845年~851年
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「エルヴィン団長が、ユニさんをお呼びです。」
団長は、つい先ほど目が覚めた。そんな中呼んだのは、私ひとり。リヴァイもいると聞かされたのに、だ。それが嬉しくて、鼻の奥がツンとした。
「エルヴィン、団長…。」
「待て。エルヴィン、何分必要だ。」
「…30分、くれるか?」
「了解した。俺はピクシス司令を呼んでくるからな。」
再会を喜ぶのを制されて、出かけていた涙が引っ込んだ。30分。リヴァイとピクシス司令がここに来るまで、30分。その間に私は、エルヴィン団長に伝えたい事を伝えなくてはならない。
リヴァイが出ていく音を聞いて、エルヴィン団長の手を取る。右手は、もう無い。残された左手を握ると自身の腕が痛んだが、構う事なく自身の額へと持っていった。
「エルヴィン団長…、ご無事で…何よりですっ…!!」
「あぁ…君のおかげでな。」
「右腕…、…痛みますか…?」
「まぁ、そうだな。しかし、痛みでいえば君の方が痛むはずだ。そう医師に聞いたぞ。」
「っ…、…私の事なんて、良いんです…!私のはいつか、治ります。でも…団長、のは…!」
傷は、いつか癒える。しかし、失ったものは、戻らない。命を落とすのに比べたら安いものだが、これでは正しく、立体機動装置を使えない。正しく使えなければ、生存率は下がってしまう。これでは、実質調査兵団を続ける事は…!
「…ユニ。」
静かに私の名を呼ぶ声に顔を上げると、初めて見る姿のエルヴィン団長が私を見下ろしていた。髪の毛はセットされておらず乱れ、手入れのされていない髭が伸び、1週間まともに食事を摂れていないその顔や体は、窶れていた。
ポロポロと零れる私の涙を拭った左手が、私の右頬を包む。
「君がこんなになるまで身を呈してくれたおかげで、私は生きている。そしてその上、エレンも取り戻した。それが君の功績である事は、間違いない。よくやった。」
「っ、私…、エルヴィン団長のお力に、なれたでしょうか…。…団長の指示を、無視、して…!」
「あぁ。私も判断を誤る事は、あるからな。」
「…っ、う…!」
そんな事は、ない。私が無茶をしなくても、結果的にエレンなら、どうにかできたのだ。私がした正しい判断なんて、エルヴィン団長を落下から受け止めたくらいで…。
「しかし…さすがに申し訳ないな…。君の怪我は、私を受け止める際に負ったものだろう?」
「…この程度の怪我で団長の命を救えるのなら、私は、何度でもやりますよ…。」
「はは…逞しいな、君は。」
「団長がいなければ、指標を失いますから…。調査兵団も、私も。人類を救うには、確かにエレンの力が必要不可欠です。でも、エレンだけでは、それは成しえない。エルヴィン団長がいてくれるからこそ、エレンはその真価を発揮できる。彼は優しすぎるくらい優しくて、そして、とてもナイーブなんです。そんな彼が何かを捨てる事なんて、とてもじゃないですができません。」
「…私とは、まるで正反対だな、エレンは。」
「だからこそ、ですよ。2人が揃えば、完璧って事です。それに、団長にはエレンとは違った優しさや、思いやりの形があります。私は団長のそういうところ、好きですよ。」
もう、涙は止まった。エルヴィン団長と話した事で、心の整理がついた。泣いたところで、団長の腕は戻らない。なら、もう切り替えなければ。
「そういえば…あの状況で君はまた、熱烈な愛の告白を……」
「あっ…!あ、あの時は、絶対に今伝えなきゃ、と思って…!!く、空気が読めなくて、ごめんなさい…!」
なぜそんな事を思い出すのか…!まさかここでその時の話をされるとは思わなかったため慌てて言葉を遮り、謝罪した。
「いや…私もあれで焚き付けられた。あの時の君はとても勇ましく、誰よりも兵士だった。…そうだな、惚れ直したよ。」
