短編
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最初は、気のせいだと思っていた。
「兵長、好きです。」
通りすがりに言われても、返事はしない。冗談か、勢いか、その程度だ。
「今日も素敵ですね。好きです。」
作戦前でも、作戦後でも変わらない。何を考えているのか分からない顔で、同じ言葉を置いていく。
──無視していれば、そのうち終わる。
そう思っていた。だが、終わらなかった。
「兵長、好きです。」
声の調子は変わらない。期待もしないし、試すような目もしない。ただ、言う。それが厄介だった。
拒めばいい。
線を引けばいい。
だが、言葉の端に、要求がない。代わりにあるのは、妙な安定感だ。
──あぁ、また言っている。
いつの間にか、そう認識するようになっていた。聞いている。聞かされている。
それに気づいた時点で、もう遅い。
「兵長、好きです。」
ある夜、書類から顔を上げると、ユニがいつもの距離に立っていた。
「……用件はそれだけか。」
「はい。」
即答。
笑いもしない。逃げ道がない。
俺はしばらく黙っていた。言葉を探しているわけじゃない。事実を確認している。無視できなくなった。聞き流せなくなった。
それは、愛されていると知ってしまったという事だ。
愛される事を、俺は知らなかった。
だから、どう扱えばいいのかも分からなかった。
「……毎回言う必要はねぇ。」
「やめたほうがいいですか。」
初めて、少しだけ揺れる。
「いや。」
答えは、もう決まっていた。
「やめるな。」
ユニの目が、僅かに見開かれる。
胸の奥が、静かに落ち着く。
これが何なのか、名前はまだつけない。
だが──逃げる気はなかった。
「兵長。」
いつもと同じ声。
「好きです。」
今度は、視線を逸らさない。
「……俺もだ。」
それだけで、十分だった。
愛される事を知って、ようやく分かった。
愛するというのは、こういう敗北だ。
悪くない。