845年~851年
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「ユニ!ユニはおるか!」
翌日、昼間。朝起きてから生きるための最低限の食事を摂りリヴァイの部屋で書類と睨めっこをしていると、兵団内にピクシス司令の大声が響き渡った。大方、私の部屋にも団長の部屋にも姿が見当たらず焦って探しているのだろうと思った。しかし現実はそんな生温いものではなく、廊下へと出た私が見たのはピクシス司令の焦りの表情で、何か良くない報せを告げられるのだと悟った。
「ユニ…、エルヴィンが…、いや、調査兵団が…!」
「!…どこに向かえば良いですか。私の立体機動装置は。」
「立体機動装置は渡せん。あれはただでさえ体に負荷がかかる。今のお前に、渡せるわけないだろ。」
ピクシス司令の鬼気迫る物言いに、私達の間の空気は一気に鋭いものへと変貌する。エルヴィンや調査兵団に何かがあった。それも私達にとって、良くない何かが。正直に言えば今にも飛び出したい気持ちだが、まずは立体機動装置を身につけなければと動き出すと、すかさずナイルがそれを制した。彼のその行動は至極当然な事だが、それでも私は、大人しく引き下がるわけにはいかなかった。
「なら、私に馬に乗れと?私は全兵団、全兵士の中で一番立体機動装置の扱いに長けていると自負している。あなたよりも、あのリヴァイよりも。だからもちろん、体に負荷をかけない飛び方も心得ている。むしろ馬に乗る方が危険を伴う。だから、今すぐ立体機動装置を渡せ。」
ピクシス司令の前であったが、自室に向かいながら立体機動装置を渡すよう、ナイルに詰め寄った。言い合いをしながら乱雑にドアを開けて部屋から持ち出したのは、立体機動装置の固定ベルト。ジャケットをナイルへと放って慣れた手つきで上半身のベルトを着け終えた頃には講堂へと辿り着いていて、その硬い椅子に乱雑に腰掛けた。
「なにも、巨人と交戦しに行くわけじゃない。そうですよね?ピクシス司令。」
「…あぁ。…ナイル、ユニの立体機動装置を、ここへ。お前さんの立体機動装置の扱いに関しては、儂も信用しておるよ。決して無茶はしないという条件を守れるのなら、立体機動装置の使用を許可しよう。」
「…ありがとうございます、ピクシス司令。ナイル、早く私の立体機動装置を持ってきて。」
ブーツを脱ぎ、足のベルトも装着していく。最後に全身のベルトの位置を微調整してから、ようやく届いた立体機動装置を装備していく。
「…冷静さを失わぬために、何があったのかは聞かずに行きましょう。私はこれから、どこへ向かえば良いですか?」
「…リヴァイから、これを聞き次第すぐにシガンシナ区へ来るようにと知らせがあった。壁の穴を塞ぐのには、成功したようじゃ。」
「リヴァイから…?…承知しました。」
それだけで嫌な予感が頭を過ぎりかけたが、無理やり打ち消した。あの過保護なリヴァイが私を呼んだという事は、敵の巨人の脅威は一先ずは去った…と考えて良いだろう。
「行きましょう。替えのガス管は私が自分で背負い、ここからシガンシナ区まで立体機動で向かいます。」
「おい、まさか一人で行くつもりか?それは許可できない。」
「そうは言ってないでしょう。あなたは着いてくればいい。私はあなたを待つ気はありませんが。なにぶん、急いでいるもので。…よし、出発しましょう。」
ナイルの立体機動装置の装備は終わっていないが、待つ義理もない。最低限の装備を手に調査兵団トロスト区支部を飛び出して、まずはウォールローゼを目指した。そこから先は、少なからず巨人が残っている。
お腹への衝撃や力みはご法度。それと息切れや体力の消耗だって…、と頭の中で今できる最大限の注意と最大限体に負荷をかけずに巨人を倒すためのイメージを思い浮かべて、到達したウォールローゼから街を見下ろした。かなり遠くの方には、ウォールマリアが見えている。
「お前っ…!出発早々に置いていく奴があるか!」
「…私は待たないと言ったはずですが。」
懐から信煙弾を取り出して、空へと打ち上げた。私を呼んだリヴァイまで、届いていると良いのだが。
体に不調を感じたら高台で休めるよう、高さのある建物を目指して移動していくのが良いだろう。ここからウォールマリアまでの道筋を上から眺め組み立ててから、ようやくウォールローゼからゆっくりと降下した。幸い、壁のそばには巨人の影はない。
