845年~851年
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「エルヴィン…おかえりなさい。」
ウォールマリア奪還作戦で出た遺体の回収、埋葬は、比較的速やかに行われた。公平を期すため団長であったエルヴィンの遺体の回収は一番最後に行われ、リヴァイの話によると既に一部が白骨化していたという。その間待たせてしまっていたのが心苦しかったが、それも今日で終わった。みんなと共に埋葬された慰霊碑を前に、一同手を合わせた。
「おいユニ、大丈夫か。」
些か焦ったような声色でハンカチを差し出すリヴァイ。こうしてエルヴィンが帰ってきてようやく、彼がもう死んでしまったのだと、遅れて実感が湧いてきた。もう本当に、彼には会えないのだ。
「頭では…分かってたんだけど…、心のどこかで、エルヴィンはそのうち帰ってくるんじゃないかと、思っていたみたい…。」
「…お前らは、先に戻ってろ。コイツは、俺が何とかする。」
ハラハラと、静かに涙が頬を伝う。ハンカチで拭っても拭っても、止まることはなかった。しばらくは止まらないだろう。
「…ユニ、お前に渡したい物がある。…これをどうするかは、お前が決めろ。」
そう言ってリヴァイがポケットから取り出したのは、小さい箱。箱というより…ケース、だろうか。片手の手のひらよりも小さいそれは、アクセサリーなんかが入っていそうなデザインだ。一体このタイミングで何なのだろうかとそれを受け取り蓋を開けると中には指輪が収まっており、それもキラキラした、とても高価なものである事が分かる。
「……なに、これ…。どうして今、こんな…。」
「…これは、エルヴィンのだ。正確には、エルヴィンがお前のために用意していた物だが…渡す勇気が出なかったとか何とかで、クローゼットの奥底に大事に隠していたらしい。」
「は…、…え……?」
キラキラしたそれは傷ひとつなく新品そのものではあるが、手入れをしていなかったため酸化し、少しくすんでしまっているようだった。それが意味するのは、購入してから時間が経っているという事だ。それも、数年は経っているのではないだろうか?それに、このデザインは……つまり、そういう意図で購入したもの、なのだろうか。そうだとしたら、今さらじゃないだろうか。
「エルヴィンからは処分するようにと頼まれていたんだが、高価な物だからな。」
「…処分するように言われていたのに…どうして私に…?私はこれを、どうすればいいの…?」
受け取ったところで、どうにもならない。むしろ、余計に彼に囚われてしまう。かといって処分するのも、嫌だ。これは彼が私を想って、選んでくれた物なのだから。
「それはお前が決めろ。別に今すぐ決めろってんじゃねぇよ。それまでは、大事に引き出しにでも仕舞っとけ。」
これは…とんでもない物を渡されてしまった。思わず手が震えたが、いつの間にか涙は止まっていた。リヴァイは私の涙を止めるために、このタイミングで指輪を出したようだ。だけど…私の悩みの種は、またひとつ増えてしまったのだが。
それから時が経ち雪の降る頃、エレンの硬質化能力で作られた犠牲を出さずに巨人を倒すための槌はその役目を終えた。さらに雪が解け草木が芽吹く頃には、ウォールマリア内の巨人は全て掃討されたと、兵団から正式な発表がなされた。それとほぼ同時期に、私は子供を無事出産した。無事、というのは結果的にという意味で、子を産むには年齢が高かった事もあり一時は私の命も危うかったらしいのだが、目を覚ました時には全てが終わっていて、無事にあの人との子をこの腕に抱く事ができたのだ。
「…小せぇな…。」
「金髪に碧眼…誰がどう見ても、エルヴィンの子だね。」
「ルーカス、っていうの。抱っこしてあげてよ。」
ヒストリアが用意してくれた病院への入院は、予定よりもかなり長期になってしまった。それも、今日で終わり。退院後は調査兵団本部へ帰るため、こうしてリヴァイとハンジさんが揃って迎えにきてくれたというところだ。リヴァイの言う通り小さい我が子を彼の方へと寄せると、珍しくたじろぐように、一歩後ろへと後退した。
「…い、いや…、俺は遠慮する。」
「じゃあ私が、と言いたいところだけど、それは違う気がするから我慢するよ。ほら、リヴァイ。」
「………。」
ハンジさんにグイ、と腕を引かれたリヴァイは数秒の間じっと小さい体を見つめ、ようやく上がった腕は恐る恐る、ルーカスへと伸ばされた。
「……生きてる…。」
「それが赤ちゃんを初めて抱いた感想…?」
「……あったけぇ。」
「…そうだね。」
あのリヴァイが赤子を抱いているというだけでもかなりの衝撃だが、その表情は初めて見ると言っても過言じゃないほどに優しい。別に笑顔を浮かべているというわけでもないが、瞳の中には確かに、優しさが含まれていた。「私も!」というハンジさんに交代すると煩かったのか揺れが嫌だったのか泣き出してしまい、あっという間に私の元へと帰ってきた。それで泣き止むのだから、私もかわいくて仕方がない。
「…帰ろう。」
病院には丁寧に感謝の言葉を述べ、揃って迎えの馬車に乗り込んだ。驚くべき事にその馬車は6人乗りで、一体なぜ…と思っていたら中にナイルがいたので、さらに驚きであった。私が無事に出産を終えたのだと聞き、ハンジさんに連絡を取りこうして来たのだと言う。
