845年~851年
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「ヒッチ。」
「!…ユニさん…。」
式が始まる直前、客席で空いている席を探しているとヒッチの隣に隙間があるのを見つけそこに滑り込んだ。間もなく式典が始まったためヒソヒソ声で話し始めてからようやく隣に座ったのが私であると気づいた彼女が敬礼のため胸に手を当てようとしたが、それを手で制し「良いから。だいたい、あなたはそんなに真面目なタイプじゃないでしょ?」と半ば無理やりその手を降ろさせた。「はい…まぁ…」とバツが悪そうな顔をする彼女が、かわいらしい。
「…マルロは前に、入る兵団を間違えた、って言ってたよね。だから調査兵団に移籍したんだろうけど…なにも、死ぬと分かっている調査兵団に入団までしなくても良かったのにね。」
「……。」
「でも…、これは私の憶測だから、気にしないで欲しいんだけど…。…マルロは確かに最後、恐怖しか感じなかったと思う。けど、後悔はしなかった…と、思う。それが、マルロを含める、死んでいったみんなの役割だったから。それに、あのエルヴィン団長がそう判断を下したのだから、意味は絶対にあった。」
「…マルロの死には、意味があると?」
「うん。彼らが今こうして、女王陛下に勲章を頂いているのは、マルロやエルヴィン団長が命を懸けてくれたからなの。だからそんな彼らに、私は敬意を払うよ。」
心臓を捧げて前を向くと、リヴァイと目が合った気がした。私達の距離は遠く離れているので気のせいかもしれないが…それに気づいたハンジさんもこちらにチラリと視線を向けたので、どうやら実際、目が合っていたようだ。
「…あなたのエルヴィン団長への信仰心は常々伺っていましたが…ホンモノですね。」
「…常々?まぁ、間違いじゃないけど…。」
「…ありがとうございます。あなたが人々の心の傷を癒して回ってる女神様だというのは本当なのだと、実感しました。」
「は?何それ。」
一体彼女の中では、私はどんなイメージなのだろうか。世間のイメージと他兵団内でのイメージと調査兵団内でのイメージと実際の私では、かなり齟齬があるように思うのだが。彼女に聞いてみようかと思ったが、私に倣い心臓を捧げ始めたので、口を噤んだ。あとで若い子達にでも、尋ねてみよう。
コンコン、
「ハンジさん、ユニです。」
「えっ、ユニ!?入って入って!」
その日のうちに、私はハンジさんの部屋を訪ねた。リヴァイには「ハンジさんと二人で話したいから」と頼み込み部屋へと帰らせた。私が心配だというのはまぁ分かるが、あまりに過保護すぎている。
そうして訪ねたハンジさんの部屋はまだ団長室ではなく、前団長であるエルヴィンの遺品を片付け終えてから部屋を移す手筈となっている。
「君が私の部屋を尋ねてくるなんて、珍しいね。それも一人で。」
「リヴァイがいると、話したい事を話せない気がして。それにね、おやつを買ってきたんです。リヴァイは一緒に食べてくれないから、一緒に食べましょう。」
「かわいいなぁ、ユニ!いいよ、お茶にしよう。と言っても、自分でお茶を淹れる事がなかったから、茶器がどこにあるか…。」
「いいですよ。一緒に探しましょう。」
まさか、茶器を探すところから始まるとは思わなかった。さすがはハンジさんといったところだ。いつもあれやこれやと頭を回転させている彼女の事だから、そういうのは今まで、モブリットがやっていたのだろう。
「あった。お茶は私が淹れるので、ハンジさんはテーブルを開けていてください。」
ゆっくり時間をかけて丁寧にお茶を淹れて執務室に戻ると、テーブルの上にあった本やら紙やらはデスクの上に積み重ねられていて、こういうところもイメージと相違ないなと思った。
「わ…、ユニの淹れた紅茶はやっぱり違うね!通りで、リヴァイが所望するわけだ。」
