845年~851年
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「ユニさんは、どうして調査兵団に?」
調理を開始してしばらく経って、エレンの口から出たのはありきたりな質問だった。世間話のつもりだったのかもしれない。実際調査兵団を選ぶなんて人は変わり者として見られるし、兵士の間でもよく話題に上がる話だった。しかし私が調査兵団へ入った理由は、不思議と他の兵士には話しては来なかった。というよりは、私自身がその話題から逃げてきたからだ。でももう、そんな事をする必要も無いのかもしれない。
「私は……調査兵団の人達に憧れてたの。外に行くだとか、巨人を全滅させるだとか、そういう夢を持っている人達が羨ましかった。」
「?ユニさん自身が外に出たかったとか、そういうわけではなくて?」
「うん、なかった。ただただ羨ましくて、調査兵団に入ったら私もそうなれるんじゃないかって思ってたの。…実際、そうはなれなかったんだけどね。」
未知の世界に足を踏み入れれば、価値観が変わるかもしれないと思っていた。最初こそ新鮮で楽しかったが、慣れてくるに連れて仲間の死や脱退での別れが増え、喪失感や無気力に襲われた。私の求めていたものはここでは得られないのだと、悟ったのだ。
「でもね、結果的に調査兵団に入って良かったなって思うよ。エルヴィン団長と出会えたから。団長は私に、生きる意味や目的、夢を与えてくれたの。…ふふ、私にとって運命の出会い、だね。」
「運命の出会い、ですか…。結構ユニさんて、ロマンチックな事言いますね。」
「そう?でも、本当に運命の出会いだと思うのよ。もしエルヴィン団長と出会ってなかったら、私はとっくに死んでたかもしれない。…だからエルヴィン団長は私にとって、運命の人だね。」
「そうなんですね…。なんだか、羨ましいです。俺にもそんな人が現れると良いんですが。」
「案外、もう出会ってるかもよ?…ふふ、なんてね。」
「……ユニさんって、やっぱりかわいらしい人ですね。勘違いしてたのは勘違いだった気がしてきます。」
「エレン…難しい事言うね。さ、出来た。リヴァイも呼んで、早く食べよ。エレンはリヴァイを呼んできて。その間にお皿に盛り付けるから。」
鍋の中には、何の変哲もない温かいスープ。それと1人あたりの量は少ないが魚料理と、いつもの黒パン。豪勢な食事とはいかないが、普段野菜ばかり食べている私達兵士からすれば魚料理があるだけでも多少は豪華…といっても過言ではないだろう。
「よし。…ん?」
盛りつけを終えて何気なく入口の方へ視線を向けると、小さな男の子が1人、調理室を覗き込んでいた。目が合った途端ドアに隠れつつこちらの様子を伺っているあたりその子は人見知りで、そして同時に、お腹を空かせているのかもしれないと思った。
「…お腹が空いてるの?一緒に食べる?」
努めて優しく声をかけたつもりだが、その子はそこから動かず、かといって逃げるわけでもなく、そこからこちらを見続けた。できる事なら食べたいが、私がどんな人間なのか分からなくて怖がっている…のかな?
