第3章
夢小説設定
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その日の夕方。
廊下の向こうから、ユニが歩いてくるのが見えた。
1人。資料を抱えている。
いつもならそのまま横を通すか、短く声をかける。
──が、俺は無意識に、進路を変えた。
距離を取る。視線を外す。
……よし、完璧だ。……の、はずだった。
「リヴァイ兵士長。」
呼ばれて、止まる。
しまった。
「……何だ。」
振り向くと、ユニが立っている。
いつもより、ほんの少し近い。
「何か……私、しましたか?」
首が、傾く。
「?」
その表情。
困惑。心配。探る色。
……くそ。
「別に。用はねぇ。」
いつもより、少し硬い声。
ユニは一瞬だけ黙ったあと、
「……そう、ですか。」
そう言って、一歩下がる。
──が、次の瞬間。
フッと、力の抜けた表情になる。
ほんの小さな、柔らかい微笑み。
口角が、僅かに上がるだけ。
誰に見せるでもない。誰かに向けるでもない。
──俺にだけ、向けられた顔。
「でしたら……良かったです。」
安心したように、そう言う。
……。
まずい。これは──非常にまずい。
「……用がねぇなら、行け。」
ぶっきらぼうに言うと、ユニは少し驚いた顔をして「……はい」と素直に頷き、そのまま通り過ぎていく。
小さな足音が、遠ざかる。
1人になった廊下で、俺は壁に手をついた。
距離を取る。視線を外す。態度を硬くする。
──全部、逆効果だ。
あいつは、拒絶されたとは思わない。ただ「心配になる」だけだ。
……それが、一番厄介だ。
俺は、小さく息を吐いた。
俺自身がもう──距離を取る側でいられなくなってる。
その事実を、認め始めている。
……チッ。
無自覚で、何度刺す気だ。ユニ。
ほんとに、質が悪い。
◇
数日後。
午前の訓練が終わり、兵舎内はいつもの雑多な空気に戻っていた。
俺は廊下を歩きながら、意識的に視線を前だけに固定する。
余計なものは見ない。考えない。判断しない。
……そのはずだった。
「リヴァイ兵士長。」
後ろから、聞き慣れた声。
反射で足が止まりかけるのを、理性で抑える。
──止まるな。
「何だ。」
振り返らずに返す。
足取りは、変えない。歩調も、一定。
「次の指示の確認をしたくて……。」
すぐ後ろ。距離が、近い。
……近いな。
「書類は掲示板に出てる。それを見ろ。」
いつもより、少しだけ硬い声。
自覚はある。だが、引き返すわけにはいかない。
「はい。」
素直な返事。それが、背中に突き刺さる。
──余計なことを考えるな。
曲がり角。
俺は、ほんの一瞬だけ進路をずらす。
避けるために。
「……?」
足音が、止まった。気配が、僅かに揺れる。
──しまった。
だが、戻らない。止まらない。
「他に用はねぇな。」
言い切る。
「……いえ。」
一拍の間。
「……何か、ありましたか。」
来た。
問いかけ。ただの確認。責める色はない。
だからこそ、厄介だ。
「何もねぇ。」
短く、切る。
それ以上の会話を、許さない声音。
それで終わる──はずだった。
「……?」
まただ。
首を傾げる気配。見なくても分かる。
視線が、俺の背中に刺さっている。
「……リヴァイ兵士長?」
困惑。それと、ほんの少しの不安。
──違う。それ以上は、考えるな。
俺は、一段声を落とした。
「用がねぇなら、戻れ。訓練後だ。休め。」
命令。それで、終わらせる。
「……はい。」
従順な返事。
足音が、少しだけ遠ざかる。
──よし。
胸の奥で、息を吐く。
……上出来だ。
距離を取った。余計な接触もない。視線も、合わせていない。
完璧だ。
……なのに。
背中に残る、あの「?」の気配。分からないままの、無垢な視線。
──クソ。
これは、良くねぇ兆候だ。
距離を取っているはずなのに、意識は逆に──
……いや。考えるな。
俺は、歩調を速めた。
次にすれ違う時も、同じようにする。
ただの上官と部下。それ以上でも、それ以下でもねぇ。
そういう距離に、戻すだけだ。
……戻す、だけだ。
そのはずなのに──
胸の奥で何かが小さく軋むのを、俺は、見ないふりをした。