「エルヴィンからお聞き及びかと思いますが…私は、助けられない命は助けません。この体なら尚さらです。なので、できる限りご自身の身はご自身で守ってくださいね。」
「…お前ら調査兵団は、全員そうなのか?」
「…どうでしょうね…。少なくとも、私はみんなにそのように教え込んではきましたが…それを実行できるかどうかは、人それぞれです。」
近くの建物へと着地して、一際背の高い建物を目指す。ここからは、その繰り返しだ。
「雑談は終わりです。辺りに巨人がいないか、十分警戒して進んでください。じゃないと、すぐ死にますよ。」
「!…あぁ、そうだな。」
そうして、以降特に言葉を交わす事なくどんどんと前へ前へと進んでいった。時には、巨人を倒しながら。予想していたよりはだいぶ巨人の数は少ない。やがて半分程進んだかという頃にナイルのガスが切れそうだという事で、休憩も兼ねて高台である時計台へと着地した。あと少しで、シガンシナ区へ続く門へと辿り着く。もう一度、出発した時と同じ信煙弾を打ち上げた。
「ふぅ…。」
「…大丈夫か?」
「……分からない。なんせ、まだお腹に赤ちゃんがいる実感が湧いてなくてね…。私は大丈夫。だけど……辛くないといいんだけど…。」
未だ私にはなんの不調も感じられず、むしろ不安になってくる。私の知らない内に、お腹の中で何かが起こっていたらと思うと怖かった。お腹を撫でてみてもやはりなにも感じず、どうなっているのか気になって仕方がない。
「…もしかしたら、今の煙弾を見たリヴァイがここまで向かっているかもしれないし…とにかく、リヴァイと早く合流しなきゃ。」
私の方のガスは、まだ余裕がある。刃の方も、ナイルのも合わせれば壁まで辿り着くのに十分足りそうだ。リヴァイも私が向かっているのを知っているわけだし、壁に近づけば近づくほど、さらに巨人の数も減るはずだ。
「さ、そろそろ行こう。もうすぐ、日が傾きそうだし。」
目的地まで、あと少し。その前にリヴァイが来てくれる事を願って、アンカーを飛ばした。不安な気持ちは一旦、胸の奥にしまい込んで。
「ッユニ!!」
「!リヴァイ。良かった、やっぱり来てくれて──」
さらに先に進んで少し経った頃、前方から人影が近づいてきたかと思えばそれはリヴァイの姿で、顔を合わせるなりガシ、と力強く抱きしめられてどうしていいか分からず、とりあえず背中を撫でた。やはり……何かがあったのだと察するには、十分だ。
「…どこまで聞いてる。」
「えぇと…、壁の穴を塞いだ、とだけ…。」
「そうか…。…とりあえず、ここからは俺が連れていく。立体機動装置を外せ。」
「うん…。」
リヴァイの言う通り立体機動装置は全て外してケースへと収納し、ブレードの入った鞘はナイルへと持たせた。さすがに不満そうではあったが、ここに捨て置くわけにもいかない。そうしてリヴァイに抱き抱えられる形でようやく目的地へと辿り着いた私が見たものは、目視で数えられるだけの調査兵達。ほぼほぼ、104期生達だけであった。
「…リヴァイ…、…エルヴィン、は…。」
「……こっちだ。」
嫌な想像が頭を過ぎって、表情が引き攣る。私を抱くリヴァイの顔は目の前にあるというのに視線が交わる事はなく、やがて重たい足取りでどこかを目指し歩き出した。
みな、私達を無言で見送った。そして私を抱えたリヴァイが入ったのは、今は誰も住んでいない民家。その中があまりにも静かで、思わずぎゅっとリヴァイの首に回した腕に力が籠った。
「…ユニ…すまない。」
「…!!」
ギィ、と音を立てて開かれた扉の先は、どうやら寝室らしい。簡素なベッドがひとつ。そしてそこに横たえられた、誰か。顔には調査兵団のマントがかけられていて、誰なのかは分からない。いや、分かりたくなかった。しかしリヴァイの謝罪の言葉が、嫌でもそれが誰なのか、事実を突きつけてくる。マントの下から覗く左手を見て、心臓がドク、と嫌な音を立てた。
あぁ…、だからリヴァイは、私をここに呼んだんだ。
「…エルヴィン…?」
呼びかけに応えるものは、いない。
ゆっくりと降ろされた体は地面に足をついたが…その足は震えて、上手く歩けそうにない。そのままリヴァイに支えられる形でヨロヨロとベッドの側へと近づいて、膝をついた。
そしてバサ、と音を立て取り払われたマントの下にいたのは、調査兵団団長、エルヴィン・スミスその人であった。