845年~851年
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「すごい…。もう本当に、巨人はほとんどいないのね…。」
エレンの道案内のもと、我々調査兵団は未だかつて無いほど壁から離れて、ここまでやってきた。パラディ島とやらは、思っていたよりもずっと広いようだ。安全のため置いてきたルーカスだけが気がかりだが、産まれた報告も兼ねて母に任せてきたので、心配しているような事はなにも起こらないだろう。
「どうだ、ユニ。疲れてはいないか?」
「うぅん、全然。むしろ風が気持ちよくて、清々しい気分。巨人のいない世界って、いいね。」
それもつかの間の平和…なのだが。しかし久しぶりの壁外で、こうも巨人がいないのだ。少しくらいその今だけの平和を噛み締めたって、バチは当たらないだろう。
「この先に……。」
「!…あ……。」
エレンの視線の先。少し先の道が途切れた先に、それは突如として現れた。空の色を反射してキラキラ輝く、海……というもの。
「すごい…。…綺麗…。」
「…向こうに砂地があるな。」
初めて見る海というものにみな圧倒されたが、エレンと、リヴァイだけは違った。二人は海の際まで行けそうなルートを見つけ先に馬で坂道を降り始めていたため、我々は揃って二人の後を追った。そうして海の端っこに辿り着いて真っ先に馬を降りたのは、サシャとコニーであった。二人は急いで近くの木に馬を繋ぐと、躊躇いもなくその海へと足を踏み入れた。
「あぁぁあい!」
「目があああぁぁ!」
「うおぉぉしょっぺえぇ!!」
「…ユニ。」
「もう…。一人で降りられるよ。」
ジャンも加わった3人の元気な声を聞きながら馬を降りずに海を眺めていると、先に馬を降りたリヴァイが手を差し出してきたが丁重にお断りをした。私が降りるまで彼はここを離れはしないだろうとようやく馬を降り手綱を木へと結んでみんなの後を追うように海へと近づくと、今度はグイ、と腕を掴まれた。一体今度はなんなのだろうと振り返ると、リヴァイは至極真剣な顔で「毒かもしれねぇから近づくんじゃねぇ」と。
「…大丈夫よ。みんな、何ともないみたい。それに、魚も泳いでるしね。」
言いながらブーツを脱ぎズボンの裾を捲り終えリヴァイの手を引くと、ようやく観念したように彼もブーツを脱ぎ始めた。そうして準備を終えた彼の手を引いて海へと足を踏み入れると意外と温くて、変な感じだ。
「海って、大きいんだね。それにこんなに綺麗なら、エルヴィンにも見せたかったなぁ…。」
「…そうだな…。」
「…あ、これ、何だろう?」
「?どれだ。」
「隙ありっ!」
バシャッ!
リヴァイが私の指さした足元を見ようと身を屈めた隙に、横から自身の体ごと海の水へと倒れ込んだ。私が押したぐらいじゃ倒れないだろうと思ったのだがその通りで、一瞬耐えようとしたのち、私の体だけが倒れるのを庇うために自身もバランスを崩し、結局二人揃って海の中へ身を沈めた。
「これは確かに…、目が痛い…!」
「…ユニ、テメェ…ガキみてぇにはしゃいでんじゃねぇぞ。」
「!」
久しぶりに見た気がする、リヴァイの過保護じゃない一面。それが見られただけで、やってよかったと思った。やっぱりこっちの方が、安心する。
「あっははは!何してるんだ、二人とも!」
「おい待て…ベタベタするじゃねぇか…。お前…何してくれてんだ。」
「え?…言われてみれば、そうかも…?まぁ幸い着替えはあるし、帰ったらシャワーを浴びたらいいよ。」
「ここまで来るのに何日かかったと思ってる。ふざけんじゃねぇぞ。」
「なら私の事は見捨てたら良かったのに。そんなに嫌ならね。」
「……クソが。」
グイ、と思い切り腕を引かれ、力づくで立たされる。向こうの方ではサシャとコニーがジャンを転ばそうとしていて、その間には幼馴染3人がいる。
しかしミカサとアルミンは顔を綻ばせているが、エレンだけはボーッと海の──更に向こう側を見るように遠くを見ていた。
「壁の向こうには……海があって、海の向こうには、自由がある。ずっとそう、信じてた…。…でも、違った。海の向こうにいるのは、敵だ。…何もかも、親父の記憶で見たものと同じなんだ…。」
「……エレン。」
「…なぁ…向こうにいる敵…全部殺せば、俺達……自由になれるのか?」
エレンは、絶望している。常に自由を求める彼だから、あんなにも被害を出してなお自由を手にできなかった事に絶望するのは、無理もない事だ。
「…それは、どうだろうね…。こちらにはこちらの、向こうには向こうの、正義がある。…私達は平和に暮らしたいだけだけど…向こうはそれを、許してはくれないだろうしね。」
向こうは私達を殺そうとしている。何の罪もない、何も知らない、私達壁内人類を。…私達が、巨人になれる人種だからだ。
「…エレンの親父さんの、記憶の確認はできた。今回の壁外調査は終了だ。」
「そうだね。…着替えが終わり次第、壁内へ帰ろう。」
今までの事を考えると、今回の壁外調査は至極簡単なものだった。巨人がいないのだから、当たり前といえば当たり前だ。
「これからは本格的に、人と戦う事になるのね…。」
リヴァイとハンジさんの広げた野営用のブランケットの裏で着替えながら、これからの事を口にした。今までは向かってくるからそれに対抗するために殺してきたが、これからは、こちらが殺しにかかる事になりかねない。そうなる可能性が、多少なりともある。エレンには直接、明言はしなかったが。
「相手が人間なら、本格的に対人格闘技の訓練だな。」
「…あぁ…結局そうなるのかぁ。」
「何だかんだ、まともにできてねぇからな。」
「気が重いなぁ…。…けど、がんばるよ。」
リヴァイが対人格闘技に執着し続けている理由は、もう分かっている。私が対人との戦いになった時、一対一では確実に負けてしまうからだ。前もそうだったが、この戦いでの負けは、死を意味する。人は案外呆気なく死ぬというのを、リヴァイはもう知っている。
「ありがと、リヴァイ。交代。」
「あぁ。」
ブランケットを受け取って広げて、思い出す。その昔の壁外調査中に、エルヴィンと二人で隊から逸れてしまった時の事を。思い返してみれば、あの頃が一番楽しくて、幸せだったかもしれない。仲間もたくさんいて、彼が意を決して夢を話してくれた、あの頃が。
「…ユニ。エルヴィンの事を考えてやがるな…?」
「!…顔に出てた?」
「まぁな…。」
「申し訳ないけど、私でも分かったよ。エルヴィンの事を考えてる君は最高にかわいいんだもん。」
「…そうなんだ…?」
こんな風に褒められた時は、どう返したら良いのだろう?とりあえず笑っとくか?と笑顔を浮かべてみたらリヴァイに「クソが」と言われ睨まれてしまった。…どうやら間違えたらしい。
「さ、帰るよみんな。見落とした巨人がいるかもしれないから、くれぐれも注意するんだよ。」
「はぁい。」
この分だと、人類が壁の外で暮らせる日もそう遠くはないだろう。この海の向こう側からやってくる敵を、押さえつける事さえできれば。
エレンはまだ自由ではないと言うけれど、私はこの海を目にして、十分に自由だと思った。