845年~851年
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ユニ。体は大丈夫か?」
「…ピクシス司令。お陰様で、そこまで辛くはありません。」
日も沈み切り、私は1人、誰もいなくなった調査兵団トロスト区支部へと戻ってきた。いや…1人ではない。エルヴィンの親友、ナイル・ドークを伴って、だった。この建物内に1人で残るのはとても心細くはあるが、ナイルと2人というのも我慢ならない。早くも限界を迎えるかという頃にピクシス司令が調査兵団へと訪れた事で、いくらか気が紛れた。講堂内で書類仕事をする手を止め、軽く頭を下げた。
「はぁ……。」
「おっと、ため息か?ナイルのような"無能"では、役不足だったかの?」
「…待ってください。ピクシス司令まで、その件をご存知で?」
この件に関しては、私とエルヴィンとナイル・ドークの3人が当事者のはずなのだが、ピクシス司令まで話が行っているとなると誰かがどこかで広めているという事になる。ナイル自らがこんな話をするわけがない。私だって、この話を掘り返されるのは決まりが悪い。という事は、エルヴィンしかいないわけだが……リヴァイやハンジさんにもこの話をしていたし、言いふらしていてもおかしくはない気がしてきた。いや、だって、消去法でエルヴィンしか…!
「なんじゃ、後悔しておるのか?」
「そりゃ、してますよ。エルヴィン団長の隣に立つ者がそんな発言をしたなど、あまり印象が良くないじゃないですか。」
「…お前の基準は全てエルヴィンなんだな…。」
「何か文句でもあるんですか?言っておきますけど、後悔しているのはエルヴィンの前で言ってしまったという事で、あなたの事を無能だと思っているのには変わりないんですからね。お飾りの師団長さん。」
「…お前、エルヴィンがいないからって好き勝手…!」
「エルヴィンがいてもいなくとも、常に思っていますから。口に出すか出さないかの違いです。エルヴィンは、どうして未だにナイルに対して好意的なんでしょう…。ピクシス司令、知っていますか?」
「はっはっは!いや、知らんな。」
口からはナイルを貶める言葉が次々と出てくる。こうなる事が分かっていたからここに来てから一切口を閉ざし、書類仕事をしていたというのに。
「…何か、飲まれますか?」
「いや、構わん。…それにしても、どうにも落ち着かんようじゃな、ユニ。」
「……それは、当たり前です。みんなは命を賭して、戦いに出たんですから。私が行けば全てどうにかできるなんて思ってはいませんが、…みんなと肩を並べられないのは、辛いですね。」
明日になれば、きっとここで過ごした兵士達は少なからず、死ぬのだろう。それが誰なのかは分からない。分からないが、私が行けば助かる命もあるかもしれないと思うと、今すぐここを飛び出したい気持ちが湧いてくる。
「はぁ……そうだ、リヴァイの部屋に行こう。」
「リヴァイ?エルヴィンの部屋ではなく?」
「エルヴィンの部屋にいては、余計に落ち着かないでしょう?だからナイル、部屋の前まで着いてきてください。」
「お前…遠慮がなくなってきたな…。」
ナイルには、私から依頼をしたわけではない。エルヴィンが頼んだのだ。私が彼に気を遣って行動を制限する謂れはないし、エルヴィンが私が無理をしないように監視を頼んだのだから、着いてきてくれないと困る。私がナイルに対して、遠慮する必要はないはずだ。
「ピクシス司令、大したおもてなしもできず、申し訳ありません。」
「構わん構わん。何かあればナイルに言うんじゃぞ。」