「そもそも今までは紅茶よりコーヒーの方が多かったのでは?ハンジさん、研究に没頭して寝なさそうですし。」
「良く分かったね。寝る時間が惜しくてさぁ。」
「体を壊しますよ。」
「はは…モブリットにも、よく言われたよ。」
自然と、会話が途切れた。紅茶を一口飲む間、故人との日常を思い出していた。モブリットには何度か、ハンジさんの世話に疲れたら私の隊に来ればいいと言っていたのだが、結局そうはならなかった。なんだかんだ彼は、ハンジさんのそばが心地よかったのだろう。
「それで、話って?」
「…私の、今後の話です。今後といっても、直近の、近い未来の方の話で…とりあえずは、子供を産むまでのお話をしたくて来ました。」
「…なるほど。そりゃあリヴァイがいたら話がややこしくなりそうだ。」
「過保護すぎるんですよ、リヴァイは。」
あれからというもの、朝起きてから夜寝るまでのほとんどの時間、リヴァイは私のそばから離れなくなってしまった。エルヴィンの事を恨んでいそうなフロックと私が接触しないようにという気遣いなのだろうが、おかげでみんな私と話す時はリヴァイに気を遣ってしまい、大した話ができなくなってしまった。こういった込み入った話なんて、特に。
「今後、君はどうしたい?なるべく君の希望に添えるようにするよ。」
「…ハンジさんも、大概私に過保護ですね。」
「エルヴィンがそうだったから、私達も自然とそうなってしまうんだよ。」
「エルヴィン?エルヴィンは結構、自由にさせてくれてましたけど…。」
「エルヴィンは、ね。自分は余裕のあるフリをして、私やリヴァイに、君が無茶をしないか見守るように根回ししてたんだよ。君は案外、誰にでもすぐに喧嘩を売るからね。」
「…そうなんですか?」
確かに忙しくあちこち奔走しながらも、空いた時間にはだいたいリヴァイがすぐ側にいた。浮かれた新兵達の小競り合いに巻き込まれそうになった時だってすぐに飛んできて、104期生達に呆れられた事も…。あれは、エルヴィンの指示でやっていた事だったのか。
「…そんなかわいい顔しちゃってさぁ…。エルヴィンが羨ましいよ。君を見ていると、レズビアンに目覚めそうだ。」
「だって、嬉しくて…。」
私はエルヴィンに「休みなさい」だとか「もう寝なさい」と言われるのが嬉しかった。状況に応じて納得できない事もあったが、それでもエルヴィンが私を心配してくれている事が嬉しくて、幸せを感じていたのだ。
「…ハンジさん。私、しばらくは戦えませんし、もし壁外調査があったとしても、行けません。でも…、…それでも、エルヴィンが死ぬまでいた調査兵団に、まだいたいです。…これは、わがままでしょうか?」
「…そうだなぁ…。子供が産まれたあとは、どうしたい?」
「それは…、分かりません。私はエルヴィンがいないと、何も決められないんです。…情けないですが。」
「それは、エルヴィンのせいだ。君を甘やかすだけ甘やかして死んでしまうなんて、酷い奴だよ。…だから…そうだね…。子供を産むまでは、ここにいるといい。それまでに君は自立する事を目指して、その後の事はその時に答えを出してくれ。…それでいいかな?」
「ハンジさん…。良いんですか…?」
「良いも何も、私は君の事が好きだし、とても信頼してるんだ。それに書類仕事をできる人が足りなくてね。君がいてくれた方が、正直助かるよ。君に無理のない程度に、だけどね。」
「…ありがとう、ございます…。…っ私も、ハンジさんの事が好きです…!」
「はは、ありがとう。こんなにかわいい君を泣かせるエルヴィンなんて捨てて、私と結婚しよう、ユニ。」
「…ふふ…、それは嫌です。」
私はエルヴィンがいたから、調査兵団にい続けていたと思っていた。だけどこうして考えてみれば、私はちゃんと、調査兵団の事が好きだった。彼がいなくとも、ここにいたいと思えるくらいには。
「君は調査兵団に必要だよ。誰がなんと言おうとね。引き続き頼むよ、ユニ団長補佐。」
「…承知しました、ハンジ団長。」