851年~
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「行ってらっしゃい、ユニ。…リヴァイ兵士長も、また来てね。」
「うん。ありがとう、お母さん。ルーカスも、行ってきます。」
実の母にルーカスを託し、私は今日も、壁外へと赴く。いや、壁外へ赴くというよりは、最近は壁外で過ごす時間の方が多くなってきている。それもこれも、調査兵団の働きによりウォールマリアを奪還した後も壁内のみならず島の中の巨人達をも淘汰し尽くし、安全と呼べる地域が壁の外にまで広がったからだ。
我々は今、敵のやってくるであろう壁から南の地に簡易的な拠点を置き、敵がやってくるのを今か今かと待ち構えているところであった。
ゆえに、安全地帯ではあるがいつ敵が上陸してくるか分からない危険地帯ともいえるそこに、ルーカスを置いておくことはできない。だから母の家にこうしてルーカスを預け、数週間置きに顔を出しに帰る…というのが最近の日常だ。
「ルーカス…また大きくなってたな…。」
「…そうね…。何となく表情も豊かになってた気もするし…少し、寂しいな…。」
「…お前も、壁内で暮らせばいいじゃねぇか。」
「何言ってるの。今が踏ん張りどころでしょ。」
あと少し…あと少しがんばれば、きっと壁内人類も壁の外で暮らせるようになる。ルーカスにも、あの綺麗な海を安全に見せてあげる事ができるようになるだろう。本当の本当に、壁の外の世界が安全と呼べるようにさえなれば。
「それに、リヴァイの事も心配だし。」
「あ?」
「…ふふ。リヴァイは私がいないと、ろくに寝られないでしょ?」
「……別に寝なきゃ寝ねぇで、それが普通になる。」
「だからそれが良くないから心配だって言ってるの!」
「そうか…。…ありがとうな、ユニ…。」
ふ…とリヴァイが優しく表情を緩める。最近、よくこのような表情を浮かべる事が増えた。といっても主にそれはルーカスへと向けられているのだが、今みたいに私に向ける事もしばしば。ルーカスに対する想いを加味するとその表情には愛おしさなどが含まれていそうなものだが、それがこちらにも向けられているのだと思うと…どうにもむず痒い。リヴァイがいま私にどんな感情を向けているのかは、未だ分からずにいるのだ。
「!…私達がいない間に、何かあったみたいね…。」
数日かけて海辺の拠点へと戻ってくると、周囲は荒れていた。よく見てみると船が砕けてその辺に散らばっていて、海の向こう側から敵がやってきたのだと推測するには充分であった。とはいえ既に騒ぎは収まっているようで、私達がここを発ってから今日までの1週間の間に何かがあったようだ。
「ハンジさん。ただいま戻りました。」
テントが立ち並ぶ一角の一際大きなタープを潜ると、中にはハンジさんと、数名の104期生達の姿があった。パッとこちらを見たハンジさんは、あからさまに表情を明るいものに変えた。
「!ユニ、リヴァイ!おかえり。外の様子を見てだいたいの予想はつくと思うけど、敵の船を1隻沈めたよ。」
「そのようだな。いつだ?」
「昨日!」
「なら、船の残骸は早めに片付けましょう。帰ってこないとなれば、何かあったのかとまた船を送ってくるでしょうし。」
「それと、敵は何人捕らえた。どこにいる。」
「あぁもう、君ら仕事ができすぎるな!頼もしいったらないよ!とりあえずまずは荷物を置いてきなよ!」
確かに緊急事態というわけでもないのだし、まずは移動で疲れた体を休ませるべきでもある。
ハンジさんと二人で使っているテントへ行き服を着替え本部のテントへ戻るとリヴァイの淹れたお茶が用意されており、そこでようやく椅子に腰掛ける事ができた。
「先に楽しい話からしようか。久しぶりに会ったルーカスとの時間は、どうだった?」
「そりゃあ幸せな時間でしたよ。帰りたくなかったくらいに。ね、リヴァイ。」
「あぁ、そうだな。」
「そりゃよかったよ。帰ってきてくれてありがとう、二人とも。しかし、君のお母さんも変わった人だよね。夫でもないリヴァイを何も言わず迎え入れるなんてさ。」
「ハンジさんも仰ったように、母は変わった人ですからね。それに、リヴァイを気に入っているんでしょう。」
もしくは、わざわざ私が家にまで連れていったから信用しているのかもしれない。はたまた、その両方か。
「それで、私達が楽しい休暇を過ごしている間に一体何があったんですか?」
「うん…、まぁ想像通り、敵の調査船が1隻、ここにやってきたんだ。その船をエレンが沈めて、船員は全員一番遠くのテントに捕らえている…ってところかな。人数は10名。見張りは交代制で、3人体制で回してる。」
「なるほど…。時間はどのくらいの間隔で回してるんですか?」
「3時間おきだ。…そろそろ交代のタイミングだな…。」
「なら、俺が交代しよう。」
「いや…私が行くよ。敵の懐に入るには、私の方がいいでしょ?」
「…確かに、もしも私が敵なら、ユニ相手なら心を許してしまうかもな。」
「それはそうかもしれんが、ユニが行くなら俺も行く。じゃなきゃ許可できねぇ。」
「うーん…君らはなるべく分散したいんだけど…まぁリヴァイの気持ちも分かる。…分かった。それでいいよ。じゃあ行こうか。」
残った紅茶を飲み干して、揃って外へと出ると「ユニさん、リヴァイ兵長、おかえりなさい」と104期生達に声をかけられた。やはりこちらの方が、私の帰ってくる場所という感じがする。「ただいま。お土産買ってきたから、みんなで食べてね。ひとり一個だよ」と伝えて奥のテントへと足を進めるとそちらからは聞き慣れない声が聞こえてきて、やはり敵というだけあって我々を罵るような言葉ばかりが聞こえてくる。まだ若い104期生達はそれに言い返してしまうので、余計にヒートアップしているようであった。
「こんにちは。ユニ・クラインと申します。我々調査兵団の中では2番目か3番目に偉い人…なのかな?よろしくね。」
「やぁ、マーレの皆さん。この子は今の自己紹介通り、調査兵団で2番目に偉い子で、こっちの目つきの悪いのが、3番目に偉い奴です。」
「いややっぱり、私が3番目かも。私はほら、ブランクがあるし今の役職は仮の役職だし。」
「…何を、言ってるんだ…?」
「あぁ…本当に、何言ってるんだ。お前が2番目で間違いねぇ。俺はずっと、お前の部下だ。」
「えぇ…、じゃあまぁ…それでいいか…。」
「っ、そうじゃねぇ!そんな事はどうでもいいって言ってるんだ!本当に腹立たしい奴らだな…!この、悪魔どもめ!!」
「悪魔…悪魔か…。まさか自分自身がそう言われるとは思ってなかったなぁ。」
私達の中で悪魔といえば、エルヴィンの事を指す言葉だった。その言葉で自身の事を呼ばれるのは変な感覚がして、また、別に悪くないと思っている自分がいる。エルヴィンの死や大勢の仲間の死、ルーカスの出産、そして今まで知らされなかった世界の歴史を知るなど、短期間で様々な経験をした事で、感覚がおかしな事になってしまったのだろう。
「悪魔の棲む島へようこそ。マーレ人のみなさん。悪魔の囁きにはくれぐれも気をつけてくださいね。」
これは嫌味などではなく、誰かは笑ってくれるかなと思って発したのだが、笑ってくれたのはリヴァイただ一人だけであった。…少し悲しい。