845年~851年
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「ニック司祭が、殺されました…!」
2人揃って退院し調査兵団トロスト区支部へ移り療養を始めてから、数日。またしても、悪いニュースが入ってきた。
──ニック司祭が、殺された。
その事実は、瞬く間に調査兵団内を駆け巡った。
ハンジさんが特別に兵士施設の一室に匿っていたのだというニック司祭。その兵士施設内で、拷問を受けた末に殺害された。その調査を受け持ったのは、中央憲兵。トロスト区で起こった殺人事件にわざわざ、中央憲兵が。
「恐らく、中央憲兵はエレンとヒストリアの居場所を探している。エレンの持つ叫びの力を、中央の奴らは欲しがっていた。ヒストリア…レイス家の何かも……。ユニ、動けるか?」
「はい。立体機動は無理ですが、足はもう、だいぶ回復しました。」
腕や胸とは違い疲労が蓄積されただけの足はもう、軽く走れる程度には回復していた。しかし肋の折れている胸は息をするたび軋むし、腕も少し動くようにはなったが痛みを伴う。文字通り、歩くだけならなんの問題もない…といったところだ。
サラサラと紙に何かを書き記したエルヴィン団長は、それを4つ折りにし、伝令としてやってきたハンジさんの部下─二ファにそれを手渡した。
「これを、ハンジに。来たばかりで心苦しいが、なるべく早く届けてくれ。」
あれには何か、ハンジさんに対する指示が記されているのだろう。二ファはハンジさんの元へ戻るよう指示を受け、すぐに踵を返し部屋から退室していった。
「…エルヴィン団長、今、何が──」
起こっているんですか?という言葉は、続かなかった。突然エルヴィン団長にぎゅっと抱きしめられたからだ。
「ユニ…動けるかと確認したが、君は待機だ。分かるな?」
「……、…はい…。」
私は、怪我をしているから。しかし、ニック司祭が殺されて何がどうなるかなんて、私には分からない。だが何となく…何となくだが、嫌な予感を感じた。エルヴィン団長が何も言わずに優しく抱きしめて待機を命ずるなんて…、それも、念を押してまで。何かが起こるのを、前もって分かっているかのようだ。
コンコン、
「エルヴィン団長…!」
二ファの出て行ったばかりの扉から現れたのは、今度は別の団員だ。彼は酷く慌てた様子で、それを見てまた壁が破壊されたのかと身構えた。が、団員が言うには、それは私の予想を遥かに超えるものであった。
「調査兵団団長─エルヴィン・スミス。お前に王政招集の命が出ている。今すぐにだ。それと、調査兵団の壁外調査は、全面凍結。中央第一憲兵に、104期調査兵団エレン・イェーガー並びにクリスタ・レンズの引き渡しを命ずる。」
ナイル・ドーク。エルヴィン団長の、ご親友。そしてかつて、エルヴィン団長に銃を向け、手錠をかけた男。
思わず間に割って入り、彼を睨みつけた。
「ナイル…ドーク…!!お前は…、また、エルヴィン団長の邪魔を…!!」
「…ユニ。君は…待機だと言っただろう。」
「……!!」
肩に置かれた手は、私を抑えるものだった。だって…今エルヴィン団長が連れていかれてしまっては、何をされるか分かったもんじゃない。せめて私も同行させてくれればいいものを…、…エルヴィン団長は…!
「……承知、しました……。」
「…あぁ、それで良い。…リヴァイの元へも行くな。ここで待機だ。いいな?」
「……はい。」
それは、先ほど二ファに託した指令と、何か関係があるのだろうか。…団長はそれすらも、私に教えてはくれなかった。
きっと私を、守るために。
「君はとにかく、今は体を休めるんだ。」
それだけ言い残して、団長はナイル・ドークと共に調査兵団本部から…私の元から、去っていってしまった。
「ユニさん!!憲兵の馬車が…!!」
「…!団長…っ!!」
エルヴィン団長が帰ってきたのは、翌日の事だった。
特段怪我などは見受けられないが、一体何のための招集だったのか。それはエルヴィン団長を連れていったナイル・ドークに聞いても、分からないのだろう。それくらいは、分かる。
「エルヴィン団長ッ…!!」
「こら、ユニ。走るんじゃない。君は肋が2本とも、まだくっついてないんだぞ。」
「私っ!待機してました!!ここで、団長の帰りを…っ、う…。」
「…そんなに酷い怪我をしているのか…?」
パシッ、
ナイル・ドークが伸ばしてきた手を、反射的に払い除けた。彼は心配してくれたのだろうが、そもそも、彼がエルヴィン団長を連れていったのだ。それ以前に手錠をかけた件だって、私はまだ、全然許してない。許すつもりもない。
