余談
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「ユニ、ちょっといいか?」
「はい。どうされましたか?」
「調べたい事があるんだが、資料を探すのを手伝ってはくれないだろうか?」
「もちろんです。お手伝いさせてください!」
エルヴィン分隊長の班へと配属されて数ヶ月。配属から初めての壁外調査をつい一昨日終えて、私達の隊は死傷者を出さずに帰ってこられたと、他の隊の団員に比べると比較的穏やかに1日を過ごしていた。そんな中エルヴィン分隊長から頼まれた資料探しは、今回の壁外調査の報告書を書くために必要なものだというのでそのまま二人揃って、資料室へと足を向けた。そうして手分けしてファイルをいくつかピックアップしてそろそろ出ようかと資料を纏めていたら男女が二人あとから入ってきて、あろう事か愛を囁き始め、その上キスまでし始めるので気づいた時には出るに出られない状況になってしまっていた。
「どうしましょう…。」
分隊長の着ているジャケットを軽く引いてほぼ口パクの囁き声で尋ねるが、彼も困ったように眉を下げるだけで。そしてそっと彼らの方を覗き込んで、その大きな瞳をさらに大きく見開いた。
「?……!」
気になって私も覗き込むと、二人はキスをしながらお互いの服を脱がせあっていて、今まさにここで、キスよりも先の行為を始めようとしているところで、バッと勢いよく視線を前へと戻した。人のそんなところなんて、見たくはない。いよいよ、どうしたらいいのか分からない。
「…ゴホン。」
「!…やば…!」
分隊長がいてくれて、助かった。
わざとらしい咳払いで、二人は慌てた様子で服を着直し、数秒後には部屋を出ていった。それを耳で確認してようやく、無意識に止めていた息を思いきり吐き出した。
「はぁーー…。…ありがとうございます、エルヴィン分隊長…。」
「いや…、…すまない。壁外調査のあとでああいうのが増える事を失念していた。一人で来させなくて、本当に良かったよ…。」
ポン、と乗せられた大きな手は、そのままヨシヨシと私の頭を撫でた。エルヴィン分隊長はいつもこうして、私の頭を撫でる。背の高さがちょうどいいのだろうか?私としては嬉しいので、いつも何も言わずに受け入れているのだが。
「壁外調査のあとは、増えるんですか?なぜ?」
純粋な疑問が浮かび、分隊長を見上げる。彼ならその理由を知っていると思ったから。しかし彼は珍しく少し視線を泳がせて、すぐには明確な答えを教えてはくれなかった。
「うーん…、そうだな…。…君は、ああいう経験は?」
「えっ、…ないです…。」
「…そうか。…まぁ、人間の本能、だろうな。身近な人の死を目の当たりにして、自分もいつかああなるだろうと、誰もが思っている。」
「…そう、ですね。」
「だから死ぬ前に、自分の子孫を残そうとするんだ。今回は生きていたが…次は死ぬかもしれないからな。」
「それが、人間の本能だから、ですか…?」
「そうだ。」
「…エルヴィン分隊長も、そうなんですか…?」
それが人間の本能だというのなら、分隊長もああいう事をするのだろうか。どうしても、それが気になってしまった。経験のない私には、その気持ちが分からなかったからだ。
「…私には、あいにくそういう相手はいないからな。」
「ならお相手がいらっしゃったら、分隊長も?」
「そうかもしれないな…。…ユニ、こういう話は、私だけにしなさい。」
「?なぜですか?」
「君は純粋に聞いているんだろうが、そこにつけこもうとする奴がいてもおかしくはない。ましてや今は壁外調査直後だ。冷静じゃない奴もいるだろう。」
「えぇと…、承知しました。」
