845年~851年
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コンコン、
「はい。」
リヴァイに夕飯を食べさせてもらってしばらく経った時、病室のドアをノックする音に反射的に返事を返す。リヴァイは先ほど帰ったが、何か伝え忘れた事でもあるのだろうかと思ったからだ。しかし、リヴァイはあんなに丁寧なノックをするだろうか?と思って開かれた扉を見ると、そこから顔を覗かせたのはリヴァイではなく、エルヴィン団長であった。
「!!エルヴィン団長…!っ、痛…。」
「こら、起き上がるんじゃない。そのままでいい。」
「う…、…すみません…。」
大人しく起き上がりかけた体を、再びベッドへ沈みこませた。まさかエルヴィン団長の方から来てくれるなんて、思ってもみなかった。
彼は先ほどまでリヴァイの座っていた椅子に腰掛け、私のベッドへと膝を近づけた。
「たくさん寝ていたからか、なかなか眠気がやってこなくてな。君の顔を見たら眠れるかと思って来てみたんだ。」
「…それで、いかがですか?」
「あぁ…。君を見ていると話したい事が山ほどあって、眠るのが惜しくなってきたよ。」
「ふふ…、それじゃかえって眠れないじゃないですか。それに、お身体に障ります。」
「はぁ…仕方ない、戻って横になるしかないな。」
「いやです。私、この1週間ほとんどリヴァイとしか顔を合わせてないんですよ。もう見飽きました。だから…エルヴィン団長のお顔、もっとたくさん見させてください。」
「フ…、このみっともない顔で良ければ、いくらでも。」
みっともなくなんか、全然ないのに。崩れた髪の毛だって伸びた無精髭だって、エルヴィン団長の新しく見つけた、魅力のひとつだ。それを伝えるために彼の顔に触れたいのに、私の手は言う事を聞いてくれなくて、ベッドから10cmも浮かせられなかった。情けないというのなら、私の方がよっぽど情けない。
「昔…君と出会った頃、私の、夢の話をしたのを覚えているか?」
震える私の手を優しく包む、エルヴィン団長の左手。温かくて、少し震えが落ち着いた。
「もちろん…覚えてますよ。」
指は、まだまともに動かせる。その指先できゅ、と団長の左手を握り返した。
「…その夢の話で、まだ言っていない話がある事は?」
「……もちろん、覚えています。」
「そうか…。…君は、記憶力がいいな。」
「そんな大事な事、忘れるわけないじゃないですか。」
そう、忘れるわけがない。先日走馬灯を見た時にもその光景を思い出したが、エルヴィン団長の夢の話は、そもそも私の体に染みついて、忘れる事など不可能だ。
「…まず、私の子供の頃の話からしよう。」
「えっ、エルヴィン団長の、子供の頃…!?」
当たり前だが、人間誰しも子供の頃というものがある。エルヴィン団長にも私にも、リヴァイにも。それは頭では理解しているが、いざエルヴィン団長の子供の頃、と言われると想像がつかなくて、ドキドキする。やはり今みたいに賢くて、物静かだったのだろうか。それとも、昔は今と違ってやんちゃだったのか。
「…期待に添えなくて申し訳ないが、今とそう変わらない、つまらない子供だったよ。」
「もう…つまらなくなんかないですよ。つまらないなんて…私がそう感じていると思っていたんですか?」
「いや、すまない。君にそんな事ない、と言われるのが好きなんだ。」
「……狡い言い方ですね。…それで、その知的で聡明なエルヴィン少年が、どうされたんですか?」
このままでは話が進まないと、彼に話の続きを促した。そうして語られた彼、そして彼の父の話は、想像していたものと違い壮絶で、悲しくて、切なくて、聞き終えた頃には静かに涙が流れていた。
「父は、愚かな息子の言葉によって、殺されたんだ。」
「それは…、違います…。だって、純粋…だったから…、そんな…。」
「……すまない。やはり"そんな事ない"と、君に言ってほしかったんだ。これじゃ、言わせたも同然だな…。」
「い、言わされたんじゃ…!!」
私が必死に言うものだから、団長は困ったように笑って、私の頬を指で撫でた。涙を拭うように。
「あぁ、分かっている。君は、そういう奴だからな。」
「…ん、……いじわる、しないでください…。」
「はは…、いじわるか…。君からしたら、そうなるのか。」
エルヴィン団長はたまに、私をからかって楽しんで愛でている節がある。愛でてくれるのはありがたいが、彼のからかいは心臓に悪い。私がどれほどエルヴィン団長に心酔しているか、舐めているのではないだろうか。
「…私は、自分を騙しながら調査兵団団長をやっている。そうしているうちに、周囲の人間も騙すようになっていった。…君も、その内のひとりだ。私は最初から、人類を救う事なんてどうでも良かった。ただそれができるのが調査兵団で、自身がその調査兵団の団長だから、やっているだけにすぎない。…私が死なせた、仲間のためにな。それでも…そんな事をしてまで私は、父の仮説を証明したい。証明するために、私は生きている。」
やっと聞けたエルヴィン団長の過去、そして懺悔、生きている意味。それらは私の心の中をかき回して、なんと言っていいか分からなかった。しばらくの間沈黙して、考えが纏まりきらぬうちに口を開いた。これだけは変わらない気持ちを、まずは伝えたかったから。
「私の気持ちは……変わりませんよ。何も、変わりません。私は、エルヴィン団長の力になりたいです。今は何もできませんが…エルヴィン団長が調査兵団団長の座を降りるというのなら、私も団長補佐を辞めます。このまま調査兵団団長でい続けるというのなら、私はあなたの手足になります。…いや、そうでありたい。どこにいたって私は、エルヴィン団長だけに着いていきますから。…たとえ団長が嫌がっても、ですよ。」
「……、…は…、はは……、本当に、君は……っ。」
震える声、手。それと連動するように、彼の瞳からは綺麗な雫が流れ落ちる。エルヴィン団長の涙なんて見るのは初めてで、慌てて体を起き上がらせたが全身が酷く痛んで自身の体を抱きしめた。
…いや、今は自分の事よりも…エルヴィン団長を…。
「私だって…、人類のために心臓を捧げた…兵士、ですが…本当に心臓を捧げているのは、エルヴィン団長…、あなたに、ですよ。」
エルヴィン団長に近寄ろうと体を傾けるとまた体が痛んだが、ベッドに手を付いて、何とか彼のすぐ目の前まで辿り着いた。
「エルヴィン団長の瞳は…綺麗ですね。お父様譲り、ですか?」
至近距離で見つめた彼の瞳は、涙で濡れてキラキラしていて、とても美しい澄んだ水色で、この世の何よりも、綺麗だ。
「…、ユニっ…。」
「…はい、エルヴィン団長。」
「っ、抱きしめても、良いだろうか…?」
「ふふ…、わざわざ聞かなくとも、エルヴィン団長ならいつでも、お好きな時に。」
ふわ、と、彼の匂いに包まれる。ぎゅ、と抱きしめる彼の腕は、相変わらず力強い。しかし腕1本分足りなくて、寂しく思った。私の腕は使い物にならないし、抱きしめ返せなくて、どうしようもなく、もどかしい。
そうして一頻り涙を流し続けた彼は、やがて体を離しじっと私を見つめるので目を閉じると、静かに唇が重なった。
何も、変わらない。私はこれからも、今までと同じように彼のそばにい続け、彼のために動く。
それが私の、生きる理由だから。