ペコリと頭を下げて、書類の束を持ち真っ直ぐリヴァイの部屋へと向かう。部屋の鍵は、持っている。合鍵を貰ったとかそういう事ではなく、団員全員の部屋の鍵は上官以上の人間であれば持ち出せる事になっているからだ。万が一壁外調査で亡くなってしまったあと、遺品の整理をしなければならないからである。
「あ、中へは入らないでください。勝手に人を入れるのは、さすがに。」
「…お前は良いのか?上司だから?」
「何言ってるんですか。信頼しあっているからですよ。…じゃあ、後ほど。」
パタンとドアを閉め、鍵は開けたままにしておく。綺麗に整理整頓されたデスクに書類の束を置いて向かったのは、備え付けのキッチン。お湯を沸かして引き出しの中から茶葉をいくつか取り出して、目当てのカフェインの入っていない茶葉をピックした。そしてポットとカップを取り出して、沸いたばかりのお湯を注ぎシンクへと流した。茶葉を入れたポットにお湯を注ぐと忽ちいい香りが立ち上り、それだけで不安が少し和らいだ気がする。一式全てをトレーに乗せ執務室へ戻ってデスクの端に置き、改めて書類を手に取る。やはり、ここに来て正解だった。紅茶の匂いと僅かに残ったリヴァイの香りで、頭も冷静になり気持ちも落ち着いた。これで、悪い事を考えなくて済む。
コンコン、
「…どうかされましたか?」
しばらくの間カリカリというペンを走らせる音と紙を捲る音だけが響いていた室内に、ノックの音が響き渡る。ノックしたのは、ナイルだろう。入室の許可は出さず用件だけを聞くと「そろそろ飯を食え」と言うので、もうそんな時間かと腰を上げドアを開けトレーを受け取った。向こうも私の行動を予測し、ここまで持ってきてくれたらしい。
「あら、ありがとう。…ずいぶん豪華ね。」
手渡されたトレーに並ぶのは、少なからず肉が使われていていつもの調査兵団の食事に比べて些か豪華なメニューであった。
「エルヴィンのポケットマネーだ。お前に不自由させないようにと。」
「は…?い、いや、そんな事しなくても…!私が払います!おいくらですか?」
「…お前がそう言う事も、エルヴィンは計算済だ。お前だけでなくエルヴィンも、いずれ産まれてくる子供の親なんだ。親として当然の事はできる限りさせてくれと言っていたぞ。」
もう……、好き……。そこまで考えて根回ししてくれていたなんて、愛以外のなにものでもない。そんな事を言われてしまっては、私は大人しく引き下がる事しかできないじゃないか。
「…分かった、ありがとう。」
パタンと扉を閉め、再び1人になる。彼は今ここにはいないが、それでも彼からの愛を感じられた気がして、胸が温かくなった。ちゃんと愛されているという実感が、何よりも嬉しい。
「おい…、ユニ…。…ユニ・クライン。」
「…は…、…あれ、私、眠って…。」
「体調は変わりないか?呼びかけても返事がなかったから、入室させてもらったぞ。」
「あぁ…、…うたた寝してただけ…。」
確か食事を摂ったあと、頬杖をついて紅茶を飲んでいたら眠気がやってきて…どうやら、そのまま机に突っ伏して眠ってしまっていたらしい。体を起こすと下敷きになっていた書類1枚に皺が寄っていたが、まぁ、許容範囲内だ。
「眠るなら、ベッドで寝ろ。体を壊すぞ。」
「…言われなくても、そうします。」
さすがに眠るのには、リヴァイのベッドで眠るわけにはいかない。自室に戻る道すがら、やっぱりエルヴィンの部屋で眠ろうと思い直し彼の部屋へと入って「じゃあ、おやすみなさい」とナイルとは寝室の前で分かれた。寝巻きは、エルヴィンの寝室にもある。のそのそと時間をかけて着替えをして、脱いだ服は適当にその辺に放っておいた。中途半端に眠ったから、今日は早く眠ってしまいたい。そうすれば、余計な事も考えずに済む。
次に目が覚める頃には、調査兵団は敵と対峙するだろうか。そんな中眠るのは些か心が痛むが、彼の匂いに包まれて、その気持ちを押し殺して目を閉じた。