845年~851年
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「…なんだか嬉しそうだな、ユニ。」
「はい。…あの、エルヴィン。帰ったらお話したい事があるんです。」
「あぁ、分かったよ。会議の前で良いか?」
「はい。」
帰ってからは、今度はウォールマリア奪還作戦についての会議が執り行われる。近いうち決行されるであろう作戦についてだ。だからその会議の前には、先ほど医師から聞いた話をしなければならない。
私はその作戦に参加できないのだろう。そう思ったらやっぱり申し訳ない気持ちが湧いてきて、思わず無意識に、リヴァイの方を見た。
「?なんだ。」
「いや…。…リヴァイにも、話したい事があるの。あとで時間くれる?」
「…あぁ。分かった。」
2人に話したいのは同じ内容なはずなのに、向ける感情は真逆のものだ。嬉しさと、申し訳なさ。馬車の中が変な空気になりそうになったところでハンジさんが「ねぇユニ、私には?」と明るく言ってくれて、助かった。このメンバーの中にハンジさんがいてくれて、実はいつも助かっている。ありがとう、ハンジさん。
「それで、話とは?」
調査兵団本部へ戻り着替えを済ませて訪れた団長室。片腕の彼は着替えるのに時間がかかっており未だ着替えを終えていないが、会議までそう時間も無いと、本題を促した。そこで医師から貰った紙を懐から出して、シャツのボタンを留めている彼に見えるように広げた。
「!…これ、は…。」
目を見開いてその紙を手に取った彼の手は珍しく震えて、その美しい瞳が私へと向けられた。
「はい…王宮のお医者様に診てもらいました。戻りが遅くなってしまったのは、そのためです。」
「…本当に、俺との子が…。」
「はい、ここに。」
まだなんの変わりもない自身のお腹に、手を当てる。今までと何も変わりはないが、いる確率が極めて高いと診断を受けた。いるものとして扱って、問題はないだろう。
「ただ、お腹が出てくるまでは断言できないと、お医者様が──」
私の言葉を遮るように、ぎゅっと強く抱きしめられた。開いた胸元の肌が私の頬にくっついて温かくて、彼の心臓の音も聞こえてきて、とても安心する。私も腕を伸ばして、ぎゅっと抱きしめ返した。
「まさか…本当にできるなんて…。」
「ですね。…でも、嬉しいです。今回の作戦に参加できないのは残念ですし、申し訳ないですが…。…それでも、エルヴィンがいれば成功すると、信じてます。」
「あぁ…君はここで、成功を祈っていてくれ。…ユニ、愛している。本当に、こんな境遇でなければ結婚を申し込みたかったと思うほどに。」
「!…良いんですよ、結婚なんて。こうして出会ったのにも意味があるはずですし、私は今、幸せなんですから。それで十分じゃないですか。」
「そうか…、…そうだな…。」
結婚なんて、所詮書類上の繋がりだ。お互いが愛し合っていれば、結婚しているかしていないかなんて、どうでもいい。そう思うから、ピクシス司令の言葉には「結婚はしません」といつも言い切っていた。
「…リヴァイにも、話すんだろう?」
「…はい。」
「俺も同席するか?」
「いえ…大丈夫です。話せば分かってくれますから。私が全部、受け止めます。リヴァイはかわいい、私の部下ですから。」
幸い会議までは、まだ時間はある。
医師から伝えられた注意事項や対処法、緊急時の流れなどを口頭で伝えながら彼の着替えを手伝って、最後にもう一度抱きしめあってから、部屋を後にした。そうして向かったのは、リヴァイの部屋だ。深呼吸して胸に手を当てて、先ほどの紙が中に入っているのを確認してからゆっくりと2回、ドアをノックした。すると間もなく「ユニか?入れ」と返事が返ってきたのを確認してから、ドアを押し開けた。
