845年~851年
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「…エルヴィン…?…エルヴィン、団長…。」
静かに眠っているようなエルヴィンの体に伸ばしかけた手は、リヴァイに捕まれ触れる事は叶わなかった。リヴァイを見ると悲痛そうに眉間に皺を寄せていて「…死んでる」とだけ。死んでしまってから、時間が経っているのだろう。それなら、私がむやみに触れるのは止めるはずだ。
「…なん、で…。」
なぜ、エルヴィンは死んだのだろう。なぜ、壁上にたったあれっぽっちの兵士しかいなかったのだろう。なぜ、リヴァイはエルヴィンに注射を打たなかったのだろう。なぜ……私はその場にいなかったのだろう。頭の中にたくさんの疑問が次々と浮かび上がってきたが、どれも口から出ては来なかった。その代わりに、瞳からは大量の涙が次々とこぼれ落ちた。
「う…、っ、うぅ……っ!」
触れる事すら許されない彼の亡骸を前に、代わりにリヴァイの体を抱きしめた。彼を失う事を、覚悟していなかったわけではない。こちらに十分準備の時間があったという事は、向こうにも準備をする時間があったという事だ。そもそもこちらは、敵の情報を知らなさすぎた。そんな中で戦ってこうなってしまったのは、仕方のない事…なのだろう。だけどそれでも、簡単に受け入れられるものではない。
「…すまない、ユニ。俺がエルヴィンの死に場所を、ここに決めた。」
「注射、は…?っ他の人に…?」
「あぁ…アルミンに使った。アイツは、超大型巨人の力を手に入れた。」
「……アルミン、が…。」
リヴァイは今、私に伝えるべき内容と、伝えるべきでない内容とを選別しているに違いない。既に私が到着する前に、兵士達にも色々と、口止めをしているかもしれない。
正直、有難かった。私は今、全てを聞く勇気は、ない。エルヴィンが死んでしまったという事実だけで、今にも倒れてしまいそうだ。
「エル、っ…エルヴィンはッ…、地下室、には…!」
「……行けてねぇ。…連れて行けなかった。だからユニ…、お前を連れていく。そのために呼んだ。お前がエルヴィンの夢ってやつを、叶えてやってくれ。」
「私…が……?」
体が離れて、リヴァイと対面する。私の顔は涙で酷いものだろうが、リヴァイもリヴァイで涙を流し、その綺麗な顔は濡れていた。リヴァイがこんな風に泣いているところは、久しぶりに見る。
「エルヴィンは最後に、自分の夢はユニに託すと…、それならば、死んでも悔いはない、と。」
「……そんな、…勝手な…。」
でも最後まで夢を見ていたなんて、やっぱりエルヴィンはエルヴィンなのだと思った。そして、そんなところも好きだと思ってしまう私自身も、エルヴィンと同じだ。
「…ユニ、すまない…。」
「…謝らないで、リヴァイ。きっとリヴァイが謝る事じゃ、ないから…。」
「…ダメだ。お前は俺を、許すんじゃねぇ。俺は…、お前から、エルヴィンを…!」
「…リヴァイ、ごめんね。大事な時に、そばにいられなくて…。…リヴァイ1人に、辛い選択をさせてしまって…、ごめんなさい…。」
言葉の端々からの推測でしかないが、きっとリヴァイが、エルヴィンの死に関わっているのだろう事は分かる。アルミンに注射を使ったのだと言っていたし、エルヴィンに使わなかった、とも言える。それはつまり、リヴァイはエルヴィンの事を想い、そう決断したという事で…。…リヴァイの事は、信用も信頼もしている。そのリヴァイがそう決断したというのなら、余程の何かが、ここであったのだ。
今度は私から、ぎゅっとリヴァイを抱きしめた。
「だからね…、私は、受け入れるよ。…今すぐは、無理かもしれない。だけど時間が経っても、…絶対ッ、受け入れる…、から…!」
言葉が詰まって、出ては来なかった。だけどリヴァイには、ちゃんと伝わっていると信じたい。
リヴァイが責任を感じる事じゃない。それだけは確かに、心の底からそう言える。
一頻り泣いて、ようやく涙が途切れた頃には疲れもありぐったりしてしまって心配をされたが、思う存分泣いたからか足取りは意外としっかりとしていた。リヴァイが自身のハンカチで私の涙を拭うので、リヴァイの涙は私のハンカチで拭ってあげた。私はともかく、泣いたリヴァイをそのまま外に出すわけにはいかない。
「ここは、空気が悪い。アルミンが起き次第地下室に行かなきゃならねぇし…ここじゃなく、上で少し休め。」
「……、…仕方ないね。」
休まなければならないなら、エルヴィンのそばにいたかった。だけどそれは、許されない。妊娠中は感染症に感染しやすいのだと、医師が言っていた。リヴァイもそれを、心得ているのだろう。
「それとフロックの奴には、近づくな。」
「フロック…?…分かった。」
今までの会話には出てこなかったが、彼がどうしたというのだろう。リヴァイが言わない方が良いと判断したのなら、聞かないが。
リヴァイにおぶられる形で壁上へと辿り着くとみな気の毒そうな表情で私を見るので、視線を伏せた。
「…ユニ、気休めにしかならねぇが、ここで少し休め。」
「ユニ…。」
「ハンジさん…怪我をされたんですね…。」
「私は大丈夫。ほら、水を飲んで横になるんだ。」
戦ったのは、みんなの方なのに。怪我をして、疲れているのは、私じゃないのに。みんなの優しさが温かくて、甘えたくなってしまう。
「…リヴァイ…ハンジさん。…ここにいて。」
「…はは…、かわいいなぁ、君。いいよ。特別に膝枕をしてやろう。」
ハンジさんも、もう団長か…。私は…、エルヴィンがいなくなってしまって、これからエルヴィンの代わりに夢を叶えたら……、今後の事を、考えなくてはならない。まずは、エルヴィンの死を受け入れるところからだ。
それから30分もしないうちに、アルミンが目を覚ました。その間私達はただ無言で体を休める事だけに努め、おかげで大分楽になった。
「行けるか?ユニ。」
「…うん。行こう。」
エルヴィンがあと一歩のところで届かなかった、地下室。私はその地下室に隠された謎の解明に、彼の代わりに立ち会う。今さらながら緊張してきて、大きく深呼吸をした。
「よし…準備は整った。行くぞ。」
リヴァイに抱えられ、ゆっくりと降下していく体。そう広くないシガンシナ区の巨人は、既に全て討伐したのだろうか。立体機動装置を着けていない私を、リヴァイはゆっくりと地面へと降ろした。ここからは歩いていくのだと言うので、少なくともこの辺りの安全は保証されているという事だ。
前を歩くエレンとミカサの足取りはとてもゆっくりで、久しぶりに帰ってこられた故郷を懐かしんでいるのが分かる。時折気遣うような視線をこちらに向ける2人には「大丈夫。私もゆっくり歩いてくれた方が助かるから」とだけ伝え、後ろを歩いた。余計な事を考えぬようにか、私の右手はリヴァイに強く握られている。
「…そんなに強く握らなくて、大丈夫だよ。…普通に痛いし。」
「…あぁ、悪い。」
「……いい街だね、ここは。」
天気が良いのも相まって、街全体が綺麗に見える。長らく人の手が入っていないのが、勿体ない。ここから時間をかければ、また人が住めるようになるだろうか。もしそうなれば、お腹の子とここに住むのも、良いかもしれない。
「この家かい?」
石段を登る途中の、大岩に潰されてしまった、一軒の家。そこで2人は立ち止まった。どうやらここが、エレンの生家、という事らしい。