845年~851年
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「これは…肖像画?」
「いや…人が描いたものとは思えないほどの精巧さだ…。」
机の引き出しに隠された3冊の本は、エレンの父グリシャ・イェーガーが残した手記のようなものであった。それが開かれて真っ先に晒されたのは、1枚の紙。それには3人の人物が描かれていて、裏を見るとそれは"写真"と呼ばれるものらしい事が書かれていた。しかし、そんな事はどうでも良い。問題は、その後に続いた言葉であった。
"私は人類が優雅に暮らす壁の外から来た。人類は滅んでなどいない"
そのたった一文で、私の手は震えた。これが事実なら、エルヴィンの話していた"父の仮説"は正しかったという事になる。
3冊のうち1冊を手に取り中を改めると、他にもいくつかエルヴィンの話していた仮説を裏付ける事実が書かれており、ページを捲る手が止まらなくなった。
1800年以上昔──エルディア人の始祖ユミル・フリッツは大地の悪魔と契約し巨人の力を手に入れた。そしてユミルはその巨人の力で国を豊かにし、エルディア帝国を築いた。彼女の死後、ユミルの力は九つの巨人に分けられ、大国であるマーレを滅ぼしおよそ1700年もの間、大陸の支配者となった。
そうして起こるべくして起こった、巨人大戦。エルディア対マーレの戦いで、九つの巨人の力は7つまでマーレに奪われ、145代目エルディア王であるフリッツは一部の国民を引き連れパラディ島へと逃げ込み三重の壁の中に引き篭った。
一方残されたエルディア人は収容区に隔離され、マーレの圧政下に置かれた。
…これを読む限り、ここに書かれた"パラディ島"とは、私達の住んでいるところで、そしてここに住む人達はみな、100年前に当時のフリッツ王によって連れられてきた、"エルディア人"というもの、なのだろう。
そしてどこか遠くの地、マーレの人達は、我々パラディ島に住むエルディア人から何としてでも始祖の巨人の力を奪おうと戦士を募り、画策している。
同時にエルディア復権派の人間も多く存在し、始祖の巨人、そして真の王家を連れ戻そうと、計画を立てていた……。
なんて…、なんてひどい話だ。
「ユニ…顔色が悪い。一旦外へ出るぞ。」
「あ…、…ごめん。ありがとう…。」
これが王家が隠していた空白の100年と、それ以前の世界の歴史。こんなの、知りたくはなかった。エルヴィンはこれを見たら、どんな反応を示しただろうか。夢が叶ったからと、その後の事は放棄するだろうか。いや…優しい彼の事だから、死んでいった部下の意志を受け継ぎ、きっと対抗策を上げ、抗ったのだろう。そして私は、エルヴィンがそれを望むのならと、着いていくのだろう。
「……リヴァイ。…私、これからどうしたらいいのかな…?」
「……お前がやるべき事は、まず元気なガキを産む事だ。その後の事は、その時に考えろ。」
「…そう、だよね…。…はぁ…。」
頭が、重い。一気に色々な情報を取り入れ、そのどれもが、重い話だったからだ。
ぎこちなく背中に当てられた、リヴァイの手の温もりが心地いい。じんわりと温められて、ようやく呼吸が楽になってきた頃に、みんなが地下室から出てきた。
「帰れるかい?ユニ。」
「…はい、帰りましょう。」
またウォールマリアの壁の上まで戻り、そこにいる人数が先程とさほど変わっていないのを見、リヴァイに確認のため問いかけた。「…調査兵団は、ここにいるみんなで全部なの?」と。そうしたらリヴァイの瞳は翳り「あぁ…他の団員は、全員死んだ」と。
やはり、敵の勢力は計り知れなかった。そもそも新兵ばかりの先の調査兵団では、世界相手によく戦い、生き残った方だと思う。
「じゃあ…今日は、連れて帰れそうにないね…。」
ざっと100を超えるであろう、亡くなった兵士の遺体を、だ。エルヴィンだけでも連れて帰りたかったが、彼が団長だからと、特別扱いはできない。
「あぁ。後日改めて、全員の遺体の回収に来る。…最後に、会いに行くか?」
「…うん。リヴァイも、着いてきて。」
きっと私だけでは、彼の遺体に触れたり、その胸に顔を埋めたり、キスしたくなってしまう。
リヴァイに連れられもう一度踏み入った室内には変わらず彼の体が横たえられていて、思わず「エルヴィン」と彼の名を呼んだ。返事は、返ってこないのに。
「…地下室に、行きました。エルヴィンの夢は、私が代わりに叶えましたよ。あなたのお父さんの仮説は、正しかったと証明されました。良かったと、嬉しい気持ちの反面…、エルヴィンがこの事実を知る事なく解放されて良かったと…思ってしまいました…。…ごめんなさい…。」
せっかく夢が叶ったというのに、この事実は重すぎる。彼は今まで、地下室に隠された謎を解明するという夢があったからこそやってこられた。夢が叶った今、エルヴィンに世界と対抗するための策を出し、兵士を導けというのはあまりに酷だ。だから、解放されて良かったのかもしれない。エルヴィンの事だけを、考えるのなら。
「でも…、私は…、私はあなたに、生きていて欲しかった…。人類の事なんてどうでもいいから、全てほっぽって…ただそばにいて、一緒に老いていきたかった。…一人にするなんて、ひどいじゃないですか…。」
ポロ、と忘れかけていた涙が頬を伝った。それを手で拭うと、不意にリヴァイがお腹に腕を回して、「…一人じゃねぇ。俺が、一人にはさせねぇよ、ユニ。…なぁ、エルヴィンよ。お前もその方がいいだろ?」と。
私がいない間に、リヴァイとエルヴィンの間では何か、そういう話がされていたのかもしれない。
「今後の事は……これから考えます。私がどんな選択をしても…応援、してくれますか…?」
返事はない。が、窓から入ってきた風が、サイドチェストに置かれた花を揺らした。リヴァイかハンジさんが置いたのだろう。よく見る花だが、綺麗だ。
「…必ず、迎えにきます。だから、待っててください…。エルヴィン、…愛してますよ。」
伝えたい事は、伝えた。彼からの返事がない以上、ここにいる理由はなくなってしまった。
「…行こう、リヴァイ…。」
声に出さないとずっとここにい続けてしまう気がして、無理やり背を向け、歩き出す。その時ぶわっと吹いた風が私を包んで、なんだかまた、泣きたくなった。まるでエルヴィンに抱きしめられたみたいだなんて、それはさすがに、気のせいだろう。
「……は…、あれ…、私…寝てた…?」
馬は体が揺れるからと、ウォールマリアからウォールローゼまでリヴァイとハンジさん、そしてナイルが交代で立体機動で私を運ぶ事になっていた。出発した時はリヴァイだったはずだが、私がついうたた寝をしている間、ずっとリヴァイが運んでくれていたようだ。
「ごめん…。リヴァイの立体機動があまりに気持ち良くて…。揺りかごに揺られる赤ちゃんって、こんな感じなのかな?」
「そりゃあ何よりだが…さすがに交代だ。おい、ハンジ。いいか、丁重に扱えよ。丁重にだ。」
直接口にはしなかったが、さすがに重かったのだろう。いくらリヴァイよりも背が低いといっても、私もいい大人なのだ。眠った事で余計に運びづらかっただろうと思う。…それにしても、
「おいで〜ユニ。」
「…ハンジさんに子供扱いされるのは、ちょっと腹が立ちますね。」