~844年
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「それで、君の今後の話だが。」
淹れたての紅茶を3人で嗜みながら初めて発された言葉は、それ。思わず心臓がドキリと音を立てたが、先ほどまでの鬱々とした気分はもう、なかった。さっきのリヴァイとの会話で、気分転換ができたのかもしれない。
私はそっとカップをソーサーに置いて、エルヴィン分隊長を見つめた。
「フラゴン分隊長の抜けた穴を、埋めてくれないか?君が。」
先ほどよりも真剣な顔、声で、そして力強く、彼はそう口にした。私も、ちゃんと返事をしなくてはならない。
「…私には、務まりません。誰かの上に立つなんて…誰かの命を、僅かでも預かるなんて、私には無理です。」
私はまだ、エルヴィン分隊長の下にいたい。それは私がエルヴィン分隊長を心から信頼しているから、だけではない。私は誰かに指示を出せるような器ではないし、人の命を預かる調査兵団において、責任を取る自信がない。そのための正しい判断を下せる自信が、私にはない。現に、今回だって。
「私から見た、君の評価だが…充分に分隊長を任せるに値すると思っている。」
「……エルヴィン分隊長からそう言って頂けてたいへん光栄ですが…、それは些か、過大評価です。今回のフラゴン隊壊滅の際だって、私はリヴァイに名前を呼ばれるまで、体が動かなかった。巨人を恐れて、取り乱しました。」
「ふむ…私としては逆に、君は自身を過小評価しすぎていると思うんだが…。…リヴァイ、君はどう思う?」
突然話を振られたリヴァイはエルヴィン分隊長を見、そして私を見た。しばし考えるようにじっと私を見つめるその表情は険しく、「ほら、リヴァイだって私と同じように思ってるじゃないですか」と心の中で訴えた。のだが、リヴァイの口から出てきた言葉は、意外なものだった。
「そうだな…。正直に言えば、あの隊の分隊長よりも、てめぇの方がその役職に相応しかった、と思う。数体の巨人を前にして動けなかったのは、下手に動けば死ぬと、直感が働いたからだろう。あの場でてめぇは、誰よりも冷静だった。…と、俺は思うがな。」
初めてリヴァイが、長ったらしいセリフを吐いた。それも、私を賞賛する言葉を。それに対する驚きとまさか彼にそんなに高く評価されているとは思ってもみなかったので意外性への驚きで、言い返す言葉が何も思い浮かばない。
「私……、…私の判断は、誰かの命を、一人でも多く救えると、思いますか…?エルヴィン分隊長…。」
自身の声が震えていて情けなくて、しかしそこでようやく、手や肩までもが震えているのに気がつく。…怖い。今まで分隊長になった人達はみんな、こんな重圧と戦っているのかと、改めて尊敬の念を抱いた。何よりも重い、責任だ。
「君は私と同じように、いかに多くの巨人を倒すかよりも人命を優先して動いている。その思想がある限り、君の率いる隊員の生存率は他の隊に比べ、格段に高くなるだろう。…それと、これは余談だが、キース団長が万が一調査兵団団長の座を退く事になった際は、私が次期団長の座に就く事になっている。」
「えっ!?」
「その暁には、リヴァイ、君を新しい役職である兵士長に。ユニは分隊長兼私の補佐に…と考えている。我々はいつ死んでもおかしくないところに身を置いている。だから、いつそうなっても良いように、君達も日々、意識して任務や訓練にあたってほしい。…まぁ、先に私が死んでしまっては、元も子もないがな。」
「縁起でもない事言わないでください!私、分隊長になって、エルヴィン分隊長をお守りしますから!」
エルヴィン分隊長が団長になるというのなら、私は喜んで分隊長になる。先にそれを言ってくれていれば、押し問答をしなくても済んだというのに。
「そうと決まれば隊員を集めなきゃ…、イタタタタッ!何!?」
不安要素は全て取り払われたと顔を上げるとリヴァイがつかつかと勢いよくこちらへと向かってきて、あろう事か私の頬を手加減なしで抓り、引っ張った。リヴァイは見かけによらず力がとても強いから、痛いのなんのって…!!!
「うるせぇ。むかって腹が立ったからこうしてるだけだ。文句あんのか。」
「あっ、あるに決まってる!!痛いってば!!エルヴィン分隊長〜!」
「…、あぁ、いや…。…リヴァイ、私のかわいい部下を虐めるのはやめるんだ。その手を離せ。」
「……チッ。てめぇの犬ぐらい、ちゃんとしつけとけ。」
犬って…!何も間違ってはないけど、リヴァイに言われるのは腹が立つ!後輩のくせに!
手を離しはしたが乱暴で、未だ抓られているのではないかと錯覚する程に頬がヒリヒリと痛む。絶対赤くなってるし、指の痕もついているのではないだろうか?
