845年~851年
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「おい…どういう事だ、これは。」
私達が調査兵団トロスト区支部へと辿り着いたのは、日が沈みきってからずいぶんと時間が経ってからだった。途中で夜営するかという案も出たが、私の体を案じたリヴァイとハンジさんがこのまま帰路へ着くという決断を下したためこうして到着が夜になってしまった。そして、一旦リヴァイが紅茶を淹れてくれるというので彼の部屋へと足を踏み入れて第一声目が上記のセリフである。色々ありすぎて忘れていたが、私はここを発つ直前まで、ここで仕事をしていた。そして片付ける暇もなく、立体機動でウォールマリアを目指した。ソファにはブランケットが無造作に掛けられ、テーブルには飲みかけの紅茶。そしてデスクの上には、積み重なった書類達。ここは本当にリヴァイの部屋なのかと疑いたくなるくらいには、生活感に溢れている。
「ご…ごめん…。一人で不安だったから…リヴァイの部屋なら、落ち着けるかと思って…。」
「…そういうワケがあるなら、まぁ、構わんが…。…予定変更だ。書類を持って、お前の部屋に行くぞ。」
「はい…。」
勝手に部屋を使った事を咎められはしなかったが、内心嫌だっただろうなと思う。あの時は不安で不安で仕方なくてリヴァイの部屋を使ったが…いくらなんでも勝手に使う事はもう辞めようと、心に誓った。
「…勲章?…なぜ私が?」
ウォールマリア奪還作戦から数日経った頃、私以外の調査兵団は王への謁見へと向かった。そうして帰ってくるなり、今回の作戦は壁内人類にとって大変有益な情報を得る事に成功したと、調査兵団の全員が女王より直々に勲章を賜るのだと聞かされた。そう、調査兵団の"全員"だ。今回の作戦に参加していなかった私は除外されるものだと高を括り「そう、良かったね」と他人事のように返したのに「言っておくが、調査兵団の団員全員にだぞ。それには、お前も含まれる」と訳の分からない事を言われ、上記のセリフが出た。この作戦の成功には、私は何も携わっていないというのに。
「新兵達の教育、雷槍の訓練、書類処理、その他諸々の準備には携わってただろうが。何も前線で戦う事だけが、調査兵団じゃねぇ。」
「…いらないよ。そんなもの貰ったって、なんの足しにも──」
「それは、俺も同じだ。」
「…みんな、きっと納得しないよ。」
「なぜだ。」
「みんながみんな、私を信用、信頼してるわけじゃないって事。リヴァイは私を信頼しきってるからそう言えるんだろうけど、私はエルヴィンと恋人同士だったし、贔屓で団長補佐という役職を与えてそばに置いていた…と思われていても、仕方ないと思うよ。ヒストリアだって元は調査兵団だし、忖度していると捉えかねない。…事実とは関係なくね。」
大衆とは、そういうものだ。結果だけを見て、判断する。大抵の事は結果しか公表されないからだ。調査兵団が壁外調査を失敗すれば"穀潰し"、成功させれば"英雄"と、簡単に呼び方を変えるのを今まで何度だって目の当たりにしてきた。
「今回のはエルヴィン・スミス第13代団長が先導して成し遂げた功績だから、尚更だよ。私の事をよく知らない人からしてみれば、私はエルヴィンの恋人だから調査兵団に守られている存在…と、思う人もいるかもしれない。そんな人間が勲章を授与されるなんて、エルヴィンが今までやってきた事まで疑問視される事になるでしょう?私は、それだけは避けたい。彼は本心では、人類のために心臓を捧げたわけじゃないけど……この偉業を成し遂げたのは、間違いなくエルヴィンの手腕だから。彼の経歴に、傷はつけたくないの。」
これで、私の気持ちは伝わっただろうか。長々と語ったが、ようはエルヴィンの隙になるような事はしたくない、という事だ。
「……お前…、エルヴィンの事になるとここぞとばかりに長々と語りやがって…。」
「まぁ…さすがに女王陛下がどうしてもというなら、有難く頂戴するけど…。断ったら断ったで、エルヴィンの恋人は女王陛下に不敬を働いたと言われるだろうし…。」
「…ずいぶんと難儀だな。英雄の恋人とやらは。」
「そうでもないよ。今までのエルヴィンに比べたら、全然。」
そう、全然大した事はない。私はエルヴィンがとやかく言われなければそれで良いが、エルヴィンは自身の夢を叶えるために人類の存亡という大きなものを背負い、立ち回った。そんなの、比べるまでもない。
「お前の気持ちは、よく分かった。ヒストリアにも、そのように伝えておく。」
「ありがとう。お願いね。」
結果的には、勲章は送られないという事に落ち着いた。当日ヒストリアに「本当は、ユニさんにもお送りしたかったのですが…」と食い下がられたが「そのお気持ちだけで、十分です」と頭を下げた。
「ユニ、俺から離れるな。」
「リヴァイ。…なんだか、以前にも増して過保護になってない?」
「…今のお前は、フラフラとどこかに行っちまいそうだからな。」
「そう…かな…。…はは、自分じゃ分かんないや。」
