845年~851年
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「!!…すごい…これは、硬質化…!」
「っ、全員、エレンの影に入れ!!」
「うっ…!」
ピキピキと音を立てて、いくつもの柱が形成されていく。そのさまが綺麗で、そしてとても興味深く、思わず上を見上げて眺めてしまった。そうしていたらリヴァイに無理やり体を引かれて、ようやく我に返った。
ゴゴゴゴ…と大地がひび割れるような音と振動。それはしばらく鳴り響き、ようやく収まった頃には──エレンの巨人の体は、完全に水晶体で覆われていた。この水晶体はまるでアニを覆っているもののようだと触れてみると、意外にも少しひんやりしていて足元に落ちた欠片をひとつ、拾い上げた。
「エレン!」
ミカサがエレンの元へと向かうのを見て私も追いかけようとしたところを、リヴァイに引き止められる。さっきと違って今度は、優しく。
「リヴァイ…どうしたの?」
「どうした、じゃねぇよ。お前、怪我は。」
「あぁ。えぇと…また、折れたかも…。」
「ハァ…大人しくしてろ。とりあえずの脅威は去ったんだからな。」
「……じゃあ、上に上げてくれない?エルヴィン団長が、来るかもしれないし…。」
もしかしたら、もう来ているかもしれない。そう思ったら余計に、早く上に上がりたい。
「チッ…仕方ねぇな。」
不本意そうではあるがリヴァイはこちらに背を向け、しゃがみ込んだ。どうやらおんぶして、上まで連れて行ってくれるらしい。首に腕を回し体重を預けると「お前から触れたから、キス1回だな」なんてとんでもない事を言ってきて、すぐ目の前にある肩をドンッ、と思いきり叩いた。
「エルヴィンは、まだいねぇな…だが、松明の明かりがある。あの中のどれかが、エルヴィンだろうな。」
「なら…早く合流しなきゃ…。」
我々の視線の少し先には、ロッド・レイスの巨人が地面を這うように移動している。そして奴の近くの木は、次々と発火している。近づいただけで発火する程の高温。これでは、一か八か飛び出したところで項に辿り着く前に燃え尽きてしまうだろう。今すぐにどうこうできる問題じゃない。
「リヴァイ兵長!馬も荷馬車も無事です!」
「アルミン…ありがとう。さすがはリヴァイ班。優秀だね。アルミンは、私の班に入れたかったのに…。」
「俺の班もお前の班も一緒だろ。…全員揃ったか?すぐに馬に乗れ。エルヴィンと合流する。」
ゆっくりと、荷馬車に降ろされる体。胸の痛みはもちろん、両腕の痛みもぶり返してきて、上手く動かす事ができない。これではまた、しばらく入院コースかもしれない。
横になってしばしののち、私達を乗せた荷馬車は緩やかに進み始めた。
「やぁユニ。今回も膝枕を頼みたかったんだが…どうやら、無理みたいだね。」
「ふふ…この前は私がしたんだから、今回はハンジさんがしてくださいよ。」
「おい…お前らいつの間にそんな仲になってる。聞いてねぇぞ。」
「…なんでリヴァイにいちいち友好関係の報告をしなきゃならないのよ…。」
「ヤキモチを妬く男はみっともないぞリヴァイ。」
「殺すぞ、クソメガネ。」
「痛っ!ユニ!怪我人に暴力振るう奴のどこがかわいいのさ!」
「いっ…!ッハンジさん!私も怪我人だから!」
リヴァイの足から逃れようと、私の体をぎゅうぎゅう抱きしめるハンジさん。背の高い彼女は力が強く、本当に怪我人なのかと疑いたくなる。
先ほどまでの緊張感はどこへやら。ギャーギャーと騒いでいるうちにようやく、松明の明かりの元までやってきた。
「その声は… ユニか?」
「!エルヴィン団長っ!」
エルヴィン団長の低い声が私の名を呼んだのを聞き、反射的に飛び起きた。いや、飛び起きようとした。飛び起きようとして体中に痛みが走り、結局ドサ、と背中から荷馬車の硬い木の板に打ち付けた。
「!…怪我をしているのか?…他に、負傷者は。」
「…コイツの他には、ハンジのみだ。」
「…私もハンジさんも…、元気です…。」