「えっ…!?あ、えぇと、それは…何よりで…。」
「全く、君には敵わないな。私も見捨てられないよう、もっとがんばらなくてはな…。」
「何言ってるんですか!!そんなの絶対にないですよ!!エルヴィン団長はいつも完璧でかっこよくて!それに、焚きつけるのだって私より、エルヴィン団長の方が…!!」
「…ユニ、静かに。」
「!」
ここは、病院だった。でも、あまりにエルヴィン団長が、おかしな事を言うから…。
しー、と口に指を当てるエルヴィン団長がかわいらしくてかっこよくて、もう言い返す気にもならないが。
コンコン、とノックの音が響く。時間的にも、リヴァイが戻ってきたのだろう。ピクシス司令と共に。そしてこのノックの音は、ピクシス司令のものだろう。リヴァイなら、もっと乱暴なはずだから。
「どうぞ」という団長の答えの後開かれた扉から顔を出したのは、やはり、ピクシス司令。彼の表情を見るに、先ほどの私の大声はしっかりとその耳に届いたようだ。
「なんじゃ。イチャイチャしているかと思ったんじゃがのぅ。」
「…しませんよ。」
「で、そろそろ結婚する気になったか?」
あぁ、またこのやり取りか…とため息を吐く。
「ピクシス司令。」
「そうじゃ、ここにはエルヴィンもおるし、リヴァイもおる。今ここで、どちらと一緒になるか決めるのはどうじゃ?」
「司令。聞こえていますか?」
「おぉ、なんじゃ。もう決めたのか?」
「私の事は良いのです。司令、リヴァイの殺気が分かりませんか?」
今にも人を殺しそうな目をしている、リヴァイ。その視線はもちろん、ピクシス司令に向けられている。本来リヴァイはこういう人だ。私や、エルヴィン団長以外の人には。
コホン、とひとつ咳払いをしたピクシス司令はようやく気を取り直し、備え付けのソファへ腰掛けて話を始めた。そんな中リヴァイは当たり前のように私の車椅子を移動させ、自身も隣に椅子を持ってきて腰掛ける。…かわいい奴。
「すまねぇなエルヴィン。せっかく話ができるまで回復したのによ。この1週間は聞くだけで寝込みたくなるような事しか起きてねぇぞ。」
リヴァイの言うように、現実から目を背けもう少し寝ていたくなった。私が目を覚ましてからというもの、ここに来るまでに会うのは医師か、リヴァイか。リヴァイが面会謝絶と触れ回ったせいだが…私と雑談はしてくれたが、彼はエレンがどうだとかミカサがどうだとか楽しい話ばかりで、外がこのような状況だとは話してくれなかった。予想はできなかったわけではないが、こうして聞いてみると、想像していたものより遥かに酷い状況であったと窺える。
「いいや、寝飽きてたところだ。続けてくれ。」
「……右腕は、残念だったな。」
全員の視線が、エルヴィン団長の右腕へと集まる。
「……今まで俺が巨人に、何百人食わせたと思う?腕一本じゃ到底足りないだろう。いつか行く地獄でそのツケを払えればいいんだが。」
珍しく団長の一人称が"私"から"俺"へと変わっている。となれば、これは冗談などではなく、本音なのだろう。その笑えないエルヴィン団長の一言に軽い調子で答えられるのは、ピクシス司令だけだ。
「そりゃええのう。エルヴィン…その際は地獄でご一緒させてもらえるか?」
「どうしたじいさん。さすがに参っちまったか?酒が足りてねぇようだが。」
「あぁ、今こそ酒に縋りたいところじゃが、取り上げられてしまっとる。わしのおしめの面倒までは見てくれんようじゃ。」
「はは…優秀な部下をお持ちですな。」
「……エルヴィン団長…、私は、たとえ地獄でも、団長について行きますからね。」
「お?なんじゃユニ、やっぱりエルヴィンを選ぶのか?」
「……毎度毎度、執拗いですよ、ピクシス司令。」
私は今、エルヴィン団長がなんと答えるかを待っていたというのに。