845年~851年
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ヒストリアが女王に即位してから、数週間が経った。我々がクーデターを成功させ新たな女王を立てた事で、世間での調査兵団の評判は頗る良くなった。これもひとえに、エルヴィン団長の手腕と、残った団員達の努力のおかげだ。もちろん、死んでいった兵士達やヒストリアの力も大きかった。
そしてそのタイミングでエルヴィン団長は、人員不足解消のため各兵団に調査兵の募集を呼びかけた。そしたらまぁとんでもない数の応募があり、今や調査兵団本部には、新しい顔ぶればかりで溢れ返っていた。それでも未だに応募は止まらず、私含む上官達は毎日、大忙しだ。
「ユニさん!お怪我の具合はいかがですか?」
「エレン!なんだか久しぶりね!もう少しで完治しそうなの。団長のOKが出たらまた立体機動訓練ができるから、もう少し待っててね。」
時間を取れたし気分転換に久しぶりに講堂で食事を摂ろうと来てみれば、エレンが真っ先に声を掛けてくれた。彼に会うのもずいぶん久しぶりな気がして、その会えていなかった間はずっと自室や団長室に籠り仕事三昧だったのかと思うと、少しばかり悲しくなってくる。
「本当ですか?楽しみにしてます。もし良かったら、一緒にどうですか?」
「本当?じゃあ、お言葉に甘えて。ミカサ、いい?」
「…はい。もちろんです。」
"もちろん"とは言い難い表情のミカサ。その顔を見て空気を読みエレンの隣を避けて座ると、ようやく表情が僅かに緩んだ。
「ユニさん…新聞で見たよりも美人だな…。」
「ユニさん!おいくつなんですか?あと、彼氏はいるんですか?」
「お、おい。そういうのはやめろ…!」
浮ついた質問を投げてきたのは、言わずもがな新兵。止めたのはエレンで、ミカサが続けて「面倒なのが来る…」とボソリと言うのでそれが誰を指しているのか分かり、少し笑ってしまった。
「おいお前ら…ずいぶんと楽しそうな会話をしてるじゃねぇか。」
「リ、リヴァイ兵士長…!」
やっぱり来た。顔を上げると予想通りリヴァイが眉間に皺を寄せてこちらを見ていて、首を傾げる。なんで私が睨まれなきゃならない?
「年齢は、リヴァイの2つ下。お付き合いしている人がいるかどうかは、内緒。戴きます。」
「お前ら、ユニにそれを聞いてどうするつもりだ?まさか、もしかしたら付き合えるかも…なんて浅ましい事、考えてねぇよな?」
「は…はい…!決して、そのような事は…!」
「なら良い。ちなみに俺は33だ。」
ドンッ、
暈した年齢をサラッと暴露するリヴァイの脇腹を、思わずグーで殴ってしまった。いや、でも、今のはリヴァイが悪いだろう。
「女性の年齢を勝手にバラすのはやめなさい、リヴァイ。」
「あ?……よく分からねぇが、今後気をつける。それでいいか?」
「宜しい。ところで、私に何か用?それなら、食事が終わってからで良ければリヴァイの部屋へ行くけど。」
「あぁ、頼む。」
用は済んだと、リヴァイはこの場を後にした。それと同時に、新兵達は一斉に息を吐き出した。この場で狼狽えているのは、新兵だけだ。104期生達なんてもう慣れた様子で、いつも通り雑談しながら食事を進めていた。
「ユニさんって…何者なんスか…?」
その問いに対する私の答えは、「団長補佐」ただ一択だ。
コンコン、
「ユニか?入れ。」
久しぶりに団員達と食事を摂ってリラックスした気分のまま、リヴァイの部屋を訪ねた。リラックスしたついでに自室に寄って例のよく眠れる茶葉を持ってきたので、これを飲めば今日はぐっすり安眠できるはずだ。
「お待たせ、リヴァイ。仕事の話?」
「そうだな…、半々だ。」
リヴァイは団服を身に付けていたが、ジャケットは脱ぎいつものクラバットも無くボタンも2つほど外されていて、今日の仕事は片付け終えたのだと判断した。この茶葉を持ってきて正解だったようだ。
