845年~851年
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ここを掴んで、下に引け。…そうだ。」
「わ…!できた!」
「それと、人間の急所は、3箇所。こことここと、ここだ。拳で殴るのが一番だが、慣れていないと手を痛める。ここでやれ。」
「はい!…えいっ!」
「…まぁ、悪くない。」
人を殴る音、蹴る音、投げる音。そんな物騒な音とは裏腹に、私達の楽しそうな声が周囲に響く。響くといってもせいぜい半径2~3m程度だが、その範囲にいる104期生達はどう見ても引いている。しかしできないと思っていた事ができて少し楽しく思ってしまったし、次にいつ教えてもらえるか分からないのでできる時にやっておきたかった。
「お疲れ。あとは俺がやる。休んでろ。」
「うん。ありがと、リヴァイ。」
少し習っただけだが、私にできそうな事から教えてくれたため達成感がある。できたら楽しいじゃないか。対人格闘技。ドサ、とその辺の岩に腰掛けた。
「…待たせたな。尋問を始めようじゃないか。…エレンとクリスタはどこだ。」
「…はっ…勇ましいな…。さっきの検問所にいたのは…まだ右も左も分からん新兵だ。そんなのを殴り倒して英雄気取りか?」
「それは気の毒な事をしたな。」
ガッ!と奴の口に、リヴァイのブーツが。歯は何本か折れ、口の端から血が漏れ出ていた。
「わぁ…痛そう…。」
思わず、自身の口元を隠した。
「特にあんたの口は気の毒でしょうがない…。まだまともに喋れるうちに、口を使った方がいいぞ。エレンとクリスタはどこだ。」
「…ッ無駄なんだよ…!お前らにできる事は…この壁の中を泥クソに塗れて、逃げ回る事だけだ!!」
「…リヴァイはたったひとつの事を質問してるんだけど、質問の意味が分かりませんか?中央第一憲兵さん。エレンと、クリスタは、どこ?」
「…お前は…団長補佐のユニ・クラインだな…。お前らが出頭しなければ、囚われた調査兵は、全員処刑される!!最初は調査兵団最高責任者である、エルヴィン・スミスからだ!ウッ…!」
ガンッ!と正面から蹴ったのは、私の足だ。足の甲で蹴ると怪我をする可能性があったので、足の裏で踏みつけた、が正しい。思い切りやったので、奴は後頭部を後ろの木に打ち付けたようだ。
「リヴァイ…蹴り方も教えてよ…。これでいいかな。」
「…あぁ、問題ない。それで良い。」
「…エルヴィン団長から処刑ね…。それはそうでしょうね。知ってるよ。知っててここに残ったんだよ。エルヴィン団長が、それを望んだから。私が、地獄まで着いていくと言ったから。その覚悟を持って、ここに立ってるんだよ、こっちは。それで、どう?エレンとクリスタの居場所は思い出せそう?」
ガン、ガン、ガン、と打ち付けてようやく、一旦は奴のお喋りは止まった。静かになったところで、元いた岩に再度腰を下ろした。
「調査兵団の命には優先順位ってもんがある。それを承知の馬鹿どもの集まりが俺らだ。エレンとクリスタの居場所を言え。」
「しっ、知らない!本当に教えられてないんだ…!ケニー・アッカーマンはとても用心深い!」
「…アッカーマン?それがケニー…奴の姓か?」
「そうだが…。」
「まぁ確かに奴は教えねぇよな…。大事な事は特に…。」
「リヴァイ…そのケニー・アッカーマンと知り合いなの?」
「……あぁ。今度…、いや、これが終わったら話す。」
リヴァイの表情を見るに、あまりいい思い出は無さそうだが。私が知らないという事は、地下街で暮らしていた時の知り合いなはずだ。
…そりゃ、いい思い出なんてないか。
「…しかし、心当たりくらいあるだろ。思い出すまでがんばろうか…。骨は何本もある事だしな。」
「あんた…まともじゃない…。」
「…かもな。」
「!あっちから、誰か来ます!!複数います!」
みな一斉に地面に伏せ、臨戦態勢に入る。
「言ったろ…、もう無駄なんだよ…。何もかもな…!調査兵団は…ここで最期だ…!!」
ザッザッザッ──
「…、あれは…、…っハンジさん!」
「何…!?」
バサ、と降ろされたフード。そこから顔を出したのは、ハンジさん、そしてモブリットの2名であった。ホッと胸を撫で下ろしたところに、さらに嬉しい知らせまであると言うので体の力が抜けそうになる。
「クーデターは、成功だ。」