「ふっ…、そのようだな。」
数日ぶりに見るエルヴィン団長は、見えるところは傷だらけでとても痛々しい。一体どれだけの事をされたら、ああなるのだろう。
「みんな、よくやってくれた。」
話したい事は山ほどあるが、そういうのは、あとだ。まだ、問題は残っている。
「報告する事はごまんとあるが、まず─」
「あの巨人は。」
「ロッド・レイスだ。」
「!」
「…お前の意見を聞かねぇとな。…団長。」
「……。」
一度口を閉じたエルヴィン団長は、ヒストリアとエレンをチラリと見て、何か思案した。何か、考えがあるようだ。
「…ともかく、ここで立ち話をしている余裕はない。ウォールシーナに戻る。」
「あのクソでかいのを、そこまで進ませるって事か?」
「正確にはオルブド区だ。奴の進路はおそらく、そこに向かっている。」
「何か…策があるのですね…。さすがです、エルヴィン団長…。行きましょう。」
やっぱり、私達のエルヴィン団長はすごい。
「状況を整理しよう。」
そうしてハンジさんが話し出したのは、新たに判明したエレンの父の話。そして、始祖の巨人というものの存在と、その能力について。
それを並べてみたはいいが、何をどうすれば人類にとっていい方向へと向かうのか、全くもって想像がつかない。
「つまり…まだ選択肢は残されています。俺をあの巨人に食わせれば、ロッド・レイスは人間に戻ります。完全な始祖の巨人に戻す事は、まだ可能なんです。」
「…エレン。それじゃダメだよ。それじゃ…意味がない。洗脳を解くなんて…今までだって試してこなかったわけがない。そんなに簡単な事じゃないよ…多分。それに、エレンが食われてから洗脳を解くまで、始祖の思想を受け継いだロッド・レイスが待ってくれるとは到底思えない…。その前に記憶を改竄するはず。そうなったら…また100年前と同じ歴史を辿る事になる…。」
だからといって、何か他に策があるのかと言われれば、私には無いのだが。
「……選択肢は、もうひとつあります。」
「!」
「ユニさんのおっしゃる通り、始祖の巨人の力について、未知の要素が多すぎると思います。」
声を上げたのは、ヒストリア・レイス。彼女は、この壁の中の、真の王家。ヒストリア自身の視点から、何か突破口のようなものが見えているのかもしれないと、耳を傾けた。
「むしろ、あの破滅的な平和思想の持ち主から始祖の巨人の力を取り上げている今の状態こそ、人類にとって千載一遇の好機なんです。…そう…あなたのお父さんは、初代王から私達人類を救おうとした。姉さんから始祖の巨人の力を奪い、レイス家の子供達ごと殺害したのも、それだけの選択を課せられたから。」
エレンのお父さんの事を思うと、どうしてもベルトルトのセリフを思い出してしまう。「誰かがやらなくちゃならない」と言っていた彼には、一体どんな大義名分があったのだろう。もしかしたらエレンのお父さんのような、世界を救うような、何かが………。
だめだ。そんなのは、いくら考えたって、分からない。
「レイス家の血がなくても、きっと人類を救う手立てはある。だからエレンに、地下室の鍵を託した。」
地下室の、鍵。何か巨人に関する重大な秘密があるとされている、エレンの生家の地下室。こうして彼のした事が明らかになった今、ますますその地下室に隠された謎を解明しなければならなくなった。
「壁の穴を塞ぐ目処が、ようやく立ったんだ。選択肢は、ひとつしかねーだろ。」
「…少しはマシになってきたな…。」
「私もそっちの選択に賛成だ。けど…いいのかい?ヒストリア。用のない巨人を、壁の中で自由に散歩させてあげるわけにはいかない。あのサイズじゃ拘束も無理だろう。つまり…、君のお父さんを殺す他なくなる。」
世界は、残酷だ。ひとつ乗り越えたと思ったら、また次の問題が降ってくる。間違えると、命を落とす。タイミングを間違うと、このような悲しい結末を迎える。
ヒストリアはようやく、父との再会を果たしたばかりだというのに。こればっかりは私からも、何も言う事はできなかった。