「君の隊の隊員は、君が選ぶといい。相性もあるしな。それと、2人とも分かっているとは思うが、さっきここでした話は他言無用だ。決定事項とはいえ、下手に良くない噂が広がるのは避けたい。」
「はい。承知しました。」
エルヴィン分隊長が、いずれは団長に…!そしてその補佐の役目を、私が…!
それをエルヴィン分隊長から語られた事が、今にも舞い上がりそうなほど嬉しい。だってそれって、エルヴィン分隊長も少なからず私を信頼してくれているという事で。そんなの、嬉しい事この上ない。嬉しくないわけがない。だから、リヴァイが私の頬を抓った事ぐらい、許してあげよう。…まだ、痛いけど。
「さ、私はこの事を団長に報告に行かなければならない。ユニ、君も来るか?」
「あ…、そう、ですね。」
咄嗟に、何か咎められるような事はなかっただろうかと思考を巡らせた。別に言うほど問題は起こしていないはずだが、キース団長の逆鱗に触れれば問答無用で頭突きが降ってくるのだ。フラゴン隊の件はあるが、他は…、…うん、大丈夫なはず。
エルヴィン分隊長も手のひらを怪我していたし、怪我が治り私の隊の隊員が集まるまではエルヴィン分隊長の補佐の役割を務めたいとお願いをしに行きたい。
「行きます。私も、団長にお話したい事があるので。」
「そうか。じゃあリヴァイ。この話はこれで終いだ。」
「あぁ。俺はこれを飲んでから戻る。せっかくだしな。」
リヴァイはずいぶんと、あの紅茶を気に入ったらしい。数ある茶葉の中からエルヴィン分隊長が気に入ったものをキッチンへ置かせてもらっているから、リヴァイの好みは案外、エルヴィン分隊長に近いのかもしれない。
「今度、今ある中でオススメの茶葉をお裾分けするね。」
「それは楽しみだ。」
「じゃあ、行きましょう、エルヴィン分隊長。」
「…そうだな。」
リヴァイは口が悪いし暴力的だけど、貴重な紅茶好き仲間だ。話してみると悪い奴ではないし、ぜひとも大事にしたい。と、思ったのだが。
「っ…!?…っ、エルヴィン、分隊長…?ここ、廊下…。」
エルヴィン分隊長の部屋から出て、僅か数秒。扉を閉めて振り返り目が合ったかと思ったら突然キスされ、嬉しさと驚きが入り交じって頭の中は大混乱に陥った。え?廊下、だよね?ここまでエルヴィン分隊長の部屋…、じゃ、ないな。絶対に。
絶対に赤くなっているであろう顔を上げるとエルヴィン分隊長の真剣な顔が私を見下ろしていて、次の言葉が出てこなくなった。
「…ずいぶん、リヴァイと仲良くなったんだな。」
優しいような、それでいて責めるような口調。喜んでいるのか怒っているのか、私には分からなかった。だって、エルヴィン分隊長のあんな顔、初めて見る。
「仲が良く、見えますか…?」
「…君、リヴァイの事を呼び捨てにしたりしていなかっただろう?それに……、いや、いい。すまなかった。」
「!…エルヴィン分隊長…?」
「ただ、少々妬いただけだ。」
「や、……妬いた…、…?」
頭の中に、ハテナが飛び交う。話の流れ的に、焼いた、じゃなく、妬いた?妬いたって、ヤキモチを妬いたって事?エルヴィン分隊長が?……なぜ?だってヤキモチって、好きな人が自分以外の人と仲良くしてたら妬くものじゃないの?なら、エルヴィン分隊長がヤキモチを妬くなんて……おかしい。
「私が君にヤキモチを妬くのは、おかしいか?」
「!?だっ、て…、それじゃエルヴィン分隊長が私の事を…!」
好きって事になるじゃないですか!とは、続かなかった。
ここは廊下。調査兵団本部の中の、共用部分。
廊下の曲がり角の先からは、恐らくハンジ分隊長の話す声が少しずつ近づいてきていて、あと十数秒もすれば顔が見えるところまで迫ってきているからだ。私達の関係がハンジ分隊長にバレたら、きっと面白おかしく周囲に広めるに違いない。それだけは絶対に避けなくてはと、口を噤んだ。
「……行こうか。」
たった今爆弾発言を投下したエルヴィン分隊長はいつも通りの佇まいで、一足先に歩き出した。
混乱した頭で背中を追いかけ歩き出したが、そこからどうやって団長の部屋まで来たのか、全く記憶にない。ただキース団長と目が合ったところでようやく、自身の意識が現実へと引き戻された。
キース団長は私を見て怪訝な顔をしたが、これは全部、エルヴィン分隊長のせいだ!