845年~851年
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「…っ!」
「!…おい、ユニ。立ちくらみか?顔色も悪いようだが。」
立体機動訓練のため装置の保管されている部屋へ向かう道中、突然視界が白み始めふらついたところを通りがかったリヴァイにしっかりと抱きとめられた。今日は朝から頭がボーッとして頭が重いような気がしていたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。
「…平気。少し、疲れてるのかも…。リヴァイ、今日の立体機動訓練の教官、代わってもらえる…?」
「あぁ、了解だ。しかし、お前を医者に診せてからな。」
「いや…大丈夫。一人で行けるよ。訓練の開始予定時刻まで時間もないし、少し休んでから行くから…。」
「ここから医務室まで、何事もなくお前が一人で行けるのか分かったもんじゃねぇ。俺が連れていくのが早ぇだろ。」
確かにここから医務室まではそう遠くないが、体調が悪い状態で行くには少し気合いがいる距離ではある。だいたい、50mほどの距離だろうか?その距離ならばリヴァイの言う通り、彼に介助を頼めば2~3分とかからないだろう。
「…ありがとう、リヴァイ…。」
「お易い御用だ。ほら、掴まれ。」
体調が悪いと自覚すると途端に自覚病状が出てくるもので、立ち上がる事すら難しく思えてくる。何とかリヴァイの肩に腕を回し立ち上がったが、ほぼリヴァイの力で進んでいるといっても過言じゃないだろう。そうしてリヴァイに抱かれるように辿り着いた医務室の扉を開けると、中にいた医師は驚いたように私達を数秒眺めたあと、すぐ側のベッドへと案内した。あの焦りようはリヴァイが無言で睨みつけたに違いないのだが…それを咎める気力は、今の私にはなかった。
「コイツがこんなになったのは、俺も初めて見る。何か重大な病気がねぇか徹底的に調べろ。立体機動訓練が終わったら、また来るからな。」
ベッドに横になった私の額に手を置いてから、リヴァイは踵を返し医務室をあとにした。絶対私はいま、脂汗をかいているのに…。
「えぇと…、お話は可能ですか?」
「はい…。」
「では、どういった症状が…?」
「朝から、だるくて…。ついさっきは、立ちくらみが…。」
「なるほど…少し、失礼しますね。」
手袋を嵌めた医師は私に許可を取ってから、私の両頬に手を当て下瞼を僅かに引き下げた。そうしてしばし私の目を覗き込んだのち「貧血、ですね」と一言。なんでも、下瞼の内側が白いと貧血状態なんだとか。
「少し、点滴を打ちましょう。楽になりますから。ユニさんはこの後、仕事に戻られるおつもりでしょうから。」
「…はは…よくお分かりで…。」
「いつも兵団内を走り回っておられますからね。お休みも取られていないと聞きますし。…少し、チクッとしますよ。」
ガチャガチャと点滴の準備をするのを眺めながら、頭の中では今日のこの後のスケジュールを組み立てていた。点滴は2時間ほどかかるようだし、明日でいい仕事は明日に回して…と考えていると腕に僅かな痛みを感じて、点滴用の針が刺されたのだと分かった。私は今から2時間、ここから動けなくなった。
「しかし、どうして急に貧血に…。以前から、このような症状はありましたか?」
「いえ。これまでは至って健康でした。初めての事なので、少し戸惑っています。」
「…失礼ですが、妊娠の可能性はありますか?」
「!…妊娠すると、貧血になるんですか…?」
「……必ずそうなるわけではありませんが…多くの女性は、そうなる傾向にあります。…最後に月経が来たのは、いつ頃ですか?」
「……2ヶ月、前…。」
「そうですか…。ユニさんに心当たりがあるのなら、ここではなくちゃんとしたところに行って診てもらう必要があります。」
「分かりました…。…えぇと、エルヴィン団長に伝言をお願いしてもいいですか?…可能性の事は、一旦伏せて頂いて…ただ、貧血を起こして点滴を打っていると。」
