~844年
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「…良いでしょう。協力します。」
驚く事に、私の提示した内容を全て盛り込んだ書類は翌日には私の元へ届けられた。きっと、ハンジ分隊長の頭の中には元々全て入っていたに違いない。しかしハンジ分隊長の部下達のやつれきった様子を見るに、隊員総出で徹夜して仕上げたのだろう。それを見るとなんだか申し訳ない気もして「ハンジ分隊のみなさん、お疲れ様です。ハンジ分隊のみなさんの今日明日の立体機動訓練はお休みしても構いません。本当にありがとう」と労いの言葉をかけると「ユニ分隊長…!」「俺もぜひ、ユニ分隊長の隊に!」とかなり有難がられてさすがに戸惑った。そして自分の隊には、こんな無茶はさせまいと心に誓った。
「了承はしましたが、私は今、立体機動装置の装着を禁じられています。エルヴィン分隊長の許可が下りるまでは作戦は決行できかねますので、そちらは了承頂けますか?」
「オーケーオーケー。ユニ、君本当に分隊長になったのは初めて?私や他の分隊長よりもずっと分隊長らしいじゃないか。」
「…?そうでしょうか?もしそう見えるのだとしたら、エルヴィン分隊長の教えの賜物ですね。だから賞賛されるべきは私ではなく、エルヴィン分隊長です。」
「あっはは!そう来たか!」
当然の事実を述べたのにも関わらず笑われてしまい、頭にはハテナが浮かぶ。今の話に、笑うようなところがあっただろうか。ハンジ分隊長と私は、笑うポイントが全然違うようだ。
「そうそう。リヴァイはどう?君にはずいぶんと懐いているように見えるけど。」
「懐いてるなんて…リヴァイに殺されちゃいますよ?でも、そうですね…良い信頼関係は、築けているのではないかと。」
「へぇ…あのリヴァイが、信頼ね。もしかして、ユニの事が好きだったりして!」
「…ハンジ分隊長、本当に殺されますよ。…むしろ、死にたいんですか?」
「あはははっ!それは嫌だなぁ!」
「…はぁ…、モブリット、嫌になったら団長に言うのよ。」
"何が"とは言わないが。
「じゃあ、怪我が治りエルヴィン分隊長の許可が下りれば、すぐにお伝えしますので。その頃にまた。では、この後はエルヴィン分隊長との仕事があるので失礼します。」
ハンジ分隊長と楽しく会話するのは、私には少し難しいみたいだ。エルヴィン分隊長は戻るのはいつでも構わないと言っていたが、早く戻る分には大丈夫だろう。
ハンジ分隊長の部屋を出てパタンとドアの閉まる音を聞いてから「ふぅ…」とため息をつく。ハンジ分隊長は、よく分からない人だ。
「あっ、ユニ分隊長!お疲れ様です!」
「昇進おめでとうございます!」
訓練場の見える廊下を通れば、団員達が声を掛けてくる。訓練場へ赴く時はだいたいリヴァイと話している事が多いからかみな遠慮して遠巻きから挨拶をする程度だが、今はリヴァイの姿はない。恐らくリヴァイは団員達に、未だ距離を置かれているのだろう。愛想もないし笑わないし口も悪いし、少々困りものである。
「ありがと〜。でもまだ正式になったわけじゃないから、大声で言わないでよね〜!」
正式な任命は、まだ先の話。ハンジ分隊長とは私が分隊長になった後の話をしていたからいいが、それはそれ、これはこれ。まだ同じ立ち位置の人間に言われるのは、少し違う気がする。
「ユニさん、怪我はいつ頃治りそうですか?早くまた訓練をつけてください!」
「俺も、前よりは上達しましたが理想には程遠くて。早く復帰してくださいよ!」
シュゥゥウ、とガスを吹かして外壁へと張り付く、2人の兵士。2階から見下ろすよりもだいぶ距離が縮まった。当たり前のように立体機動装置を使えていて、少し羨ましい。