ゆっくりと近づき腕を伸ばして届くか届かないかの距離でしゃがみこみ手を伸ばすと、その子は少し警戒したが、「良かったら、一緒に食べよう。おいで」と再度優しく微笑みかけてようやく、私の手を取ってくれた。…かわいい。
「あ?なんだ、このガキは。」
「こら、怖がらせないの。大丈夫、こう見えてこのお兄さん、優しいから。」
「…悪かったな。ビビらせちまって。」
「ほらね?」
膝の上に乗せたその子と2人の帰りを待っていると、突然のリヴァイの登場に男の子は少し緊張したように肩を強ばらせたが、素直に謝罪の言葉を口にした事でゆっくりとその肩の力は抜けていって、やがて警戒を解いた。守るべき子供相手にもこの態度なのだから、本当に困ったものだ。
「さ、手を合わせて。…いただきます。」
後ろからその小さい手を取って手のひらを合わせていただきますをすると、言葉は出なかったが僅かに頭を下げた。もしかしら声が出ないか、喋る事が苦手なのかもしれない。小さいその子に合わせてパンをちぎって与えると、少し迷った末にパクリと口に含んだ。もぐもぐと咀嚼しながら小さい手はスプーンへと伸びて、スープの中へとスプーンを沈めた。
「…スプーンはね、こうやって持つんだよ。」
早く食べたいのか、元々持つのが苦手なのか、たどたどしいスプーンの運び方で口の周りにスープをいっぱいつけているのをハンカチで拭ってから、その子の右手に自身の手を添えて持ち方を直した。そして綺麗に掬ってあげて口元まで運んで「はい、お口開けて。あーん」と促して、開いた小さい口の中にスープを流し込んだ。
「ん、上手にできたね。…何?2人とも。」
視線を感じて2人を見れば、どちらも食事の手を止めこちらを見ていて思わず眉間に皺を寄せてしまった。なんだ、その意外そうな目は。
「いや…ユニさん、子供好きなんですね。」
「……、…別に、好きとかそういうのでは…。」
不意に、エルヴィンとの事を思い出す。もし子供ができたら、調査兵団をやめて欲しいと言っていた事を。私はあの時、彼との子供ならば育てていけると言った。だから無意識に、この子にも優しくしてしまったのかもしれない。
「ユニさんは、いいお母さんになりそうですね。」
「…そう?…、それって褒めてる?」
「褒めてますよ!」
私は今もあの時と同じように、あの人との子供ならば育てていけると思っている。しかし…、私がそれを望んでいるかどうかは、私にも分からない。そう思ったら急に、怖くなった。
「ユニ。ボーッとしてたら、飯が冷めちまうぞ。」
「…そうだね。…お魚は食べられる?小さくするから、一口食べてみようか。」
「ん……おいしい…。」
「お、喋ったね。」
「!?リオお前…、喋れたのか…!?」
エレンが突然、ガタ、と音を立てて腰を上げた。その様子を鑑みるに、この男の子──リオは、今まで人前で喋った事がないのだと窺える。確かに会ってから今まで一言も言葉を発する事はなかったが、まさかよく顔を出しているであろうエレンやヒストリアの前でもそうだったなんて…少し、嬉しいかもしれない。
「リオ…って呼んでもいい?」
「うん…。」
「私はね、ユニ、っていうの。好きに呼んでね。こっちはリヴァイで、エレンは…知ってるか。」
「うん。」
「あなたとお話できて、嬉しいよ、リオ。」
「…うん。」
「さ、まだ食べられそうなら、もっと食べて。」
普段ここではゆっくり静かに食事を摂る事もないだろうから、今くらいはゆっくり、食べさせてあげたい。
ここにはたくさんの子供達がいる。出身も年齢も違う孤児が、たくさん。この子は多分相当な人見知りだろうから、いつも緊張してしまっているに違いない。現に今は先ほどまでの無表情から、少しだけ笑顔を零すようになってきている。
「……もしかして、寝たかな?」
もう食べられないと言うまで食べさせた後、体を向き合わせて抱いて気がついた頃にはリオはまた一言も喋らなくなり、体重がズシリと重くなった。全身脱力したようなそれはまさに眠っている人のそれで、私の問いかけにも無反応という事はそうなのだろう。
「コイツは、俺が部屋に連れていきます。ユニさん、今日はありがとうございました。」
「え?」
「わざわざ、俺を心配して来てくれたんですよね?」
「あぁ…、それはそうだけど…。お礼は私じゃなく、リヴァイにしなよ。」
「あ?俺は関係ねぇだろ。」
「何言ってるの。素直じゃないんだから。」
「お2人とも、ありがとうございました。また明日から、硬質化の訓練、がんばります。」
エレンは今までだってがんばっているのだし、無理をしないようにと言ったはずなのだが…、まぁ、表情は来た時よりもいくらか晴れやかなものになっているし、良いか。
「…じゃあ、また来るねって伝えて。」
最後にエレンの腕の中に移ったリオの頭を撫でて、彼らを見送った。私達も、リヴァイの淹れた紅茶を飲んだら戻らなくてはならない。
「…ユニ。お前……何かあったか?」
何かを確信したようなリヴァイの聞き方に、咄嗟に言葉が出てこず、ただ静かに視線を向けた。そうして数秒見つめあったあと「何かって?」と聞き返した私に対するリヴァイの答えは「いや…言いたくねぇなら良い」だった。
言いたくないなら、なんて言い方…まるで"何か"はあるのに言わない事を選んでいるようではないか。いや、実際にはその通りなのだが…リヴァイに話す勇気は、無い。
「…帰ろうか、リヴァイ。」
「…そうだな。」
だから今は、聞かずにいてくれるリヴァイに甘えて、逃げる事を許してほしい。