845年~851年
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「……悪い。忘れろ。」
「ふ…、うん、分かったよ。」
しばらく抱きしめあってようやく落ち着いてきた頃にリヴァイが発した言葉は、「忘れろ」。
30を超えた大の大人がこんな風に泣いてしまって、恥ずかしいのだろう。私は全然、気にしないというのに。
パッとお互い体を離して、冷め始めている紅茶へと意識を戻した。口に含むとやはり少し温くて、グイ、と一気に飲み干した。
「それで、仕事の話の方は?」
カップを置いて話題を切り替えると、先ほどまでと雰囲気が変わり、いつものリヴァイが戻ってきた。
「あぁ。ヒストリアの政策だが…孤児院を建て、その後の生活を支援するつもりらしい。それで、地下街出身の俺に力を貸してくれと打診があった。」
「そうなの?いいじゃない。ヒストリアの支持率が上がるのは大歓迎だし、がんばって!」
「あぁ。だが、俺はこういった事は得意じゃねぇ。どちらかといえば苦手だ。そこでだ。お前の力を借りてぇんだが。」
「私の?」
リヴァイに、私の力など必要だろうか?
「具体的には、何を?」
「明後日はヒストリアとの打ち合わせだけだが、2週間後の政策会議で使う議会向けの資料作成やら、説明やらだ。俺はどうやら、要らねぇ事を口走っちまうみてぇだからな。」
「資料作成なら手伝えるけど…説明は、リヴァイがした方が良いと思うよ。リヴァイの言葉は真っ直ぐだから、聞いた人に直に届く。それにリヴァイが言うからこそ説得力があるんじゃない。いつも通りのリヴァイの言葉で大丈夫。私が保証する。どうしてもと言うなら同席するし、補助くらいならするよ。」
「そうか…。…なら、頼む。」
「OK。じゃあまずは明後日、私も行くよ。」
明後日なら、特に決まった用事は無い。今日明日で多少の無理をすれば、1日確保する事は可能だろう。
「団長様の他に仕事を増やしまって、すまねぇな。」
「…何言ってるの?それが通れば、ヒストリアの、ひいては調査兵団のイメージアップに……、いや、違うね。リヴァイが何かをがんばろうとしてるから、応援したくなった。リヴァイの苦手な事があるというのなら、それは私がやるよ。力になりたい。」
「…ユニ。」
「なに?」
「キスしてもいいか?」
「…言うと思った。お断りします。」
「チッ。」
本当に彼は感情の表現がストレートすぎやしないだろうか?もはや気持ちいいくらいだ。
そのくせ素直じゃない事の方が多く、リヴァイという男は本当に分からない。
「おはよう、ヒストリア。」
「えっ、ユニさん?おはようございます。なんだか…お疲れですね…?」
「大丈夫よ。エルヴィン団長のために働いてると思えば、むしろ嬉しいくらい。…ふふ。」
「…気色悪ぃな。」
ゴッ、
「今の一撃は良かったな。だいぶマシになってきたじゃねぇか。」
「…そのわりには全然効いてないみたいだけど。腹立つ…。」
思いきりリヴァイの脇腹に肘を食らわせたのだが、彼は多少体の向きを変えただけで涼しい顔をして立っていて余計に腹が立つ。この男の体は鋼か何かでできているのだろうか。
「…じゃあ、始めようか。私が記録するから、2人で話してね。」
鞄から取り出したノートと筆記用具を机に広げて眼鏡をかけて、本日の議題を書き出した。議題は、"孤児院の設立・運営についてと、生活貧困者への支援について"だ。
最初はお互いなかなか言葉を発さなかったが、私がいくつか質問をすると徐々にヒートアップし始め、数分もすればむしろ私が言葉を挟む隙は無くなってしまった。代わりに、2人の話している内容の大事な部分をピックアップし、ノートへつらつらと書き記した。
カリカリカリ──
「……ん?…なに、2人とも。どうかした?」
