845年~851年
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「ユニ、本当に良いのか?」
「もう…執拗いですよ。良いんです。激務に追われて疲れてるんですから、ゆっくり過ごしましょう。」
ずいぶん久しぶりの休暇。エルヴィン団長が今の地位に就いてから初めての、2人揃っての休暇だ。その貴重な休暇に何をするかだが、私は彼に「調査兵団本部か、もしくはその近辺でゆっくり過ごしたい」とお願いをした。どこか行きたいところはないのかと聞かれたが、エルヴィン団長とならどこにいたって楽しいし、癒されるし、幸せだ。だから一番落ち着く、調査兵団本部で過ごしたかった。
「私はエルヴィン団長がいてくれれば、それで十分です。…ふふ。」
言いながら私の淹れた紅茶を飲む団長の膝に腰掛け、彼に凭れる。服越しに彼の体温が伝わってきて、とても安心する。背中に回された手の温かさも、愛おしい。
「…君は…、……君は、結婚をしたいと、思った事はあるのか?」
「…え……?」
恋人から突然"結婚"というワードが出てきて冷静でいられる人などいるだろうか?いや、きっといないはずだ。喜びだったり戸惑いだったり驚きだったり、みんな何かしら心を揺さぶられるだろう。どういう意図でそんな事を聞いたのか分からず顔を上げるとエルヴィン団長は真剣な表情で私を見下ろしていて、言葉に詰まって思わず視線を落とした。まさか私達のような調査兵団の兵士が結婚だなんて、私もそうだが、早々に諦めている。が、エルヴィン団長が聞きたいのはそういう事ではないはずだ。思った事が"あるのか"、"ないのか"だ。
「どう、でしょう…。私は本当にエルヴィン団長とこうしているだけで幸せですし、わざわざ結婚する意味があるのかどうか……分かりません。」
「……なら、子供が欲しいと思った事は?」
「!…それは…、……なくはない、です。けど…、自分が母親になれるとは、思えません。うちの母は、変わった人でしたから。お手本となる人がいないので、お母さんがどういうものなのか、分からないんです。」
私の母は、他所のお母さんとは全然違う。良く言えば自由で、放任主義。悪く言えば無関心。私が訓練兵団に入りたいと言った時は「へぇ、良いじゃない」、調査兵団に入ったと報告した時は「そうなの」と、まるで関心がないような反応を示した。しかし、私もそれで嫌いになったりはしなかった。その言葉の後には必ず「がんばりなさいよ」だったり「死ぬんじゃないよ」と、背中を押すような一言を付け加えてくれる人だから。つまりは、私の決めた事を否定せず、応援してくれる人だという事だ。しかし俗にいう"お母さん"というものは違うのではないかと気づいたのは訓練兵団へ入ってからで、他の訓練兵の"お母さん"の話を聞いてショックを受けたものだ。
「君のお母さんは、素晴らしいお母さんだと思うが。その人から生まれたのが、君なんだから。」
「…エルヴィン団長は、何でもかんでも私を肯定しすぎです。」
「はは、これが惚れた弱みというやつかもな。…ユニ。」
おでこに柔らかくて温かい感触を感じて、続けて名前を呼ばれて、ふにゃふにゃの顔で見上げると彼も愛おしそうな優しい笑顔で私を見下ろしていて、自然とどちらともなく唇を重ねた。幸せだなぁ…できることなら、ずっとこうしていたい。
「…私は、君との子供ならと、思っているんだ。」
「!…えぇと、それは…。」
「…今から君に、悪魔みたいな提案をしても良いか?」
「悪魔みたいな、提案…ですか?」
「あぁ。聞く人が聞けば最低だと言われるような提案だ。」
急に、話の流れが変わった。最低だなんて、悪魔みたいだなんて、私がエルヴィン団長に対してそんな事、果たして思うだろうか?私は彼の悪魔みたいなところも含めて全て受け入れ愛しているし、最低だと失望する自分を、微塵も想像できない。
「私に限ってそんな事はないと思いますが…聞かせて頂いても…?」
