845年~851年
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「撃てェーー!!!」
ドン、ドンッ!!
ロッド・レイス巨人が大砲の射程圏内に入り、作戦は開始された。壁上固定砲が火を噴き、ロッド・レイス巨人目掛けて撃ち下ろされる。その巨体に当たってはいるが……項を捉える事はなかなかできないようだ。現にその巨体は、未だ前進を続けている。
「エルヴィン!持ってきたよ!!」
「ハンジさん!」
こちらの攻撃が思うように通らず神妙な空気が漂っていたが、それを打ち壊すのはやはりハンジさんの明るい声。
そんな彼女が持ってきたのは、ありったけの火薬とロープとネット。そして、女型の巨人捕獲作戦で使用したのとよく似た、簡易的な爆発装置。手作り感満載なのが、少し不安だ。
「ユニ、リヴァイ、ジャン、サシャ、コニー。あちら側は任せた。」
「了解!」
タタタ、と駆けて"向こう"側へ行くと、あちらと同じように火薬樽、そしてロープとネットが広げられていた。これを今から急ぎ組み立てなくてはならない。
よし、と気合いを入れて樽に手をかけると、リヴァイによってその手は叩き落とされた。
「いっ…た…!!」
「バカかテメェは。樽は俺らが持つ。黙ってロープでも結んでろ。」
「ッ…、それは分かったけどさぁ…!リヴァイは力が強すぎるのよ!ロープすら結べなくなったらどうするの!!」
「そうか、悪ィな。」
コイツ…!全然悪いと思ってない!
ロープが結べないという事は、立体機動装置の引き金も引けないという事だ。リヴァイの事だからそれならそれで私を前線から退けようとしているのかもしれないが、そんなの、私がここに来た意味がなくなってしまう。
ドン!と一発リヴァイの背中を殴ってから、ロープを手に持ち場についた。
「ユニさん…前までは天使みたいでかわいい大人だと思ってましたけど、実は相当、逞しい人なんスね。」
「なーに、ジャン。喧嘩売ってる?」
「いや…リヴァイ兵長にタメ口きいたり今みたいに背中殴ったり、そんな事できる人に喧嘩なんか売らねーっスよ。」
「そう?なら良かった。」
「つーか、ユニさんと兵長っていくつなんスか?団長と仲良さそうっスけど、そんなに歳食ってるようには見えねーし…。」
「…私が31で、リヴァイは33。ちなみにエルヴィン団長は37よ。」
「えっ!!?」
目の前の樽の向こう側から、声が上がる。サシャとコニーのものだった。そしてリヴァイの「お喋りしてる暇があるなら手を動かせ」というお小言も続いた。
「ジャン。女性に年齢を聞くのは失礼に値するから、今後は気をつけてね。」
「あぁ…そーッスね。」
「よし、こっちは終わり。ッ、熱っ…!」
ブワッ──
ロッド・レイス巨人の発する熱気が、突如として壁の方へと流れてくる。
「クソッ…まずいな…。風向きが変わった…!」
洞窟の中にいた時のように、熱を含んだ暴風が壁上にいる我々の方へと吹いてくる。
ドドドド、と壁上固定砲を撃ち下ろすが、その直後、ものすごい衝撃と共に巨人の影が蒸気越しに映った。
「間に合わなかった…。…みんな、すぐに動こう。」
こうなれば、これを使うしか方法はない。向こうではエレンが、既に準備をしているはずだ。
ザバ、と桶の水を頭から被り、立体機動装置のグリップを握りしめた。
「クソ…突破される…。俺の育った街が…。終わりだ…。」
「下がってろ、駐屯兵団。あとは俺達が引き受ける。」
カッ──!
「いつでも行けます!」
もう少し……もう少しだ。
もう少ししたら、この作戦は終了を迎える。それが成功か失敗か、私達に懸かっている。
「攻撃、開始!!」
バシュゥゥウ、とエルヴィン団長の手によって煙弾が打ち上げられ、作戦は開始された。
左右同時に発射された爆発装置の爆発で両手は破損。その巨体を支えきれずにロッド・レイス巨人は壁に凭れかかった。そこへすかさず、今しがた作り終えた樽爆弾の塊をエレンの巨人が口の中へと放り込み──
大爆発を巻き起こし、肉が離散した。
「総員!立体機動でトドメを刺せ!!」
全員が、一斉に飛び出す。
ここで今、終わらせる。痛む体なんて今は気付かないふりをして、これが終わったらまた、休めばいい。できる事なら、久しく飲んでいないお気に入りの紅茶を淹れて、リヴァイとエルヴィン団長と、なんて事ない話をしたい。
ザッ、ザシュッ、ザクッ!