不意に2人の声が止み、紙にペンを走らせる音だけになり顔を上げると、揃ってこちらへ視線を向けていた。一体何だろうかと不思議に思ったが「腹が減ったな、と言ったんだ」と。
時計を見るとかなりの時間が経過していて、ノートへ視線を移すと見開き両面びっしり書き込まれており、その最後には"腹が減った"と書かれていたので斜線で隠した。どうやら集中しすぎてしまっていたらしい。
「ごめんごめん。昼食を摂ろうか。」
「あ、はい。すぐに持ってきて貰えるように、伝えてきます。」
カチャ、と小さい音を立てて外した眼鏡をケースに入れ、ノートをしまい筆記用具を片付ける。その間ずっとリヴァイの視線を感じてはいたが、特に触れる事なく片付けを終えた。
「お前…目が悪いのか?眼鏡なんてかけてるのは初めて見たが。」
「いや、悪いというほどでは…。ただ、書類仕事ばかりしてると目が疲れちゃって、手元が見えづらくなるの。大丈夫、普段はちゃんと見えてるよ。」
「そうか、なら良い。…俺は粗方言いてぇ事は言ったが、どうだ?どうにかなりそうか?」
「ふふ、大丈夫。任せて。午後は具体的な流れとか、そういう話をしようか。…ん〜。」
緩やかに体を伸ばすと、肩や首からバキ、バキ、と音が響く。昨日は団長補佐としての事務作業をできる限り限界まで片付けてきたため、疲れが残っていたのだろう。「ふぅ…」とひと息ついて元の体勢に戻ると、多少体の重みがスッキリした。
「悪いな。付き合わせちまって。」
「だから、それは良いんだって。これで王政が良い方に向かってくれるなら。」
「俺が言えた事じゃねぇが、ちゃんと寝ろよ。」
「フッ……本当、リヴァイが言えた事じゃないね!」
彼の優しさが、体に染みる。
やがて運ばれてきた食事を見てリヴァイは「…俺ら兵士の食事とは大違いだな…」と眉間に皺を寄せていて、ヒストリアの肩身を狭くした。ヒストリアに言ったって仕方がないのに。しかし出されたものはしっかりと食べ、私もリヴァイも久しぶりにお腹いっぱいになった。食後の紅茶も美味しいのなんのって。なんの茶葉か聞くとやはりとても高価なもので、気に入ったのだと言うと帰りに持たせてくれるというヒストリアの言葉に甘えてしまった。しかしリヴァイは「お前の淹れる紅茶の方が美味い」なんてかわいい事を言ってくれて、頭を撫で回したくなった。さすがにやらなかったが。
「……ごめんリヴァイ…、ちょっと仮眠する…。ヒストリアが来たら……──」
起こして、と言ったつもりだったが、もしかしたら言葉は続かなかったかもしれない。昨日は限界まで仕事を片付けて、そして今、温かいいつもよりも栄養のある食事を摂り、急激な眠気に襲われた。部屋は程よく日差しが入り込み喧騒とはほど遠く鳥の囀りなんかが聞こえてくる始末。こんなの、眠くならない方がおかしい。
どれだけそうしていたのかは分からないが、ふと瞳を開けるとヒストリアが困ったように正面からこちらを窺っているのと目が合い、頭の上には「?」が浮かんだ。リヴァイには、ヒストリアが来たら起こしてと伝えたはず。最後まで言葉が紡がれていなくとも、意図は伝わったはず。…なのだが……、まさか…。
自身が寄りかかっている方をチラリと見ると、リヴァイの黒髪が視界に移って、私がそうしているように、あちらも私に凭れかかっていた。つまりは、2人とも眠ってしまっていたという事だ。こちらが身動ぎした事でリヴァイも目を覚まし反射的に「あ?」とヒストリアを睨みつけ、何も悪くない彼女を無駄に怖がらせた。
「…ごめん、ヒストリア。続きを始めようか。」
仮眠をとって、もう頭はスッキリしている。2週間後に控えた会議の資料を作るには、今日中に構成までは決めておかなければ。それに今の私達に比べ、ヒストリアは忙しいはず。なるべく早めに資料を作成し終え、2人に渡してあげたい。まだ休みたいと言っている体には気が付かないフリをして、再び机に筆記用具を広げ、話し合いを再開した。全ては、調査兵団のために。