「…ユニ、私は無事だ。何もされてない。ただ、話をしてきただけだ。…ここでは何だ。私の部屋へ行こう。」
そうして、憲兵であるナイル・ドークも伴って団長の部屋へと移動した。団長は終始私の体を気づかい背中に手を当ててくれて、私を椅子へと座らせた。
「……大きな声を出してしまい、申し訳ありません…。…ナイル、さんも…すみません。でも…こんな風にエルヴィン団長を連れていくのは、金輪際やめて頂けませんか…?」
「……俺は、上からの指示に従ったまでだ。」
「…意気地無し。」
これだから、憲兵は嫌いだ。最近ますます、それが加速している。
「ナイル。お前と話したいと思っていた。」
「…思い出話に付き合う気はないぞ。」
エルヴィン団長は私をそのままに、ナイルに向けて話し始めた。ナイルを優先した、というよりは、私と話す時間を長く取るために先にナイルとの話を片付けようとしているのだろう。もしくは、私に聞かせようとしているのか。
「つれないな…ナイル。一緒に調査兵団を志した仲だろう。」
「えっ。」
思わず、声が漏れた。ナイルが、調査兵団を?この目の前にいる、ナイル・ドークが?とてもじゃないが信じられなくて、疑いの視線を向けてしまう。本当に、信じられない。
「この小さな世界は変わろうとしている。希望か、絶望か。中央は人類の未来を託すに足る存在か否か。選ぶのは誰だ?誰が選ぶ?お前は誰を信じる?」
私に向けられた言葉ではないのに、鳥肌が立つ。エルヴィン団長の意味深な言葉は胸の奥にズシ、と置かれた。言葉の意味は分からなくとも、その重みだけは分かる。
「エルヴィン…お前、何をやるつもりだ。」
「毎度お馴染みの博打だ。俺はこれしか脳がない。」
エルヴィン団長が返したのは、これだけだ。
「お話は、終わりましたか?」
「…あぁ。ナイル、お前はお前の仕事をしろ。ただ、忠告をしたかっただけだ。」
「あぁ…、悪かったな。」
「謝るくらいなら、最初からしなければ良いのでは?あとから謝っても、許しませんよ、私は。」
私はまだ、怒っている。エルヴィン団長にこんな仕打ち…許せるわけがない。言いたい事は、全部言おう。
「帰るのなら…ナイルさん、上に伝えて頂けますか?私は、武器を人に向ける覚悟は既にできている…と。」
「ユニ。」
「すみません団長。私はこの怒りを、どこに向けて良いのか分からないんです。」
「…そうだな、すまない。」
「…ナイルさん。団長がこうして戻ってきたという事は、何らかの疑いが晴れたって事でしょ?なら、お引き取りください。早く。今すぐに。じゃないと、私は言いたくもない暴言がまだまだ口から飛び出してしまいそうです。」
立体機動訓練ができない今、ストレスの発散方法が私にはなかった。ただでさえ体が不自由な上に団長の王都への連行をこの目で見せられて、今にでも暴れ出したいくらいだ。
「……エルヴィン、ちゃんと躾ておけよ。」
「その言葉、そっくりそのままお返しします。あなたの上の人に。…ちゃんと伝えておいてくださいね。」
言葉を交わしているうちに、やっぱりフツフツと怒りを思い出してきて、肩に力が入ってくる。
「私は…エルヴィン団長がこんな仕打ちを受けるのは、耐えられません。頭がおかしくなりそうです…!」
「ユニ、少し落ち着くんだ。」
「落ち着けるわけ、ないでしょう…!許さない…、絶対に、許さない…!!」
そう言っている間も、体に自然と力が籠り胸が痛んだ。それすらも、イライラする。
「早く!帰って!帰ってください!!」
痛む腕で力の限りナイルの背を押して、ようやく調査兵団内から追い出した。そこでようやく、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「…ユニ、本当に、落ち着くんだ。私はこの通り、無傷だ。あまり怒ると、体に障る。」
「エルヴィン団長…。私、優しいあなたが、大好きです。ですが…、…その優しさは、…っ苦しいです…っ!」
「!」
そう、私は、苦しかった。何も教えてくれず、団長は連れていかれ、リヴァイにも会えない、立体機動訓練もできない。まるで狭い部屋に、閉じ込められているかのようだった。
せめて──
「リヴァイに、…会いたい…!」
彼もきっと、この苦しみを知っているはずだ。なら、この苦しみを消す方法だって、知っているかもしれない。
「すまないが、それはできない。リヴァイは今…中央憲兵に追われている身だからだ。」
「!?…リヴァイが、中央憲兵に…!?なぜ…。」
「中央憲兵が、無理やりにでもエレンとクリスタを奪うため動き出した。」
とうとうエルヴィン団長は、今何が起こっているのか話してくれる気になったようだ。
それが分かってようやく、肩の力が抜けた。