~844年
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「……エルヴィン、分隊長…?」
「…エルヴィン、ユニがてめぇを呼んでる。」
目を開けると空が見えて、そして無意識にエルヴィン分隊長を呼んだ。ここは恐らく、荷馬車の上。お腹に掛けられた調査兵団のジャケットは、サイズ的にも香り的にもエルヴィン分隊長のもの。ギュッと抱きしめようと腕を動かしたら肩に激痛が走って、思わず荷台でのたうち回った。
リヴァイくんに肩を切られたのだと、そこでようやく思い出した。
「気分はどうだ、ユニ。」
「…まぁまぁです。作戦はどうなりました…?成功、しましたか…?」
荷馬車を覗き込むエルヴィン分隊長に聞いたのは、今回の壁外調査のそもそもの目的が達成されたかどうか。今回の壁外調査はエルヴィン分隊長が要となり組まれた作戦のため、成功か否かが私の中ではかなり重要な事項であった。
「成功と言っていいものか…。しかし、失敗とも言えないだろう。改善するべきところは改善し、繰り返し実践すれば生存率は今よりも格段に……いや、この話はあとにしよう。…君が生きていてくれて、本当に良かった。」
思わずドキッと、心臓が跳ねた。だって急に優しい眼差しで見下ろすから。嬉しくてにやけそうになる口元を隠そうと痛くない方の手でジャケットを口元まで引っ張るとエルヴィン分隊長の匂いがして、堪らずエルヴィン分隊長のジャケットの下で盛大ににやけてしまった。
「…隊の組み直し、ですね。」
出発時のフラゴン隊は、全部で8人いた。それが、今はたった2人。これでは、新しく隊を組み直さなくてはならない。次の壁外調査までに…と言いたいところだが、隊の連携を上手く取るためにも、早ければ早い方がいい。
「その事なんだが、ユニ。君が分隊長となり、君の隊を作りなさい。」
「っ…!」
エルヴィン分隊長の言葉は、私の心臓をギュッと縮こまらせるには充分だった。だって、私はずっと、エルヴィン分隊長の元で戦いたい。しかしエルヴィン分隊長は、それを許さないという事だ。
今の「~しなさい」という言い方は、エルヴィン分隊長の中では覆る事のない決定事項を伝える言葉だ。少なくとも、私に対しては。
そして、私はそれに逆らえない。
「…そんな悲しそうな顔をするな。私が酷い奴みたいじゃないか。」
「えっと…、ちが、…もう少し、エルヴィン分隊長の隊にいたかったなと、思って…。」
堪えきれなかった涙が、重力に従って仰向けになった私の後頭部へと流れていく。泣きたいんじゃ、ないのに。エルヴィン分隊長を困らせたくないのに。面倒くさい奴だと、思われたくないのに。
「…エルヴィンよ…。てめぇはコイツからしてみれば、相当ひでぇ事を言ってるんじゃねぇのか?」
「言ってない!言ってないの…!」
「…この話は、壁内に着いてからするべきだったな。」
「エルヴィン分隊長。これは、傷口が痛くて涙が出てるだけなんです…!」
「あぁ、分かった。もうすぐで帰還できる。帰ったら適切な治療をして、この話の続きはそれからだ。いいね?」
「ん……、はい…。」
困ったように眉を下げる、エルヴィン分隊長。やっぱり、困らせてしまった。だけど止めようとしても涙は一向に止まる気配はなく、リヴァイくんとエルヴィン分隊長のいる方に背を向けて静かに涙が止まるのを待った。そうしていると頭の下に綺麗に畳まれたジャケットが敷かれているのに遅れて気が付き、そういえばエルヴィン分隊長だけじゃなくリヴァイくんもジャケットを着ていなかった気がしてきた。チラリと盗み見るとやっぱり着ていなくて、リヴァイくんのジャケットであると確定した。
私だけが仲良くなったと思っていたが、向こうも同じように思ってくれているような気がして、少し嬉しく思った。
コンコン、
「…どうぞ。」
ガチャリとドアを開けて中を伺いみると、部屋の中にはこの部屋の主であるエルヴィン分隊長と、リヴァイくんがいた。
私達は数時間前に無事、帰還したのだ。
そして私は傷の治療を受け、今に至る。
「あぁ、来たね。君の怪我に響かなければで良いんだが、紅茶を淹れてくれないか?ユニ。」
「はい…、すぐに。」
「治療が終わり次第、私の部屋に来るように」と言われ、医務室を出てまっすぐここに来た。あの話の続きをするのだと思うとどうにも気分は晴れなくて、重苦しい面持ちで執務室の隣にある簡易的なキッチンの前へと立つ。
「…ひでぇツラだな。」
「……リヴァイくん。」
突然のリヴァイくんの登場で、思い出したかのように手を動かし茶器の用意を始める。
来たのがリヴァイくんの方でよかった。エルヴィン分隊長の方だったら、私はきっと、すぐにまた泣いてしまって──
「エルヴィンが…自分が行けばてめぇが泣くからと。」
「…、…エルヴィン分隊長の…そういうところが好き…。」
「あぁ?そうかよ。俺は別にてめぇの恋愛相談をしに来たんじゃねぇんだ。さっさとしろ。」
「…そんな風に言わなくったって。あ、まさか今までは猫被ってたの?」
「…いいから、さっさと淹れろ。また今度と、約束しただろうが。」
そんな約束しただろうかと記憶を辿って、ひとつ思い当たった。数日前、出征前日の夜に、彼に紅茶を振舞った時の事を。あの時確かに彼は「また今度頼む」と言っていた。が、あれは果たして約束と呼べるものだっただろうか。約束というにはあまりに一方的なものだった気がするが…まぁ、彼がそれを覚えていて約束だと言うのなら、別にいいか。
「お気に召して頂けたのなら、なにより。」
「あぁ。今度、オススメの茶葉を売っている店を教えてくれ。」
彼は表情が分かりづらいし言葉遣いも悪いので取っ付きにくい人かと思っていたが…良くも悪くも、ただただ素直な人なのだと最近になって分かってきた。それが分かってしまえば案外、彼との会話は楽しい。
「ねぇ、リヴァイくんっていくつなの?そういえば、改めて聞いた事なかったよね。」
「…27だ。」
「…へぇ…、27……。…えっ、27…!?」
何の気なしに聞いた質問だったが、彼から返ってきた返答はリアクションに困るものだった。だって、見た目と年齢が釣り合ってなさすぎる。
「オイ、何が言いてぇ。」
「えぇと、てっきり年下かと…。」
「そういうてめぇはいくつなんだ。」
「…25。」
今まで"リヴァイくん"なんて呼んでいた私を誰か殺して。彼はなんとなくだが、自身の見た目や年齢にコンプレックスを抱いている気がする。そんな人のコンプレックスを刺激してしまっていたのかと思うと、申し訳ない事この上ない。
「ほぅ…、25…。…25か…。…ちなみにだが、エルヴィンの野郎は。」
「31よ。野郎とか言わないで。…って、何?どうかした?」
エルヴィン分隊長の年齢を聞いた途端、盛大に眉間に皺を寄せる彼。私の問いにはただ「見損なった」と一言だけ。え、何が?
「そろそろいい頃合いだろう。行くぞ。」
「あ、うん。」
一体、なんだというのか。