彼はそのまま徐ろに立体機動ベルトを外し始めるので、1人キッチンに向かい紅茶を淹れる準備を始めた。
「そういや聞いたか?ハンジの奴が、新しい武器を作ろうとしているらしいな。」
「リヴァイ。勝手に借りてるよ。それとその話も聞いた。対鎧の巨人用武器で、破壊力が高い分扱いに注意が必要だって。まだ設計段階だけど、完成したらテストに付き合ってくれって、直々に頼まれたよ。」
「だろうな。俺も頼まれたが、ユニに言えと断った。」
「えっ、そういう事?なんでリヴァイに頼まないのかと思ってた。」
私もハンジさんに「リヴァイの方が適任では?」と言ったのに「いや、君にしか頼めないんだよ」と言葉を濁されたのだ。まさか事前にそのような会話がなされていたとは思いもしなかった。そりゃあ「君達って、本当に似てるよね」と言われるわけだ。
「…それで、話したい事って?」
沸いたお湯をポットへ移して、他の茶器と一緒にトレーに乗せてソファのある部屋へ戻ってきた。そしてティーポットに茶葉を入れお湯を注ぐのをじっと眺めているリヴァイはなかなか話し出しそうになかったため、こちらから話を切り出した。
「…明後日、王都に行ってくる。それは知っているな?」
「うん。」
それは、エルヴィン団長から聞いている。なんでも現王であるヒストリアの今後の政策について話し合いに行くのだとか。
「俺は過去に…地下街で暮らしていた時代があった。それはお前も知っていると思うが……。」
言葉を紡いでいるうちに声色に影がちらつき始めたのに気がつきリヴァイを見ると、やはり少しばかり瞳に影がかかっていて…ティーポットからカップに紅茶を注いで、リヴァイの前へと差し出した。そして私はリヴァイの正面から、リヴァイの隣へと席を替えた。こうした方が、リヴァイは安心できるのでは、と思ったからだ。
「…美味い。」
「良かった。」
先を促しはしない。ただ一緒に紅茶の香りを嗜み、味を楽しんだ。うん、我ながら今日も、美味しく淹れられた。
そうしてしばし紅茶を楽しんだのち、ようやくリヴァイは口を開いた。
「…俺は、娼館にいた女から生まれたらしい。名はクシェル。…クシェル・アッカーマン。その女が病気で死んで1人になった俺を引き取ったのが、兄のケニー・アッカーマンだ。…母親との思い出なんて、ほとんど覚えてねぇ。…だが時たま、客に貰ったとか言う紅茶を淹れてもらったのを覚えている。お前の淹れたのに比べたら飲めたもんじゃねぇが…それでも、俺はあの時間が多分…好き、だったんだろうな。」
「そう…良いお母さんだね。」
「そうか?俺を残して勝手に死んで…ケニーが俺を見つけた時、俺も餓死寸前だったらしいんだが。」
「…それでも、どうしてもリヴァイに会いたくて産んだんだよ。産んだあとも、大きくなるまで育てる覚悟があったはず。じゃなきゃ、お兄さん…ケニーさんの反対を押し切ってまで産めないよ。それに愛情がなきゃ、紅茶なんて高価なもの、子供に飲ませないと思う。」
「……そうか…。」
「お母さんが愛情を持ってリヴァイを育てていたから、きっとケニーさんも放っておけなかったんだと思うな。…ごめん。全部、私の勝手な想像だけど。」
「いや…。実際どう思ってたかなんてもう、確かめようがねぇからな。……おい、ユニ…。」
「うん、なに?」
努めて優しい声で、返事をした。だってリヴァイの声が弱々しく、そして震えているような気がしたから。
「何も言わずに…抱きしめてもらっても、いいか?」
およそリヴァイらしくないお願いを、聞いてあげないわけにはいかなかった。ここまで弱っているリヴァイは、未だかつて見た事がない。まるで子供のように震えるリヴァイの体を、そっと抱きしめた。過去の幼い彼を、慰めるように。