凭れていた体を起こして、今度はまっすぐ彼の目を見つめた。エルヴィン団長のその瞳は、いつもと同じ、よく晴れた日の青空みたいに綺麗だ。
「…医学的に、避妊をせずに性行為をした場合、無事に受精する確率は20~30%なんだそうだ。」
「えっ!?…は、はい…。」
「これは、高いと思うか?」
「えぇと…、どうでしょうか?7割8割が辿り着けずに全て死滅すると考えると、1回の行為で2割から3割だと、低い…ような気が…?」
「まぁ、そうだな。決して高くはない確率だ。」
「……それで、提案というのは、どういう…?」
いきなり生々しい話題で、返答に迷ってしまった。迷った挙句頭が良いフリをして失敗したような形になってしまったが、エルヴィン団長はそんな事は気にも止めていないようだった。
「あぁ…、純真無垢な君にこんな事を言うのは、私も胸が痛むんだが…。」
「…純真無垢…ですか?…ふふ、エルヴィン団長、私の事いくつだとお思いですか?もう31歳ですよ。」
「…31…、君ももう、31か…。…そうか、通りで私も歳を取るわけだ。…君は、綺麗になったな…。」
「……エルヴィン団長の隣に立つには、ちゃんとしなければなりませんから。…エルヴィン団長も、お若い時も今も、ずっと素敵です。」
優しく頬に触れた手を、両手で包み込んだ。少し迷った末団長はようやく口を開き、その悪魔の囁きを口にした。
「今日ここで私と君とで行為に及んで、もし、子を成したら……その時は…君は前線から退いて貰えないだろうか?」
「っ!?そ……それ、は…、エルヴィン団長からの、お願い、ですか…?」
「そうだ。私は君との子が欲しい。正直に言えばいま君が断っても、嫌がる君を押さえつけてでも事に及ぼうと考えている。」
なるほど、これは確かに、悪魔の囁きだ。
私はずっと、エルヴィン団長のために動いていたい。エルヴィン団長が人類滅亡を阻止すると言うならそのために動くし、巨人の謎を解明したいと言うのなら手を貸す。今まで私は、そのために生きて、動いてきた。それらをするには調査兵団にいるのが一番手っ取り早かったから、彼がいるのが調査兵団だったから、ここにいて、彼の言う事に従ってきたのだ。
しかし前線を退いてしまっては、それもできなくなってしまう。ただ私は、彼の片割れである我が子と共に生きていくだけの人生に───
「…エルヴィン団長が、それで幸せだと言うのなら…構いません。…むしろ、私もエルヴィン団長の子なら、何がなんでも育てていける気がします。…ただ、エルヴィン団長の夢を叶えるお手伝いが…。」
「…それなら、もうすぐ叶うだろう。だから、それは考慮しなくて良い。」
「じゃあ…エルヴィン団長は…?」
夢が叶ったら、その後は、彼はどうするつもりなのだろうか。
夢が叶ったと満足して、調査兵団団長の座を降りて、街で暮らすだろうか。それとも、壁の外に人類がいたと証明されればその人類を探しにいくだろうか。そして壁の外にいる"壁内人類を滅ぼそうとしている奴ら"を殺すため、調査兵を動かすだろうか。
「…分からないな。その時になってみない事には。…狡い言い方だな。すまない。」
「いえ…、その通りですね。…なら、私もそうしましょう。私も…その時に考えます。エルヴィン団長が先に、狡い言い方をしたんですからね。」
「!…これは、1本取られたな…。…後悔はしないか?」
「?エルヴィン団長、さっき無理にでも事に及ぼうと考えてるって言いましたよね?そうして頂いても良いんですよ?」
「…君は本当に、男よりも男らしい思考の持ち主だな。」
「褒め言葉として受け取ります。」
「…さっきまで迷っていた自分が、情けなく思えてくるよ。」
「大丈夫ですよ。私はそんなところも全部、愛してますから。」
無理やりなんて本当は、するつもりなんてなかったはず。だってエルヴィン団長は、とことん私に甘くて、優しいから。だから私はずっと、エルヴィン団長に溺れているのだ。