「…あなたはこの子の父の友人ですし…抱っこしてもいいですよ。」
「お前…本当に隠さなくなってきたな。」
そう言って籠から抱き上げる手つきは全く危なげなく、さすがは3児の父といったところか。その姿を見て一瞬エルヴィンを重ねてしまったのは、誰にもバレていないと願いたい。
「金髪に碧眼…まっすぐ見つめる視線なんて、エルヴィンにそっくりだな。」
「確かに!誰がどう見たってエルヴィンの子だよね。」
「ハンジさん…エルヴィンの子なんだから、当たり前です。失礼ですね。」
「あぁ、ごめんごめん。そういう意味じゃないんだ。」
「そういう意味だと困ります。危うく団長の人間性を疑うところでした。」
「わぁ、辛辣!」
馬車の揺れが眠気を誘ったのかナイルの抱き方が上手いのか、ルーカスはこの騒ぎの中でも泣く事はなくジッと周囲の様子を見ていた。ナイルの言った通り、目力の強さはエルヴィン譲りだ。
「お前の部屋は掃除しておいた。コイツのベッドもな。」
「リヴァイが掃除したというなら、安心だね。ありがとう。」
私が不在の間に溜まった埃は、さぞかし掃除のし甲斐があっただろう。そう思ったのだが、久しぶりに調査兵団内の自分の部屋へ足を踏み入れてすぐに、違和感を覚えた。部屋の中が、洗濯物のいい香りに包まれていたからだ。まさかと思いクローゼットを開けるとそのいい香りはさらに部屋中へと広がった。
「…まさかリヴァイ、クローゼットの中ぜんぶ洗濯したの?」
「あぁ、当たり前だろ。お前の着る服がなくなっちまう。」
「お、お母さんじゃないんだからさぁ…!」
「あぁ?誰が母さんだ。」
「女性の部屋のクローゼットを勝手に開けていいのはお母さんだけって事!」
「!そうか…、悪い。気をつける。」
別に見られて困るような物は下着くらいしかないが…リヴァイの徹底ぶりを侮っていたようだ。
「…寝たな。」
「そうだね…。移動で疲れちゃったのかもね。」
「……。」
無言で見つめて、ソッと優しく頬に触れ、離して。こんな風に落ち着かないリヴァイは、初めて見る。さっきまではナイルやハンジさんがいた手前我慢していたのだろうと思うと、久しぶりにリヴァイがかわいく思えてきた。
「次の壁外調査は…いつ頃になりそうなの?」
「…2週間後だ。」
「2週間…。ずいぶんと立体機動装置を使ってないけど、まだ扱えるかな?」
「メンテナンスに関しては、問題ない。それにお前の技量なら、すぐに感覚を取り戻せるだろうが…どうせ壁の外には、もうほとんど巨人はいないからな。リハビリだと思って、好きに飛び回ると良い。」
「なにそれ。最高の待遇じゃない。」
「ただ、また筋肉は鍛え直さねぇとな。」
「うわ…やだなぁ…。」
「……お前…、今後も調査兵団でやっていくんだな?」
少しの間を置いてから、確信をついた質問をする、リヴァイ。私もたっぷり間を置いてから、口を開いた。
「リヴァイは、エルヴィンと約束したんでしょう?獣の巨人を、必ず倒すって。」
「あぁ、そうだ。必ず俺が、この手で仕留める。…それがどうした。」
「…私も、手伝うよ。…いや、今の私には無理かもしれない…。だけどせめて、それを見届けさせてほしい。…心配しないで。私は巨人の討伐より、生き残る方が上手いんだから。」
「お前……ルーカスはどうする。」
「なにも、何年も離れるわけじゃない。それにこの壁の外に出ても私達は、海…というもので囲まれた島で、守られているんでしょう?その島の巨人達を淘汰した今、こちらの前線を海と大地の境目まで上げてしまえば良い。あわよくば壁外に調査兵団の拠点を建てられれば、もっと良い。そうすれば、ルーカスだってそこで一緒に暮らせるし。…もちろんこれは、全部上手く行けば…だけど。」
「ユニ、お前……そこまで考えてたんだな。」
「そうだよ。何年エルヴィンのそばにいたと思ってるの?…それに、考える時間はたくさんあったから…。」
ルーカスがお腹にいる間、ずっと考えていた。私とルーカスの今後の事を。そして、私自身がどうしたいのかを。そして悩みに悩んで決めたのが、これだ。
「私のこの希望は調査兵団に……いや、まずはリヴァイに、受け入れてもらえるのかな?」
あくまで、これは私からの希望だ。受け入れてもらえないのであれば、諦める他ない。もしくは意見を擦り合わせて、妥協点を探すしか……。
「…ユニ…抱きしめても、いいか?」
「え?」
「俺は今、嬉しくてどうしたらいいか分からねぇんだ。またお前と、肩を並べられるかもしれねぇんだからな。」
私と肩を並べられる…なんて、そんな事で喜ぶのは、リヴァイだけだ。私にはそんな、リヴァイと肩を並べられる技量なんてないというのに。…でも、純粋に嬉しい。
「…いいよ。…って、早…。」
「うるせぇ。」
私が肯定の言葉を言い終えるやいなや、ドン、と重い衝撃とともにぎゅう、と抱きしめられた。その力強さがそのままリヴァイの嬉しさを表しているようで、私も嬉しい。が、
「それに痛っ…!リヴァイ、力加減…!」
「お前……多少肉がついたな。このまま鍛えれば前よりも…、痛ぇな、クソが。」
ドン、と空いた手で脇腹を一突き。痛いなんて微塵も思っていないくせに、白々しい奴。
「女の人に肉がついたなんて、言っちゃいけません!!」
「そうか…悪ぃな。」
ただ指摘すると素直に謝るところは、やっぱりかわいい。こういうところがあるから、リヴァイは憎めないのだ。