851年~
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「…気の毒…だったね。助けが来たと思ったら、まさか裏切り者だったなんて…。」
私はなぜか一人、捕虜のいるテントへと置いてかれた。先ほどまでと違うのは私が立体機動装置を身に着けているという事で。立体機動装置を着けているならば私一人で大丈夫だろうと、外に104期生達を待機させているとはいえここに入れられた。それはなぜか考えると、彼らの話を聞き、寄り添ってあげてほしいというリヴァイの慈悲…なのではないかと思う。
「クソ…なんでこんな事に…!」
「…とりあえず、食事を摂って。ここで死ぬなんて、死んでも死にきれないでしょう?」
「うるさいっ!こんな不味い飯、食えるわけないだろ!」
ガシャン!と音を立て、食事を乗せたトレーがひっくり返る。幸い零れたのは一人分で、全部を分ければ被害はそこまで大きなものではなさそうだ。
「不味くても、食べなきゃ。じゃないと、私を倒して逃げるって計画も、達成できなくなっちゃうよ。」
「!」
「ふふ…。とはいえ、立体機動装置を着けた私は強いからね。じゃなきゃ、あの過保護なリヴァイが私一人をここに残していくわけがないし。」
「…なんなんだ、その、立体機動装置って…。」
「おい、ニコロ…!」
「て、敵の強力な武器の仕組みくらい、知ってて損はないだろ!?」
「もう、喧嘩しないで。余計にお腹が空いちゃうでしょ。立体機動装置の使い方くらい教えるから、その代わりに食事を摂ってね。」
「………。」
良かった。ほんの少しではあるが会話をしてくれそうだし、食事も摂ってくれるようだ。「不味い…」と言いながらスープで流し込んでいるのは申し訳ないが、もしかしたらマーレの料理は美味しいものばかりなのかもしれない。
「反マーレ派の、義勇兵…。」
話し合いのあと私を呼びに来たリヴァイは、私が立体機動装置の使い方講座をしている様を見て「何してんだ…てめぇ…」と眉間の皺を深くさせたのち、「交代だ」と代わりの見張り二人を入れ、リヴァイの使っているテントへとお呼ばれされた。そして聞かされたのは、彼女らの目的。彼女…イェレナは、獣の巨人、ジークにえらく心酔しているらしい。そしてそのジークの指示を受け、こうしてマーレの船に乗り、我々との接触を計ったのだという。
「なんか…、…私みたいだね、イェレナって。」
一連の話を聞いて最初に浮かんだのは、それだった。いくら信じているとはいえ、ジークなしでほぼ単身で敵国にやってくるなんて、彼女のジークに対する信仰心は本物だ。長年エルヴィンの元で似たような事をやってきた私だからこそ分かるその本気度は、怖さすら感じる。まさか、私も傍から見たらあんな感じだったのだろうか。
「…全然違ぇよ…。お前のは、もっと純粋で、綺麗だ。」
「!…まさかリヴァイの口から、そんな言葉が出るなんて…。」
「うるせぇな。他にいい言葉が浮かばなかったんだ。」
「怒らないでよ。リヴァイからそう言ってもらえて、嬉しいよ。ありがとう。」
リヴァイがそう言ってくれるのなら、きっとそうなのだろう。今や私の中では、リヴァイの言葉が一番信じられるものになっている。
「それでこちらは、そのジークの提案を飲むつもりなの?」
「…どうだろうな。個人的には、奴がのこのことこの島に来た瞬間に殺してやりてぇぐらいだが…。」
「…リヴァイがやると言うのなら、協力するよ。もちろん多方面から追われる事になるだろうけど…その時はどうにかしてルーカスも連れて、三人で隠れて暮らそう。」
「!…ほぅ…それは、ずいぶん魅力的な提案だな…。」
「ふふ…悪魔の囁きかもしれないから、気をつけてね。」
近々…明日にでも、王都へこの情報を伝えなければならず、そうなれば会議が開かれるだろう。その時に調査兵団はどのように捉えているか、また何ができるか問われる事になるだろう。そのために、まずは私達三人だけでも、意見を揃えておいた方がいい。
