短編
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夜の執務室は、静かだった。
書類の山は片づいている。
つまり、考え事をする時間ができてしまったという事だ。
「まだ起きてたのね。」
振り向くと、君が立っていた。
いつものように、許可もなく。
「あぁ、少しだけ。」
嘘ではない。少し、だ。
ほんの少し、君の顔を見たかっただけだ。
向かい合って座る。距離はある。だが、遠くはない。
「今日は、顔色がいいね。」
「それは、褒め言葉か?」
「もちろん。」
そう答えながら、それが明日も続く保証はない事を同時に考えている自分に気づく。
俺は、いつもそうだ。今を見ながら、同時に未来を失う準備をしている。
「……君に、言っていない事がある。」
君は何も言わず、続きを待つ。
それができる人だと、知っている。
「俺は──」
一度、視線を落とす。
言葉を選んでいるふりをしながら、本当は、選ばない方法を探している。
──だが、今日は逃げない。
「俺が望んでいるのは、英雄になることでも、歴史に名を残すことでもない。」
君の表情が、僅かに揺れる。
「望むのは──」
声が低くなる。
それでも、はっきりと言う。
「君と共に生きる人生だ。」
沈黙が落ちる。
長くはない。
だが、軽くもない。
「……それは──」
君が言葉を探す前に、俺は続ける。
「分かっている。それが、俺の選択肢に必ず含まれるものではない事も。」
だから、約束はしない。
未来の話もしない。
「ただ、望んでいる。」
それだけだ。
君はしばらくこちらを見つめてから、小さく息を吐いた。
「……あなたらしい。」
「そうかな。」
「うん。とても、あなたらしい。」
それ以上、言葉は交わさない。
触れもしない。
だがその静けさの中で、確かに同じ時間を生きている。
それでいい。
人生を共にすると言うには、この世界はあまりに残酷だ。
それでも、望むことまで奪われる理由はない。
私は、今日も前を向く。
君も、隣で歩いている。
それだけで、胸の奥が少しだけ痛む。
──それでいいのだと思える程度に。