845年~851年
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「ユニさん!俺…、ユニさんの分までがんばります!」
「ありがとう、エレン。でも、無理はしないで。あなたはいつだってがんばってるんだから。」
調査兵団は明日、ウォールマリア奪還作戦のため壁外調査へと赴く。私だけをここに残して。
士気を高めるという名目で団員を集め、エルヴィンの演説を隣で聞いていたら突然「団長補佐であるユニは、今回はこの作戦には不参加だ。彼女は今、お腹に新しい命を宿しているからな」とサラリと言ってのけるので、講堂内は驚きの声が響き渡りリヴァイの眉間の皺をより深くした。私も、鼓膜がおかしくなるかと思った。
案の定その後の「解散!」という団長の合図で私の周りへドッと人が押し寄せるので、すかさずリヴァイが「おい…離れろ、お前ら」と私達の間に入った。エルヴィンはそんな私達を見て微笑ましそうにするだけで、「程々にな」とだけ言いその場を後にした。そんな…彼だって当事者のはずなのに、なぜ…。
「ユニさん!お相手は!お相手は誰なんですか!!団長ですか!?兵長ですか!?」
「ばっ、馬鹿!」
「…エルヴィン団長に決まってるでしょう?馬鹿な事言わないで。」
「団長!?あっ、逃げたな!」
「チッ。」
リヴァイの舌打ちは私に向けられたものか、エルヴィンに向けられたものか。どっちでもいいが、出征前に怪我人が出る事だけは避けたい。
「リヴァイ、大丈夫だから。戻っていいよ。」
「あ?お人好しのてめぇを残して、戻れるわけねぇだろうが。こいつらの話にいちいち付き合ってたら休まるもんも休まらねぇ。」
「…リヴァイ、本当に過保護だね。」
「あぁもう!兵長とのそういうのは、今は良いんですよ!団長との馴れ初めとか教えてくださいよ!」
「サシャ!お前もう黙れ!」
サシャは意外と男女の恋愛ごとに興味があるのだろうか。とてもじゃないが恋バナをしてキャッキャするような感じには見えないし、現にニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべていて揶揄う気満々に見える。
「馴れ初めは……団長のあれこれに関わる事だから、内緒。」
「そんなぁ!じゃあ、団長のどんな所が好きなんですか!」
「全部。外見も内面もね。」
「狡い!じゃあその中でも、特に好きなところベスト3は?まずは外見から!」
あんまり私がのらりくらりと躱すものだから、サシャのインタビューは徐々に熱を帯びてきた。リヴァイの表情を見るに、最後にこれだけ答えてお開きにした方が良いだろう。
「じゃあ…第3位は、高身長なところ。」
「ユニさんと団長ってかなり身長差がありますけど、実際何cm差なんですか?」
「さぁ…30cmくらいかな?で、第2位は…、晴れた空みたいな、綺麗な瞳の色かな。それで1位は、笑うとその瞳がキラキラするところ。」
「あぁ〜、良いですねぇ。」
「内面はね、色々あるんだけど…頭が良いところ、優しいところ、それと、言葉に力があるところ。」
「言葉に力が…?それってどういう…?」
「言葉通りだよ。さ、もう終わり。リヴァイがそろそろ限界だし。」
「!!!」
「俺が限界だと…?俺は問題ない。お前の体調が良いなら、まだまだ続けてくれて構わんが?」
一同リヴァイを見て、背筋を伸ばし気を引き締めた。そのくらい今のリヴァイからは、どす黒いオーラが放たれている。リヴァイの言葉とは裏腹に。それを見た団員はそれ以上話を続ける事はせず、「じ、じゃあユニさん、明日、がんばってきます…!」と1人、また1人と撤退を余儀なくされた。全く、だから先に戻っていいと言ったのに。
「リヴァイ。私、リヴァイの淹れた紅茶が飲みたいな。」
「…少し待ってろ。カフェインの入っていないヤツがあったはずだ…。」
明日が決戦の時だなんて、嘘みたいだ。エルヴィンもリヴァイもみんなも、私を不安にさせぬよう、そう振舞っている。それくらい、私にだって分かる。私は何年もの間みんなの様子を逐一観察し、都度その人に合ったケアに努めてきたのだから。
