845年~851年
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「エルヴィン。」
「ナイル…来たか。」
リフトで次々と団員や馬が壁の上へと運ばれるさなか、エルヴィンに声を掛けてきたのはあの、ナイル・ドーク師団長であった。久しぶりに見たその顔に、思わず反射的に顔を顰めてしまった。今まで彼がエルヴィンにしてきた事を思えば、仕方のない事だと思う。
「ユニ、そんな顔をするな。かわいい顔が台無し…、でもないな。美人はどんな顔をしても美人だ。」
「そんな…エルヴィンには遠く及びません。それで…ナイルさんは、どのようなご用件で。」
「…エルヴィン、まさか話してないのか?」
よく分からないが、エルヴィンが彼を呼んだという事だろうか。それにチラリと私を見たので私に関する事のようだが、何も聞かされてはいない。
「ユニ。不本意かもしれないが、この作戦中は、君はナイルと一緒にいてくれ。」
「……それがエルヴィンの指示なら従いますが…、なぜですか?」
「私が…、俺が、心配だからだ。感情が昂った君は、何をしでかすか分からないからな。」
「!…私、そんなに信用がありませんか?」
決して心当たりが無いわけではない。しかし、果たして憲兵である彼を監視役としてつけるほどだろうか?
「信用も信頼もしている。ただ、純粋に心配しているんだ。だから憲兵ではなく、親友であるナイルに依頼したんだ。」
「そういう事なら…分かりました。」
ナイルというのが不満ではあるが、エルヴィンの親友なのだから仕方がない。期限はそんなに長くないのだし、少しくらいは目を瞑ろう。
間もなく、上官以外の兵士が壁の上まで登り切る。日没までも、あまり時間は残されていないようだ。
「…そろそろですね。どうぞ、お気をつけて…。」
「…上まで見送りに来てはくれないのか?」
「!」
祈るように握った左手を引かれ、彼の胸の中へと収まった。それを間近で目撃したナイルやリヴァイは僅かに眉を顰めたが、ハンジさんだけはニヤニヤと揶揄いの表情を浮かべている。
ナイルは立体機動装置を装備している。上までリフトで登っても、彼の立体機動で降りてくれば良いという事だ。
「上まで、ご一緒します。ナイルさんも。」
「…あぁ、分かったよ。」
我々を乗せたリフトは、ゆっくりと上昇を始めた。その間エルヴィンは私の手を離さずにその胸に閉じ込め続けるので、些か居心地が悪い。
「おい…ユニに何かあったら、ただじゃおかねぇからな…。もし万が一、何かがあってみろ。その時は地獄の果てまで追いかけて、何がなんでも殺してやる。」
「リヴァイ…未だかつてないくらい物騒…。」
「お前も似たようなもんだろうが。まともぶってんじゃねぇ。」
「そんな人を異常者みたいに言わないで。……え、なんですかこの空気は。」
リヴァイ以外の人物は、私からスッと視線を逸らした。エルヴィンでさえも。まさか、私が異常者だとでも思っているのだろうか。失礼、というか、ショックだ。
「おーい!ハンジさ〜〜ん!!」
その微妙な空気を切り裂くような大声は、同じリフトに乗るハンジさんを呼んだ。自然と、私も含む全員の意識はそちらへと移った。その声を発したのは、トロスト区内の人集りに紛れた、現リーブス商会会長であるフレーゲルであった。
「ウォールマリアを取り返してくれーーッ!!」
「人類の未来を、任せたぞーッ!」
フレーゲルの声に呼応するように、周囲の人々も叫び始めて、妙な気分になる。あの調査兵団が、市民に受け入れられている。いつも壁外調査から帰ってくる度に「税金泥棒」だの「巨人の餌」だの好き勝手に言っていた癖に、随分と都合のいい。でもまぁ、守られるべき市民は知らなくてもいい事は知らされない。知っている情報だけで判断するしかなかった彼らにとっては、それは仕方のない事だったのだ。
「…歓迎…されているみたいですね。」
「調査兵団がこれだけ歓迎されるのはいつ以来だ?」
「さてなぁ…そんな時があったのか?」
「私が知る限りでは、初めてだ…。」
するりと腕が離れて、私の体が誤って壁から落っこちぬようリヴァイの方へと寄せられた。そうしてエルヴィンは嬉しそうに口角を上げてから、「ウォォオオオ!!」と市民の期待に応えるように雄叫びを上げた。こんな風なエルヴィンは、初めて見る。もうすぐ、エルヴィンの夢が叶うのだ。気持ちが昂っていてもおかしくない。
「…エルヴィン、行ってらっしゃい。無事にウォールマリアを奪還すると、信じています。それと、この世界の真相を解明してきてください。…ご武運を。」
左胸に拳を当てて、真っ直ぐに彼を見上げた。エルヴィンはその心臓を捧げる私の拳に自身の左手の拳を当ててから身を屈め、公衆の面前であるにも関わらず堂々と私にキスを落とした。案の定壁の上からも下からも歓声が上がって、何が起こったのか理解するのに時間を要した。
「…え…?あ…あの、こんな、公衆の面前で…!」
「すまない、つい。体が勝手に動いた。」
「つい、じゃねぇよ。気色悪ぃ。さっさと出発するぞ。」
本当、つい、で許されない。エルヴィンは今から壁外に行くが、私はこの後、壁の中へ戻らないといけないのに。
「君のおかげで、俄然やる気が湧いてきた。ありがとう、ユニ。行ってくるよ。…ナイル、ユニを頼んだぞ。」
「あぁ…気をつけろよ。」
「待ってよ、ユニ!私とリヴァイにも、抱擁くらいしてくれよ!」
「!…って、もうしてるじゃないですか…。」
リヴァイと私とを一纏めにしたハンジさんは、相変わらずタダでは死ななそうだ。だけどそんな事は関係なく、案外簡単に死んでしまうかもしれない。そう考えたら、さっきのキスも大袈裟ではないのかもしれない。
「2人とも。できたら、無事で帰ってきてください。それと、エルヴィンをよろしくお願いします。」
「あぁ、善処しよう。」
「君の頼みなら、私も努力するよ。」
「みんなも…訓練を思い出して、自分に出来る事を全力で行なってください。共に戦えなくてごめんなさい。でも、私はエルヴィン団長と皆さんを、信じています。」
ハンジさんとリヴァイの背中越しで格好はつかないが、私が伝えたい事は伝えられた。体を離して一歩下がって、再度敬礼のポーズを取った。
「…ウォールマリア最終奪還作戦、開始!」
団長であるエルヴィンの掛け声とともに、団員達は一斉に動き出した。私がいられるのは、ここまでだ。
「…ユニ・クライン。ここは危険だ。下に降りるぞ。」
「…あなたに言われなくても、そのつもりです。」
これから壁の向こう側へ、リフトで馬が次々降ろされる。もう私がここにいてもやる事はないのだ。不本意だがナイルの首に腕を回し、射出したアンカーがしっかりと固定されているのを確認してから、ゆっくりと壁を降り始めた。エルヴィンの視線は壁が私達を隔てるまでこちらに向けられていて思わず腕を伸ばしたが届くはずもなく、やがて壁に遮られ見えなくなった。途端に不安な気持ちに襲われそうになったが、気が付かない振りをして、目を閉じた。
どうか、ご無事で。
それだけを心の中で唱えた。