「そうですね。かしこまりました。」
医師が部屋を出ていくのを見送って、ふぅ、と息を吐く。点滴の影響か少し体は楽になって、多少頭が回るようになってきた。
まさか、本当に…?まだ確定したわけではないが、そうなる事は前もって覚悟していたはず。エルヴィンだって、それを望んでいる。それなのに可能性がある事は伏せると選択したのは……怖くなったからだ。もし本当にそうだったとして、産むのが怖いだとか、そんな簡単な話じゃない。むしろそれだけなら、私は喜んで産み育てるだろう。私が怖いのは、それを伝えた時の反応だ。いずれ知られる事だというのは、私も分かっている。しかしエルヴィンにそれを伝えて、いざ兵団を辞める…もしくは休むとなれば、私はウォールマリア奪還作戦に参加はできない。対するエルヴィンは、無理やりにでも参加をするだろうと確信している。エルヴィンの父の仮説を証明する確固たるものが、エレンの家の地下室に隠されているのだから。何がなんでも行くはずだ。…私を壁の中に置いて。その瞬間に私は、立ち会えないかもしれない。いや、きっと立ち会えないだろう。それがどうしても、私は悲しい。
それに、リヴァイの事もある。彼は私を信頼し、共に肩を並べて戦える仲間だと信じてくれている。そんな人が大事な戦いを前に前線を退くだなんて、彼を失望させてしまうかもしれない。だけど、エルヴィンがこのタイミングでこれを望んだのには、何か意図があるはずなのだ。じゃなきゃこんな人生を左右するような大事な事、そもそも提案する必要がない。私はずっと、エルヴィンのために生きている。だから、提案を受け入れた。それでもやっぱりリヴァイに失望されるのは、少し怖かった。
「…病院、行かなきゃなぁ…。」
まずは、本当に妊娠…しているのか確かめなくてはならない。先の事を考えるのは、それからだ。
ガラ、
「ユニ。」
「!エルヴィン…団長…。わざわざ来てくださったんですか?」
突如開かれた扉から顔を見せたのはエルヴィンで、条件反射で自然と笑顔が零れた。朝も顔を合わせたというのに、彼の顔を見られるだけで嬉しくなってしまうのだから仕方ない。
「…当たり前だろう。いつも元気な君が倒れたんだからな。…点滴が効いているのか…思っていたより、顔色は良いようだ。」
「はい。ここに来た時よりも、だいぶ楽になりました。ありがとうございます。」
「いえ。元気になったのなら、何よりです。これが全て無くなれば、お仕事に戻って頂いて結構ですので。」
「そうか…。くれぐれも、頼む。」
そう言いながらエルヴィンは医師に向かって頭を下げ、名残惜しそうではあったが医務室を後にした。本当にただ単に私を心配して来てくれたらしい。彼は今、もうすぐ開かれる王政会議に参加しなければならないため忙しいはずだ。私も同席する予定なのだが、その時にヒストリアに頼んで、腕の良い医者を紹介してもらおうか…。…とにかく、今は横になっている場合ではない。医師の言う通りこれが終わったらすぐに、仕事に戻らなければ。
「ユニ…、…ユニ。」
「…あれ…、リヴァイ…?」
私の名を呼ぶ低い声が聞こえ瞳を開けたところで、自身が眠っていた事に気がついた。眠るつもりなんて全然なかったのに、点滴の効果ってすごい。
「もう戻って頂いて結構ですよ。」
そう言われて腕を見ると点滴の針は既に抜かれていて、安心して体を起こした。
「どうやら、良くなったみてぇだな…。」
「心配かけてごめんね。それと、訓練も代わってくれてありがとう。」
「…お前が元気になったんなら、良い。本当に、ただの貧血なんだな?」
「うん。さ、早く戻らなきゃ。王政会議の準備もしなきゃね。」
「…そうだな。」
手を差し出すリヴァイの申し出を丁重にお断りし揃って団長室へ向かうと、部屋の主はあからさまにホッとした表情で私達を迎え入れるものだから私は思わず顔が綻んだし、リヴァイからは盛大な舌打ちが飛び出した。