845年~851年
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「全員、集まったな。では…これよりウォールマリア奪還作戦についての会議を開始する。」
エルヴィンのその一声で始まった会議は、議題の通り、作戦の内容であった。しかし内容といっても結局は行き当たりばったりになるという事でいつもよりも中身の少ないまま説明を終え、とうとうエルヴィンは、私が今作戦へは参加できない事を発表した。
「作戦は以上だが……、調査兵団団長補佐であるユニ・クラインは、今作戦には不参加だ。つまり彼女抜きで、この作戦を成功させなくてはならない。」
「は……?」
突然告げられた事実にいち早く反応を示したのは、ハンジさんだ。リヴァイは事前に私の方から告げていたため、黙って腕を組み壁を睨んでいた。
「ユニが不参加って…、なんでさ。ユニは貴重な戦力だろ?怪我だって完治しているし、それだけ告げられても、到底納得できないよ。」
ハンジさんの言う事はご尤もだ。エルヴィンは私の様子を窺うように視線をこちらへ向けたのち、ハンジさんに向かって口を開いた。
「ユニは今、お腹に子を身ごもっているからだ。」
「は…?…子供…って、…妊娠、してるって事…!?」
「あぁ、そうだ。」
「…いっ、一体いつから…!…一応聞くけど、もちろん君との子だよね…!?」
「おい、ハンジ。」
「ハンジさん。それは聞き捨てなりませんね。なんて事言うんですか。」
「だってそりゃ…、こんな大事な時に…!!」
「…それについては、あとできちんと話そう。事実として彼女の中には今、新しい命が宿っている。そんな中で戦場に駆り出すなんて、さすがの私にもできない。」
「…そりゃあ…そうだけどさ…。」
火山が噴火したようにエルヴィンを問い詰めるその勢いは段々と衰え、やがて鎮まった。私の妊娠という事実は、変えられないのだ。誰がどう足掻こうとも。
「…ごめんなさい、皆さん。私は今、相反する2つの感情に挟まれていて、どうしていいか分からないんです。調査兵団の団員としてエルヴィン団長と戦場へ向かえないのは悔しくもあり、申し訳なくもあり…。それとは別に、愛する人との子供を身ごもった事は、素直に、とても嬉しいんです。私ももう30を超えていますし、諦めていましたから。」
「……ユニ、悪かった。誰も責めちゃいねぇから、泣くな。」
泣くな、と言われて、我慢していた涙がポロ、と零れた。リヴァイから差し出されたハンカチを有難く拝借して、言葉を続けた。
「私は行けないけど…、皆さん、エルヴィン団長をお願いします…!エルヴィン団長について行けば、人類を救う事ができるんですっ…!だから彼を信じて、心臓を捧げてください…。地下室まで、彼を連れて行ってあげてください…!!」
今の私にはできない、身勝手なお願いだ。勝手に妊娠しておいてこんな事を頼むなんて、我儘にも程がある。でもそれでも、私ができないから、誰かに託す他なかった。彼の夢を叶えるのには、みんなの力が必要だから。
「…安心してくれ、ユニ。さっきは取り乱しちゃったけど、君がいようがいまいが、やる事は変わらない。私達は今作戦に、全力で挑むつもりだよ。」
「…ハンジさん…。…本当に?」
「あぁ、本当だとも。君とエルヴィンの子供だなんて、冷静に考えたらとても嬉しい事じゃないか!」
「…ハンジさん、ありがとう…。」
ハンジさんの温かい言葉に、ようやく涙が引いていった。他の団員達もみな、嫌な顔ひとつせず目尻を細めていて、私は仲間に恵まれているのだと実感した。
「…しかし、地下室、ね…。…そこには一体、何があると思う…?」
水差しから注がれた水をゴクリと一気に飲み干して、エルヴィンを見る。彼は昔を思い出すように少し遠くを見たあと、やがて口を開いた。
「…言ってはいけなかった事…。…いや、グリシャ・イェーガーが、言いたくても言えなかった事。つまり初代レイス王が、我々の記憶から消してしまった、世界の記憶…、だと思いたいが。…ここで考えたところで分かるわけがない。」
彼は近頃、よく物思いに耽っている。長年追い求めていた巨人の謎、お父様の仮説の証明が、あと一歩で叶いそうなのだ。彼の夢が叶うまで、もうすぐ。そりゃあ色々な想いが彼の中で渦巻いている事だろう。
そうしてしばし物思いに耽ったのち視線を上げ、決意したように口を開いた。
「本日で全ての準備が整った。ウォールマリア奪還作戦は2日後に決行する。…地下室に何があるのか、知りたければ見に行けばいい。それが、調査兵団だろ?」
みんなの表情は、彼の最後の一言でやる気に満ち溢れたものになった。私がとやかく言わなくたって、彼のたった一言でこうも空気を変えてしまうのだから、敵わない。