切っても切っても、次々と降ってくる肉片。それらを全て叩き切る勢いで、私は飛んだ。そして、手の届くところにある肉片は、全て切った。そうして地面に到達する直前──
ヒストリアが自らの手で、トドメを刺したのを見た。
「リヴァイ…、ねぇ、リヴァイってば。」
兵団が後片付けに追われている今、私はリヴァイに連れられ、洞窟のある場所まで戻ってきた。エルヴィン団長が引き止めたのにも関わらず「コイツと、どうしても話さなきゃならねぇ事がある」と譲らず、こうしてここまでやってきた。巨人はもう倒したのだから危険はないはずだが…ケニー・アッカーマンが死んだかどうか、確認はしなくてはならないのは確かだ。しかし…一言も言葉を発さないなんて、リヴァイは今、どんな事を考えているのだろうか。
「…ケニー。」
洞窟から少し進んだ先に落ちていた血痕を辿ると、満身創痍で今にも息絶えそうなケニー・アッカーマンが木を背に座っているのを発見した。この傷なら、なんの脅威でもない。
「…なんだ…、お前かよ…。」
「俺達と戦ってたアンタの仲間はみんな、潰れちまってるぞ。残ったのはアンタだけか。」
「…みてぇだな…。」
私が口を挟む必要は、ない。私はただリヴァイの後ろで、話を聞く事しかできない。
「大火傷にその出血…アンタはもう、助からねぇな。」
「……いいや?どうかな…?」
ケニー・アッカーマンが震える手で懐から取り出したのは、小さな黒いケース。その中には、注射器。
「ロッドの鞄から…ひとつくすねといたヤツだ…。どうもこいつを打って、巨人になるらしいな…。アホな巨人には、なっちまうが…一先ずは…、延命できる…、はずだ…!」
「……それを打つ時間も体力も、今よりかあったはずだ。…なぜやらなかった。」
「あぁ…、なんだろうな…。ちゃんとお注射打たねぇと…アイツみたいな出来損ないに、なっちまいそうだしな…。」
アイツ、とは…ロッド・レイス巨人の事だろう。立つこともできず、顔を地面に擦り付けながらその身を削り、呆気なく倒された、出来損ない。いや…外を歩いている巨人全ての事を言っているのかもしれない。自我もなくただ人間を食うためだけに生きている、巨人の事を。
「…アンタが座して死を待つわけがねぇよ。もっとマシな言い訳はなかったのか。」
「あぁ…俺は死にたくねぇし、力が欲しかった…。でも…そうか…。今なら奴のやった事…わかる気がする…。」
「は?」
ケニー・アッカーマンの目が、どこか遠くの方を見つめ始める。それはもうすぐ死ぬ事を意味するのか、昔を懐かしんでいるからなのか…はたまた、その両方なのか。それはこちらからは計れない。
「俺が…見てきた奴ら…みんなそうだった…。酒だったり…女だったり…神様だったりもする…。一族、王様、夢、子供、力…。みんな何かに酔っ払ってねぇと、やってられなかったんだな…。みんな…なにかの奴隷だった…。…あいつでさえも…。…ッ、ガハッ!…お…お前はなんだ!?英雄か!?」
「!」
「ケニー!知っている事を全て話せ!初代王はなぜ、人類の存続を望まない!?」
死期が迫るケニー・アッカーマンの肩を掴み、リヴァイが顔を近づける。きっともう、残された時間は残りわずかだ。
「…知らねぇよ。…だが…俺らアッカーマンが…対立した理由は、それだ…、ガハッ…!」
「…俺の姓もアッカーマンらしいな?あんた…本当は…母さんのなんだ。」
「ハッ、バカが…。ただの…兄貴だ…。」
「…あの時…なんで…、俺から去っていった?」
「…俺は…人の親には…、なれねぇよ…。」
ドン、
ケニー・アッカーマンに託された、注射器の入ったケース。それを受け取った時にはもう、ケニー・アッカーマンは事切れていた。
「…ケニー…。」
「…リヴァイ。」
そのケニー・アッカーマンを見つめる顔が子供のようで、ぎゅっと抱きしめた。リヴァイからしたらケニーは紛れもなく父親で、ケニーから見てもリヴァイは、かわいい子供だったのだろう。今のふたりの会話で、何となくふたりの関係性が分かった。リヴァイはきっとそれを私に知ってほしくて、こうしてここに連れてきたのだ。
「…帰ろう、リヴァイ。帰ったら久しぶりに、温かい紅茶を飲もう。」
「……ん…。」
そう言いながら私を抱きしめる腕を緩める事はなく、仕方なく落ち着くまで背中をさすってあげた。そうして心ゆくまでそうした後のリヴァイは、どこかスッキリとした表情を浮かべていた。