつかねぇ。
……はずだ。
最後に一気に間合いを詰めて、床に叩き伏せる。
「終了だ。」
短く告げて、その場を離れる。
背中に、視線が刺さるのを感じながら。
──くだらねぇ。
自分の心ひとつ、制御できねぇとはな。
拳を軽く握りしめて、すぐに開く。
……問題ねぇ。
そう、思い込ませるしかなかった。
訓練場。
今日は、対人格闘術。
組み合わせは、リヴァイ兵士長がその場で指名していく。
「──次、そこ。お前と、お前だ。」
淡々とした声。
呼ばれていく名前の中に、私の名前は、ない。
……珍しい。
これまでは、技の確認や見本を兼ねて一度は呼ばれる事が多かったのに。
私は壁際で順番を待ちながら、リヴァイ兵士長の動きを見ていた。
……少し、荒い。
相手を転がす動きが、いつもより強い。
必要以上に踏み込んでいるように見える。
倒された兵士が、息を整えながら立ち上がる。
「だらしねぇ。本番なら、もう死んでる。」
低い声。
いつも通りの言葉。……の、はずなのに。
胸の奥に、小さな引っかかりが残る。
──何か、機嫌が悪い……?
理由は思い当たらない。
少なくとも私は、何かした覚えはない。……多分。
訓練が終わる。
解散の合図が出て、皆が装備を外し始める。
私は、リヴァイ兵士長の方をちらりと見た。
目が合う前に、視線が逸らされる。
……え?
一瞬遅れて、胸がきゅっと縮む。
気のせい?それとも──
「ユニ。」
声に、はっとして振り向く。
ハンジ分隊長だった。
「お疲れ〜。いやぁ、今日はリヴァイ、キレてたね。」
「……やっぱり、そう見えましたか。」
思わず、そう返してしまう。
ハンジさんは、少しだけ目を細めた。
「うん。分かりやすいくらい。」
……分かりやすい。
私がそう感じるくらいだから、相当なのかもしれない。
「何か、あったんでしょうか。」
自分で言っておきながら、答えが欲しいわけじゃない。ただ、確認したかっただけ。
ハンジさんは、肩をすくめて笑った。
「さあねぇ。本人に聞いてみたら?」
……それができたら、苦労しない。
私は、小さく首を振った。
「いえ……私、何かしたのかなって、少し思っただけです。」
ハンジさんが、一瞬だけ言葉を止める。
それから、にやりと笑った。
「へぇ。」
……その反応は意味ありげで、ちょっと怖い。
「大丈夫、大丈夫。たぶんね。」
たぶん。
その言い方に、余計な不安が生まれる。
私は兵舎の方へ歩きながら、もう一度だけ振り返った。
少し離れた場所で、リヴァイ兵士長は黙って装備を外している。
……やっぱり。
いつもより、距離がある気がした。
理由は、分からない。分からないけれど──
近頃のリヴァイ兵士長は、少し、変だ。
その事実だけが、胸に残っていた。