みんなに遅れて私も立ち上がるとリヴァイが無言で手を差し出してくるのでなんの疑いもなくその手を取ると扉まで誘導され、そして、扉が閉められた。中にエルヴィンと、リヴァイを残して。
「え…?…ハンジさん、これ、中でリヴァイがエルヴィンを問い詰めるとか、ないですよね?」
「…さぁ…どうだろうね。まぁ、大丈夫じゃないか?何も殺したりはしないだろ。」
「そっ、そんな事されちゃ、困りますよ!」
「それにしてもさぁ、水臭いじゃないか、ユニ!こんな喜ばしい事、どうして黙ってたんだい?」
「それは…、ちゃんと診断されたのが、今日だったんです…。」
「え?まさかエルヴィンにもさっき伝えたばかりなのか?馬車の中で言ってた大事な話って…。」
「…そうですよ。じゃなきゃギリギリまで、雷槍の訓練なんかさせませんよ、エルヴィンは。」
「そりゃあそうか。…作戦を必ず成功させるなんて約束はできないが、君はただ、私達を信じて、待っていてくれ。成功するよう、全力を尽くすから。」
「……はい。…ハンジさん、あまり無茶な事は、しないでくださいね。」
言ったって、無駄なのだろうが。そうしてハンジさんと話していると案外すぐに扉は開かれ、中からはリヴァイだけが廊下へと出てきた。中を見るとエルヴィンは最後に見た時と変わらず椅子に腰掛けていて、ひとまずは安心した。そして再び中へ入ろうとしたところでまたしてもリヴァイの手が私を掴み、そのままどこかへ向かって歩を進めた。少々強引ではあるが、その歩幅や歩調から私を気遣って歩いているのだと分かり、言いかけた文句も喉の奥へと飲み込むほかなかった。
「…リヴァイ、何か、怒ってるの?」
「…安心しろ。お前に、じゃねぇよ。」
「そう…。」
どんどん人気のない方へと足を進めていたリヴァイは、ようやくその足を止めた。そこからは空がとても綺麗に見えて、まだ完全に暗闇になる前だというのに既にいくつもの星が輝いて見えた。
「…リヴァイ。…リヴァイの気持ちも分かるけど、あまりエルヴィンを責めないであげて欲しい。」
「……お前は、俺が何に苛ついてるのか分かるのか?」
「んー…、何となく…。…エルヴィンの夢はね、何よりも大切なものなの。彼からそれを取り上げたら、文字通り生きる気力を失ってしまうかもしれない。…それくらい、彼にとっても私にとっても、大事なの。そんなにも重要な事なのに、それをひた隠しにして、自分を騙しながら、調査兵団をここまで導いてくれたんだよ。そんな事、普通の人にはできないよ。」
「………。」
「私だって、本当は止めたい。でも、ここに残って欲しいなんて我儘は、私には言えないよ。エルヴィンがその夢を追い続けていたのを、誰よりも近くで見てきたんだもん。」
「…もしも、奴が死んだら…お前はどうする。」
「……、…安心して。死にはしないから。」
エルヴィンは、策士だ。私を死なせないために、子供を残そうとした。それは私を今作戦に参加させず安全地帯で生き延びさせるというもの以外に、万が一自身が生きて帰れなかった時…彼との間に子供がいれば、私が後を追う事はしないだろうと踏んでいたのだろう。…なんて、悪魔的思考なのだろうか。
「…とんだクソ野郎だな。」
「そんな事言わないで。私が何よりも信頼して、愛してる人なんだから。」
「……俺は、今も変わらず、お前を信じている。」
相変わらずリヴァイの言葉は、素直じゃない。今の言葉の真意は、"お前が信じると言うのなら、俺もエルヴィンを信じる"という意味だろうと、勝手にそう解釈した。
「せっかくだから、お肉食べに行こ、リヴァイ。」
「あぁ…特にお前は、たらふく食った方が良い。」
きっとハンジさんが私達の分は死守してくれているはずだと食堂へと来てみればエレンとジャンが取っ組み合いの喧嘩をしているところで、周りの人間は止めるどころか野次を飛ばしてそれを観戦していた。何ここ、治安悪。
「遅かったね、ユニ。君の分なら、ちゃんとここにあるよ。」
「わぁ!さすがハンジさん。頼りになりますね。」
「おい…。」
ドッ、ドゴッ、
「お前ら全員はしゃぎすぎだ。もう寝ろ。…あと掃除しろ。」
「了解!!」
「ユニ、ここで食うのは止めだ。部屋で食うぞ。」
「……まぁ、そうね。」
今のは完全にリヴァイのせいだと思うのだが。どうやら、まだ完全には消化できていないらしい。
さも当たり前のようにリヴァイの部屋へと誘導されながらエルヴィンの事が頭を過ぎったが、こうなったリヴァイを放っておくと作戦への影響が出かねないのでそのままにしておく事もできないと、目の前の問題を先に片付けるべくリヴァイの部屋へと歩を進めた。エルヴィンのところへ行くのは、リヴァイを落ち着かせてからだ。