「さっき言っていた件か?会議までに終わるんだろうな?」
「…分からない。リヴァイ次第…かな。」
本当にその通りで、それ以外答えようがなかった。私は心の準備がある程度はできていたし、受け入れている。しかしリヴァイは大事な作戦の直前にこんな話をされるのだし、怒っても仕方がないと思っている。本当に、リヴァイの反応次第なのだ。
「…座って話せ。」
彼の言葉に従いソファへと腰掛けて、数秒深呼吸してから、胸ポケットから先ほどの紙を取り出した。
「…まず前提として、今からする話を聞いたリヴァイのどんな反応でも、全て受け入れるから。それは覚えておいて。」
「あぁ…分かった。」
「……じゃあ、これを。」
スッとテーブルに置いた紙を、リヴァイは静かに手に取り、無言で眺めた。そして少しの間を置いて「……は?」と一言。そして数秒かけて読み終えたそれはまたテーブルへと戻されて、沈黙の時間が始まった。一体どれくらいそうしていただろうか。やがてリヴァイは徐ろに立ち上がり、私の隣へと腰を下ろした。
「…リヴァイ…、ごめんね…。」
「なぜ…謝る…。」
「今回の作戦に、参加できないから…。リヴァイのそばで、一緒に戦えないじゃない。」
「そうか……。それはそうだな…。…正直、失望した。」
「…そう、だよね…。」
リヴァイの声は、震えている。それが怒りから来るものなのか、悲しみから来るものなのかは分からない。しかし、そのどちらでも、私は苦しかった。
「大方、あの野郎に唆されたんだろう。…クソが…。」
「えと…、タイミング的にはそうなんだろうけど、それ以外は別に気にしてないというか…。だから、エルヴィンの事を悪く言うのは…。」
「あぁ、そうだな。…クソ…!お前は、嬉しいんだろ?なら、そんなクソみてぇな顔してんじゃねぇ。」
「だ…、だって…、私だって、リヴァイと戦いたかったよ!それに、エルヴィンの夢が…エレンの家の地下室に、ようやく行けるのに…!」
「っ、結局それか、お前らは。」
「…そうだよ。ごめんね、リヴァイ。でも、リヴァイと肩を並べていたいのも、本当だよ。」
「…っ、…クソが…!」
とうとう、リヴァイの目からは涙が零れた。こんな風に泣くリヴァイは、初めて見る。見ているこっちまで、胸が痛くなってくる。そうさせているのは、私だというのに。
「俺は今…、どうしようもなくムカついているし、失望もしている…。…だけどな、それ以上に嬉しくて、安心してるんだ…!とりあえずは、お前が死ななくて済むと、確約されたんだ。それに…お前が幸せなら、良かったと…、ッ…!」
「!…リヴァイ…!」
リヴァイに想われている私は、なんて幸せ者なのだろうと思った。そして同時に、そんなリヴァイに何も返せない私が、どんなに酷い奴かと実感した。彼は、純粋だ。本当に純粋に、私を想ってくれている。今は彼を失望させてしまった事よりもずっと、私を想う彼の気持ちに応えられない事の方が重く心にのしかかった。
「ごめん…、リヴァイ…。…ありがとう…。ごめんなさい…。」
「違ぇ…。俺は今、嬉しいんだ…。だから、謝るんじゃねぇよ…!」
思わずリヴァイを抱きしめると、彼もぎゅっと強く抱きしめ返した。それはもう、痛いくらいに。それが彼の想いの強さを表しているようで、もっと胸が苦しくなった。
「おい…あんまり泣くな…。…腹に障る。」
先に腕を解いたのはリヴァイで、気がつけば少し時間が経っているようだった。もう彼の涙は止まっていて、それを見てようやく、私の涙も止まった。
「…お前は、ここで帰りを待ってろ。…ヤツの命の保証まではしてやれねぇが…必ず、良い結果を持ち帰ってくる。」
そう言って差し出された手を、ぎゅ、と握り返した。その良い結果は、エルヴィンがいなくては意味がないのだとは、言えなかった。