つけこむとは…?とは思ったが、さっきからいくつも質問を重ねているので何となく聞きづらく、とりあえずこういう話はエルヴィン分隊長だけにすればいいのだという事さえ分かればいいかと了解の言葉を口にした。しかし彼にはちゃんと私が理解していない事などバレてしまっているようで「分かってないな…?」と至近距離で瞳を覗き込まれた。
「あ、あの…、…すみません…。」
「…いや、謝る事じゃない。分からないのは、君が純粋で、綺麗だからだ。それは君のいい所だから、そのままでいてほしい反面……危なっかしくて、目が離せない所でもあるな。」
「えぇと…、…私は、どうしたら…。」
もう当初の目的である資料探しなんてそっちのけで、手に持っていたファイルは彼に奪われ、すぐ隣の棚の上へと避けられた。
そして今度は上から威圧的に、さっきよりも近い距離で覗き込まれ、思わずその近さに体が強ばった。すぐ背後にはファイルが並べられた本棚があり、これ以上後ろへは下がれない。
「こうされてしまえば、君はもう逃げられないな。君の純粋さは、隙になる。隙を見せればこうなる可能性が……、…ユニ?」
「い、いえ…、なんでもありません…。」
顔が熱くて、赤くなっているのがバレぬよう視線を下へと向けた。だってエルヴィン分隊長…顔が綺麗すぎる…!分隊長は私に色々と教えてくれようとしているのに、私はそれをこうして喜んで顔を赤くさせているなんて、申し訳なさすぎる。
「…もしかしたら君には、荒療治の方が向いているのかもしれないな。」
「えっ?…っ!!」
「この状況で君は、どうする?流されるか?」
額に触れる感覚とすぐ目の前に迫ってくる感覚。少し視線を上げると想像通りキスしているのではないかと勘違いしてしまいそうな距離にエルヴィン分隊長の顔があって、思考が停止した。ただ私は彼の事が好きなのだと、それだけははっきりと分かって、心臓がドキドキと大きな音を立ていた。
「…!…ユニ、君…。」
思考は確かに停止している。しかし嫌だとか逃げようだとかそういう気持ちはなく、むしろこのまま見つめ続けたら彼はどうするのだろうと思い、じっと彼の瞳を見つめた。それに顔が赤いのなんてもうバレてしまっているわけだし、もうどうにでもなれと思った。
「…流されるのは、良くないぞ。君は美人なんだから、男が放っておかないだろう。」
「エルヴィン分隊長は、放っておくんですか?」
「!…、さぁ…どうしようかな…。」
我ながらなんて大胆なのだろうと思った。大した経験もないのに。離れていきそうな雰囲気の彼のシャツを掴んでまた数秒見つめあって、こちらから少し顔を近づけても逃げる素振りを見せなかったので、そのまま自身の唇を押し当てた。そうしたら向こうからも優しい圧を感じて、さっきの二人のように今度はお互いに、唇を重ねた。
「…君は…意外に大胆な事をするな…。」
「荒療治の方がいいと、仰っていたので…。」
「まぁ、男を知るのには、確かにいいのかもしれない。…だが、流されるのは良くないな。」
「…エルヴィン分隊長は、私が流されたと…そうお思いなんですか?」
「!」
私は今、どんな顔をしているのだろう。
私は好きな人とキスができて、嬉しい。しかし私のその想いを彼は知らないから、切ない。
「…すみません。答えづらい事を聞きました。私はまだ未熟なので、知らない事ばかりなのです。だから…、色々教えてください。……それと、これから私の事を知っていって下されば、嬉しいです。」
「…そう、だな。考えてみれば、私はまだ、君の事をよく知らない。…良ければ今度、食事に行こう。君が嫌でなければ。」
「!本当ですか…!嬉しいですっ!」
良かった。あんな事をした手前どう振る舞えばいいか迷ってしまったのだが、エルヴィン分隊長は良くも悪くもいつも通りに振舞ってくれ、私もいつもの調子に戻る事ができた。これが、大人の余裕というやつかもしれない。
当初の予定であった資料を忘れずに手に取り資料室を出る頃にはいつも通りの私達で、既に私の思考も次の休暇へと向いていたのであった。