短編
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夜は深く、物音はほとんどない。
見回りを終えて戻っても、眠気は来なかった。
天幕の外で立ち止まる。
風の向き、布の擦れる音。
異常はない。
だから、余計なことを思い出す。
あの言葉だ。
戦闘の後でも、別れの前でもなかった。
特別な夜じゃない。
ただ、並んで座っていた時だった。
「ねぇ。」
呼ばれて、顔を向けた。
「もしもの話だけど、」
前置きが、妙に慎重だった。
「もしもこの先、私が死ぬ時は──君のとなりで死にたい。」
冗談でも、覚悟でもない声。
淡々としていて、だからこそ残った。
俺は、その時何も言わなかった。
否定もしなかったし、肯定もしない。
答えを出すには、その言葉は重すぎた。
今も、重い。
横になる。
天幕の中は、ひどく静かだ。
誰かの呼吸はない。
体温もない。
それなのに、あの時の距離だけが、やけに正確に思い出せる。
──隣で死にたい、か。
守りたいとも、一緒に生きたいとも違う。
逃げ場のない言葉だ。
俺は天井を見つめたまま、目を閉じる。
死に方を選べるほど、この世界は優しくない。
だが──もし、隣に誰かがいるとしたら。
最後に見る景色があるとしたら。
それを思い浮かべてしまった時点で、もう答えは出ているのかもしれない。
口にはしない。
誰にも言わない。
ただ、あの言葉は消えない。
夜が明けるまで、静かに、そこにある。