「!っ、ハンジさん!エルヴィン団長は…、団長は、ご無事ですか!?」
ガッ、とハンジさんの服を掴んで、ハンジさんからの返答を待った。私は別に、他はどうだっていい。ただただ、エルヴィン団長が無事でさえいてくれれば、それで。
「ユニは…清々しいくらいブレないね。」
「そんなのはいいから!!無事なんですか!!早く教えて!!」
「ハンジ分隊長!!早く教えてあげてください!!」
胸ぐらを掴んでガクガクと揺らすのも、許してほしい。私にはそれくらい重要で、大切な事なのだから。
「…ごめん、エルヴィンは、無事…というか、生きてるよ。ピンピンしてる。かなり痛々しい姿にはなっているけど、ちゃんと歩けるし、会話もできる。」
「は……、…よか、っ…よかったぁ……。」
足の力が抜け地面に落ちるところを受け止めたのは、リヴァイ。手も足も情けなく震えているのは、バレてしまった事だろう。そのままゆっくり、地面に腰を落ち着かせた。
「ユニはエルヴィンのところに戻るかい?君は怪我人だし向こうはもう安全になったし、君も会いたいだろう?」
「会いたい…、会いたいですよ…すごく。…でも、私はまだ、やらなきゃいけない事があるので、行けません。エレンを…連れ戻さなきゃ…。」
エルヴィン団長と別れる時、約束した。各々やるべき事をやって、生きて帰ろうと。私はまだ、終わっていない。やるべき事が、まだ残っている。
「…威勢が良いのは結構な事だが…お前、歩けねぇだろ。」
「ふふ…確かに…。」
「…手のかかる奴だな。」
「…っわ…!」
突然リヴァイに持ち上げられて、荷馬車へと降ろされた。抱き上げられた、じゃなく、持ち上げられ、運ばれた。あの小さい体のどこにそんな力があるのか…謎だ。
「……?みんな乗らないの?」
ふと感じた妙な空気感に辺りを見回すと、104期生達はみな私から視線を逸らした。
「……大方、お前の豹変した姿を見てビビったんだろ。残念だが、エルヴィンの事になるとアレがコイツの通常運転だ。慣れろ。」
「え?ユニ、豹変したの?私も見たかったなぁ。」
ガタ、と静かな音を立てハンジさんも荷馬車へ乗り込み、私の隣へ腰掛けた。
「エルヴィン団長の事を想ったら、カッとなっちゃって。」
「君にそんなに想われるエルヴィンが羨ましいよ。」
「おい…メガネ。何当たり前のようにユニの隣に座ってる。そこは俺の指定席だ。」
「リヴァイ、そんな子供みたいに我儘言わないでよ。ほら、こっちも空いてるから。みんなも、早く行くよ。」
リヴァイはため息を吐きながらも、渋々私の反対隣へと腰掛けた。そしてそれに続くようにミカサが動き出し、ようやく他の104期生達も動き出し、準備が整った。
「よし、出発しよう。どこに向かうかはこれから話すから、とりあえず馬を走らせてくれ。」
そうして動き出した荷馬車。隣に座るリヴァイがグッ、と体を寄せてきて少し狭いのだが…今は気にしない事にした。
ハンジさんの手には、エルヴィン団長から預かったという調査報告書の束──というかもはや本。その中にはレイス卿領地に関する事が書かれている。
「中身はほとんど5年前…レイス家を襲った、ある事件についてだ。」
その内容は、どこもかしこも矛盾だらけで怪しさ満点の、とても酷いものであった。こんなの、その礼拝堂に向かう、の一択だろう。
「…?…リヴァイ…寝てるの…?」
「えっ?」
まさかとは思ったが、そのまさか。眠ったのかという問いには答えは返って来ず、私に寄りかかったまま黙って腕を組み、下を向いている。
通りで、重いと思った。
「ふふ…かわいい…。」
「……ユニの感性は、変わってるね。」
「リヴァイは、かわいいですよ。私にだけ懐いてくれて。」
「それは間違いないな。あの猛獣を手懐けるなんて、私はユニが恐ろしいよ。」
あの猛獣とは──リヴァイが調査兵団に入団した頃の事を言っているのだろう。あの頃の彼は孤高の一匹狼で、大人しくしているつもりでも内心ではいつエルヴィン団長を殺そうかと命を狙っているような、確かに猛獣のような奴だった。それがこうしてくっついて眠るまでになるなんて、思い返してみると、やはりリヴァイはかわいかった。
「…みんなも、寝られる時には寝ようね。馬に乗ってる子達も、疲れたら言って。誰か交代するから。」
最後にリヴァイの頭をヨシヨシと撫でると、今度は振り払われなかった。