845年~851年
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久しぶりに正装であるコートを身につけ、リヴァイ、そしてハンジさんと調査兵団本部の玄関へと集合した。今日は団長であるエルヴィンは本部に残るので、残念ながら彼の正装姿は拝めない。それだけが非常に残念だ。
これから、エレンら104期生達と共に訓練兵団へと赴き、キース・シャーディス元団長へと話を聞きに行かねばならない。
エレンがあの日の夜、彼の父とキース・シャーディス元団長が会っていたかもしれない、と神妙な面持ちで進言してきたからだった。
「ユニ。お前、体調は良いのか。」
「あぁ…あれ以降倒れたりはしてないよ。もう元気だから、心配しないで。」
馬に乗りいざ出発というところでリヴァイが私を気遣うように声をかけてきて、普段通り冷静に…と心がけて笑顔でそう返した。実際、あれ以降は怠さを感じたり多少の頭痛があったりはしたが、歩けなくなるほどのふらつきや気持ち悪さなどは感じていない。たまたまあの日がそうだっただけで、妊娠していたとしてもこれが私の通常なのだろう。
「そうか、ならいい。体調管理に気をつけろ。」
「はぁい。」
「またまた〜!ユニが元気ないと心配なんでしょ?素直じゃないなぁ、リヴァイは!」
「分かってないですね、ハンジさん。そういうところがかわいいんじゃないですか。」
今のはハンジさんの言った通り、"お前に元気がねぇと心配で何も手につかない"という意味の他に"だからずっと元気でいてくれ"という意味が隠されている。それが分かるから、かわいくて仕方がないのだ。
「かわいいって君は言うけどさ、リヴァイは小さいけど、もう30を過ぎたおじさんだよ?」
「年齢とかは関係ないんですよ。」
「おい、お前ら。あんまりふざけた話ばかりしてると、殺すぞ。」
「はいはい。104期生達も来たし、行こうか。」
ハンジさんがいると、ついつい無駄話をしてしまっていけない。あとからやってきた104期生達も準備を終えていて、ようやく終わったか…と安堵の表情を浮かべていた。
馬を走らせてしばらくはリヴァイも私の隣についてチラチラとこちらの様子を伺っていたが、やがて何事もないと分かるとようやく私から少し離れていった。リヴァイは相変わらず、私に過保護だ。
「どうしたブラウス、座らんのか。」
「いえ!わたくしめはこちらで結構です!」
「ユニ、座れ。」
「あ、ありがとう、リヴァイ。」
ただならぬ様子のサシャを尻目に、リヴァイの引いた椅子へと腰掛ける。一体訓練兵時代に何があったのか知らないが、キース元団長に怯えすぎではないだろうか。いや、まぁ、多少の予想はつくが。
「お久しぶりです、キース元団長。」
「ユニか…。見ないうちに、ずいぶん出世したな。お前の活躍は、こちらにまで届いている。」
「いえ。それは私の活躍などではなく、エルヴィン団長の指導力によるものです。今のキース元団長のお褒めの言葉は、そのように団長にお伝えいたしますね。」
「エルヴィンへの忠誠心は、相変わらずのようだな…。」
「もちろんです。…もう少しエルヴィン団長のお話をしていたいのですが…本題に移らせて頂いても宜しいでしょうか。」
今日ここへ来たのは、なにも思い出話をするためではない。本来の目的は、エレンが思い出した、初めて巨人になった時の記憶に彼が関係しているのではないかというので、その確認のためにわざわざ足を運んだのだ。こんなにも、大所帯で。
観念したようにキース元団長─キース教官が話し出したのは、昔話。それと、エレンの父との関係。そして、初めて壁が破壊された日にあった、驚きの事実。彼はやはりエレンの記憶通り、あの日、エレンに会っていたのだ。
しかしキース元団長が話すあの日の話よりも…それよりも、私はグリシャ・イェーガーの方が気になっていた。彼はその昔、壁の外側にいた。つまりそれは、壁の外側にも人類がいて、元々持っていた巨人化の力を使い壁まで辿り着いたという事で……。…あぁ、今すぐエルヴィンに、この話を伝えたい。
「あなたが退いた本当の理由が分かりました。死んでいった部下への贖罪ではなく、自分が特別じゃないとかどうとかいった、そんな幼稚な理由でここにいる。」
珍しく感情を表に出すハンジさんの声を聞いて、ハッと思考を止め、意識を現実へと引き戻した。
「よせ、ハンジ。」
「あんたの劣等感なんかどうでもいい。現実から逃げるな。公に心臓を捧げるとは、そういう事だろ!」
感情的になったハンジさんを止めたのは、冷静なリヴァイではなく、エレンの静かな言葉だった。
「やめてくださいハンジさん…。教官の言う通り、俺は特別でも何でもなかった。ただ…特別な父親の息子だった。…それだけだったんです…。」
また、エレンは弱気になっている。一体何がそうさせているのかは分からないが、彼の中では周囲の人間がみな、特別な人間に見えているのだろう。
「良いじゃない、特別な人間じゃなくたって。私だって、エルヴィン団長がいなければただの一介の兵士だったよ。私がここまで生きてエルヴィン団長の──調査兵団の役に立てたのも、エルヴィン団長がいてくれたから。私一人では、何も成し得なかった。特別じゃない私でもここまでこうしてやってこられたんだから、大丈夫よ。つまり何が言いたいかって言うとね、特別か特別じゃないかなんて、関係ないって事だよ。」
最初に"自分は特別な人間なのかもしれない"と思ってしまったら、特別じゃないと分かった時、辛いだろう。私には彼らの言う"特別な人間"であるエルヴィンがいたから、自身が特別だなんて思った事がなかった。彼の言う通りに動けば大体の事は上手くいったから、そんな勘違いはせずに済んだ。ただ、それだけの事。
「…お前のエルヴィンへの忠誠心…いや、信仰心は、ホンモノだな…。」
「ふふ、もちろんです。」
それに関しては、舐めてもらっちゃ困る。