「みんな…死んでほしくないなぁ…。」
1人残された講堂で呟いた言葉は、静かに壁の中へと染み込んでいった。
「ユニ…おはよう。」
「…おはよう、エルヴィン…。」
当たり前のようにエルヴィンの部屋で眠り、目が覚めた。今日はみな日没前にここを出発し、ウォールマリア、そしてシガンシナ区へ行く日だ。私以外の、調査兵団は。
敵はおそらく、調査兵団を今か今かと待ち構えている事だろう。
ここに来てやっぱり、なぜ私だけが残らなくてはならないのだろうと思った。理由は、分かりきっている。私は私で、新しい命を守らなくてはならないからだ。
だが、まだなんの実感も抱けていない今、これまでと何ら変わりない自身の体を見ると、妊娠なんて本当はしていないのではないかと、嫌でも考えてしまう。
「ユニ、大丈夫か?」
「…大丈夫ですよ。元気です。」
無理やり作った笑顔は、ちゃんと笑えてなかったらしい。慰めるように抱きしめられて、彼の匂いを嗅いだら、無性に泣きたくなった。
「エルヴィン…、……。」
死なないで、帰ってきて、という言葉が、喉の奥につかえて息を苦しくさせる。守れるか分からない約束をさせるなんて、そんな酷い事はできない。だからせめて彼の方から言ってくれないかと縋りついたが、彼の方からもそのような言葉が発される事はなかった。
「…キツくはないですか?」
「あぁ、問題ない。こっちも頼む。」
ひとつひとつ丁寧に、彼の体に立体機動ベルトを締めていく。そもそも私とは体格が全く違う上に自らの体に着けるのとは違い難しく、しかしひとつ間違えば重大な事故に繋がる恐れがあるため、細かく確認をしながらの作業で、かなりの時間を要した。…というのはただの建前で、一分一秒でも長くこうしていたかったから時間をかけているに過ぎない。
「脚のベルトは、リヴァイにでも頼むよ。君の力では、怪我をさせかねないからな。」
「はい…そうしてください。」
全体重のかかる脚のベルトは、装着するのにも結構な力がいる。自分で装着するならまだしも、人に着けるというなら尚さらだろう。できる事なら全て私自身がやってあげたかったが、何かあっては取り返しがつかないため、潔く引き下がった。
「君の団服姿も、しばらく見納めか…。」
「何を仰ってるんですか。前線には立てなくとも、サポートは致しますよ。」
未来の話をするのが、怖い。エルヴィンに、私に、そして私達に、果たして未来があるのかなんて、誰にも分からないから。だからそもそもエルヴィンは、結婚という選択肢を捨てたのだから。
「あと…少しですね。」
何が、とは言わなかった。だがエルヴィンには、何があと少しなのかきちんと伝わったらしい。
「ユニ、ありがとう。君の力無しでは、ここまで辿り着く事は不可能だった。」
「…!…そんな事は、ありません。今までのエルヴィンの決断が、ここまでの道筋を作ったんです。私はただ、その道筋にあった障害物を取り除いてきたくらいで…。」
「その障害物を君が取り除かなければ、ここまで来られなかったというわけだ。」
ああ言えばこう言う…。頭のいいエルヴィンを言い負かす事は、私には不可能だ。もはや、事この件に関しては口を噤む事しかできない。それなら、私からも感謝を伝えなければ。
「私からも…、…私に夢を分けて下さって…生きる指標を示して下さって、ありがとうございます。私がここまで生きて新しい命を授かれたのは、エルヴィン、あなたのおかげです。」
「……ユニ。」
手渡された、ループタイ。私がそれを彼の首元へ着けて、抱きしめあってキスをして。たったそれだけなのに、どうしようもなく愛おしい。
「…もう、行かなければ。」
出発まではまだ時間はあるが、団長という立場上、そろそろ表に立たなければならない。私も、できる限りで彼の役に立たなければ。
「はい、行きましょう。」
脚の固定ベルトを忘れずに携えて、本当に言いたかったあれやこれやは部屋に置いて、扉を閉めた。