「私は…一旦は受け入れるしかないと思っている。」
ハンジさんのいるテントで今後どうするのかと率直に尋ねると、彼女はそう答えた。まぁ、私も同じ考えだ。今のいまどうするか聞かれて、全てを受け入れる事はあまりにリスクが大きすぎる。それこそエルヴィンぐらい戦略性に長けていて決断力がある人間ならばその決断ができるのかもしれないが、あいにく現状ではそのような人間はいない。というか、この先彼ほどの人間が現れる事などありえないのではないだろうか。とにかく、敵の提示してきた条件を全て鵜呑みにするわけにはいかない。とりあえず、現状は一旦受け入れる…というところに落ち着けるしかないようだ。
「これ以上争わなくて済む可能性があるなら…その方がいい。」
我々だけではこの先どうすればいいか、どんな手段があるのか、分からない。一旦は条件を受け入れ、その手段を聞き出してからが本番だ。
「おい、ユニ。風邪をひくぞ。テントに戻れ。」
「……リヴァイ…。よく…ここが分かったね。」
話し合いを終えて解散したあと、私は一人"楽園"と呼ばれる壁の上へとやってきた。ボロボロになった、野営用のブランケットだけを持って。それに包まって静かなここで横になっていたら自然と瞼が降りてきて、自然の音に耳を済ませていたら立体機動の音がして、リヴァイがやってきたというわけだ。
「ここは暗くて空が広いから、星がよく見えるの。」
「…そうだな。」
「…人は死んだら星になるとか、そういう話もあるでしょう?信じてるわけじゃないけど、あの中にエルヴィンもいるのかなって思って…。」
「そうか。…で、どうだった?」
「うん…。…ふふ、全然分かんない。」
「だろうな。」
ガシャ、とすぐ側で音がして見てみるとリヴァイが隣に腰掛けていて、視線を空へと向けていた。目の前にある手に触れると、私の手よりも温かかった。
「今日はたくさんエルヴィンを思い出したから…寂しくなっちゃって…。」
「そうか。」
「これもね、エルヴィンとの思い出が詰まったものなの。もう10年も使ってるから、ボロボロなんだけど…。」
「…ユニ。無理をするな。泣きたければ、泣けば良い。」
「…!」
私は、一人になりたかった。一人になって、静かにエルヴィンを思い出したかった。でも、それができなかった。
「っ私…、エルヴィンとの思い出はたくさんあるの…。でも…、もうエルヴィンの匂いも、エルヴィンの顔も…、だんだん思い出せなくなってて…!!」
あんなに好きだったのに。あんなに一緒にいたのに。あんなに、近くにいたのに。
「忘れるのが、怖い…!嫌だ…!私の中から、エルヴィンがいなくなるなんて…っ!」
「ユニ…大丈夫だ。いなくならねぇ。顔を忘れたからって何だ。お前の隣にエルヴィンがいた事は、紛れもねぇ事実だ。勝手に、なかった事にするな。」
「…っ!」
「俺が保証する。お前がいて、エルヴィンがいて、お前らはお互いを愛し合っていた。だからルーカスが産まれたんだろうが。」
「っ…、リヴァイ…!」
「顔を忘れたぐらい、てめぇが死んだ時に直接謝ればいい。その時には顔も思い出してるだろうし…そもそもそう簡単には、死なせんがな。」
リヴァイがいてくれて、良かった。
エルヴィンが死んでから、私はどこか夢を見ているかのようだった。目の前の出来事が何となく現実味がなくて、夢の中を歩いているかのような、そんな感覚。心が麻痺してしまって、自身のそんな小さな違和感に、今まで気づけなかった。それが今、リヴァイの言葉で決壊して、そして、綺麗さっぱり流れていったような気がする。
「…ありがとう…、リヴァイ…。もう少し、こうしててもいい…?」
「あぁ、もちろんだ。」
リヴァイは、優しい。誰に対しても優しいが、私に対しては、特に。そんな彼の優しさに甘えていながら申し訳なさを感じている自分が、許せないと思った。