「無理して笑うな。笑えてねぇぞ。」
「…そっか…。」
これから、勲章の授与式ならびに追悼式が執り行われる。リヴァイは勲章の授与をされる側だが、私はそれを見に来ただけ。だというのに離れるななんて、無理があると思うのだが。
「─誰かが本当の事を言うべきだろ…。」
「…あれは…、ヒッチ…?」
104期生達が1箇所に集まり、そこからヒッチが立ち去っていくのを確認した。仲良くお喋り…なんて雰囲気ではなく、緊迫した空気に包まれている。その中心にいるのは、リヴァイに近づくなと言われている、フロックであった。
「…君が、エルヴィン団長を生き返らせようと必死だった事は知ってる…。」
「!」
「そうだ…。お前じゃなく、団長が相応しいと思った。でもそれは俺だけじゃない。…みんなだ。報告書を読んだ誰もがそう思った。なんでエルヴィンじゃないんだって…!」
報告書。私は、読んでいない。今の私が読むべきではないと、リヴァイがそう判断したからだ。しかしこうして内容の一部が明かされる事となり、戸惑った。それはリヴァイも同じで「ユニ」と私がその先を聞く前にこの場から立ち去ろうと私の名を呼んだ。だけど、私の足は動かなかった。
「お前がアルミンの何を知ってるって言うんだ。言ってみろよ!」
「知らないな。俺は幼馴染じゃないし、仲良しでもないから。でも何でアルミンが選ばれたのかは分かる。お前ら2人と、リヴァイ兵長が私情に流され、注射薬を私物化し、合理性に欠ける判断を下したからだ…!ようは…大事なものを捨てる事ができなかったからだろ…!」
「……それ以上は、やめなさい。」
「おい、ユニ!」
その場にいなかった私に、何かを言う権利はないかもしれない。だけどそれでも、前に出ずにはいられなかった。
「注射薬を誰に使うかの一切の権限は、エルヴィン団長からリヴァイ兵士長に一任されていた。調査兵団なら、それは承知のはずでしょう?」
「!…ユニさんは、許せるんですか?あの注射薬を使えば、エルヴィン団長は今、ここにいたかもしれないんですよ?」
「…許すもなにも、私はその場にいなかったからね…。でも、私はエルヴィン団長の事も、リヴァイの事も信頼している。リヴァイがアルミンに使うと決断したのなら、それ相応の理由があったはず。許せる許せないの話なら、私は許すよ。エルヴィン団長を、信じているから。エルヴィン団長が信じたリヴァイを、信じてる。」
「…エルヴィン団長なしで、これからどうするつもりなんですか…!」
「団長には既に、ハンジさんが就いている。」
「そういう問題じゃ…!」
「…フロックが正しい…。…エルヴィン団長が生き残るべきだった。この状況を変える事ができるのは、僕じゃない。」
「!…アルミン…。」
「なんでそんな事が分かるんだよ。…俺には分からないな。正しい選択なんて…。未来は、誰にも分からないはずだ。だいたい、お前は見たのかよ。壁の外を。壁の外には、何があるんだ。」
「……海。」
「そうだ、海がある。でもまだ見てないだろ。俺たちはまだ何も知らないんだよ。炎の水も、氷の大地も、砂の雪原も。可能性はいくらでも広がっている…!」
エレンのアルミンの話は、私にはよく分からない。しかしアルミンの心を動かすのには十分なようで、私の出る幕ではなかったのかもしれない。
「きっと壁の外には、自由が──」
「?」
不自然に途切れた言葉。私もアルミンもその異様さに首を傾げていると、不意に肩を叩かれた。この力加減は、リヴァイだ。
「おいガキ共。時間だ。並べ。」
案の定リヴァイが有無を言わせぬ圧で、この話を強制的に終わらせてしまった。しかしリヴァイが無理やり終わらせてしまったが、私からアルミンに、どうしても伝えておかなければならない事がある。
「アルミン。エルヴィン団長は、アルミンから見たら、ものすごい人かもしれない。いや…実際私から見ても、常人離れした分析力と統率力、それと決断力を持った人だった。だから、引けを感じるのは分かる。でもね、リヴァイが生かしたのはアルミン、あなたなの。酷な事を言うようだけど、そんなあなたが自分を卑下し続けていては、リヴァイも後悔してしまうし…私も、立ち直れない、かもしれない。…ミカサとエレンだって、胸を張れないと思う。だからね、自信を持って。…なんて、当事者じゃない私が言う事じゃないんだけど…ごめんね。」
本当、私に言えた事じゃないのは重々承知だ。だけど私はエルヴィンの信者だから、彼のように方便だって並べる。
「それとね、どっちにしろエルヴィンはこの作戦が終わったら、団長の座から退くかもしれなかったし…何も、変わらないよ。」
「……すみません、ユニさん…。」
「…うん。…じゃあ、私はこっちだから。」
アルミンは、この話を聞いてそんなはずはないと、大袈裟だと感じただろうか。アルミンの言った「すみません」にはきっと、多くの意味が含まれているのだろう。だけど、自信を持ってもらわないと、困る。今さらになって後悔しても、あの時下した決断は、変える事はできないのだから。