第1章
夢小説設定
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執務は滞りなく進んでいる。
報告の処理、物資の配分、定例の確認事項。どれも、いつも通りだ。
机の上には、あの封筒がある。視界に入る位置に置いたまま、私は一度も開封しなかった。
中央を通過してきた書類。つまり、誰かが「通した」。流せば済む話を流さなかった理由が、どこかにある。
私は別件の名目で、書記官を呼んだ。調査兵団とは無関係な、定期的な問い合わせだ。手続き上、何の問題もない。
「最近中央から戻ってきた書類で、処理に時間がかかったものはあるか。」
問いは曖昧で、目的は伏せている。
書記官は少し考え、いくつかの案件を挙げた。その中に、憲兵団経由の人事書類が混じっていた。
私はそれ以上、深く聞かない。名前も内容も、求めなかった。確認したのは、流れだけだ。どこで止まり、どこで再び動いたのか。
中央は、この件を把握している。だが、潰す判断はしなかった。
──ならば、理由はひとつだ。
私が動けば、気づかれる。動かなければ、通した意味がなくなる。
執務室の外で、廊下を行き交う足音が少し増えてきた。定時前。各班の報告が上がり始める時間帯だ。
私は書類に視線を落としたまま、ペンを動かす。封筒は、相変わらず机の端に置かれている。
この時間になると、確認のために誰かが立ち寄る事もある。特別な用件がなくても、進捗の擦り合わせだけで顔を出す者もいる。
その中に、あの男が含まれていても不思議ではない。だが、だからといって呼ぶ理由はない。
私は封筒から目を離し、次の書類に手を伸ばした。置いてあるという事実だけが、そこに残る。
「……急がせる気はない、か。」
誰に向けた言葉でもない。中央が、ではない。彼女自身が、だ。
今はまだ、私が出る段階ではない。だが、この紙が「偶然ここに来たわけではない」ことだけは、中央の沈黙が示している。
私は封筒の位置を、ほんの数センチだけ整える。見えすぎず、隠れすぎず。
日常の中に置いておくための距離だ。
選択は、すでにこちらへ届いている。それをどう扱うかは──流れが、次に運んでくる。