「ふふ、ありがとう。そうだなぁ…あと2週間くらいはかかるかなぁ。エルヴィン分隊長の許可が下りれば、だけどね。」
「2週間も…!そんなに悪いんですか?」
「大丈夫。綺麗に治るよ。」
傷跡は残るだろうが、ブレードの刃でできた傷だからマシなはずだ。表向きは巨人との戦闘中の事故という事になっているが、これがリヴァイが故意につけた傷だと広まれば、風当たりは今よりもさらに強くなるだろう。
「ユニさんは…リヴァイと仲がいいんですか?」
またそれか。
1人の兵士が言いづらそうに口にしたのは、最近よく聞かれる質問で。私とリヴァイはそんなに仲良く見えるだろうかと思ったが、私ではなくリヴァイの方に注目してみると今のところ会話をするのはエルヴィン分隊長か私しかいないのだと気がついた。
…なるほど、そりゃ気になるわ。
「そうね…リヴァイと話すのは結構楽しいかな。ああ見えて実はわりと喋るし、口は悪いけど悪気があるわけじゃないし。リヴァイの口数が多い時は会話を楽しんでいる時だから、今度話しかけてみるといいよ。」
「いや…ちょっとハードル高いッス…。」
「そう?残念。じゃあ、機会があれば。」
「そッスね…。」
「ユニ。」
「あ…噂をすれば。なに〜?」
廊下の向こうから私の名を呼んだのは、今まさに話題に上がっていたリヴァイ。なに?と返事をすれば「エルヴィンの野郎が待ってる」と。
「エルヴィン分隊長が?すぐ行く!ごめん、また今度ね。」
エルヴィン分隊長の呼び出しとあらば、すぐに向かわねばならない。たとえ食事中であろうが、訓練中であろうが。一言断りを入れてリヴァイの元へ駆け寄ると、彼は窓の方をチラリと見てから背を向け、歩き出した。そうして廊下の角を曲がった頃に「エルヴィンの呼び出しは、嘘だ」と信じられない一言を口にした。えっ、嘘?なんで?
「てめぇは、ずいぶん部下に慕われているんだな。」
「え?…いや、まぁ、そうかもね。有難い事に。」
それとこれと、なんの関係が?一向に話が見えてこない。
「私、毎年新兵が入ってきたら教育係に任命されるから。立体機動の訓練とか、兵法や座学とか、ここでのルールとか、色々。」
自慢じゃないが、訓練兵時代の試験ではいつも首席で、卒業試験も1位で卒業した。…対人格闘技だけは、いつもドベだったが。
だから調査兵団へ入団した際はかなり期待されたのだが、実のところ私の代の訓練兵が不作中の不作だっただけなのだ。現に当時一緒に調査兵団へ入団した数名の同期は、もう既にいなくなってしまったし、私は入団してから巨人を倒す事よりも命を優先したから、今まで生き残った。…それだけだ。
「なるほどな…。」
「だから私、調査兵団の団員全員とよく話すの。ほら、調査兵団って、他の兵団よりも訓練キツいでしょ?自分で選んだとはいえせっかく入団してくれたのにキツすぎて辞めますなんて事になったら嫌だから、兵士のメンタルケアも兼ねてね。メインは立体機動の訓練だけど、みんな色々相談とかしてくれるし。」
「…それは、てめぇが話を聞くのが上手いからじゃねぇのか?」
「……そうかな?」
「あぁ。お前は無駄な先入観を持たずに人に接するからな。だから何でも話しちまうんだろ。だからみんな、てめぇに救いを求めてる。」
「……なんか、話が壮大すぎない?」
救いだなんて、大袈裟だ。私は神様みたいなものを真似ているつもりはないし、ただ自分が嫌だから先回りしてやっている。本当に、それだけなのに。
でも…そうか…。もしそれが誰かの心を救っているのなら、私のやってきた事は意味のあるものになる。
他でもないリヴァイがそう言っているのだし、たまにはポジティブに考えてみよう。
「ちょっと、救われた。ありがとう、リヴァイ。」
これからも、団員との関わりは積極的に行っていこう。