845年~851年
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エルヴィン分隊長の班に配属されてから、初めての壁外調査。今回の壁外調査は、不運の連続だった。まず、隊がふたつに分断された。当時の調査兵団には信煙弾なんてものはなく、一度逸れてしまえば再び合流できる可能性は限りなくゼロに近い。そんな状況で雨が降り出し、私達はさらに散り散りになった。辛うじて見えたエルヴィン分隊長の白馬を目印に進み続けたが、気づけば私達は2人、壁の外で孤立してしまった。
「エルヴィン分隊長…どうしましょう。」
幸い、近くに巨人の姿は見えない。しかしこのままここに留まったところで、事態が好転するとは思えない。私はただ、エルヴィン分隊長に指示を仰ぐしかなかった。
「…この先に、森があるはずだ。これから陽も落ちるし、無闇に動き回るより、そこで少し体を休めよう。」
「はい。」
エルヴィン分隊長の言う通り、そのまま進み続けるとやがて森に辿り着いた。巨人を充分に躱せそうなほどの高さの木が乱立する、巨大樹の森だった。これで巨人との戦闘を避けられると、ホッと胸を撫で下ろした。
比較的安全に体を休められそうな木を見つけ腰を下ろした時にはもう日は沈み、その頃にはようやく、雨も上がっていた。
「………。」
「…すまないな、寒いだろう。」
「いえ…エルヴィン分隊長だって、同じですから…。」
マントとジャケットを脱いで自身の手で絞ったが、凍えた手では思うように動かず大して水分は出てこなかった。それを見たエルヴィン分隊長が何も言わず私の手からそれらを奪い取りぎゅう、と絞ると、雑巾を絞ったようにたくさんの水分が出てきた。やっぱり男の人って力が強いんだなぁ、と感心した。
馬に載せた荷物の中からブランケットを出すと2人とも奇跡的に中身は濡れていなくて、木の上でそれらに包まった。だが薄手のそれでは十分に暖がとれるわけもなく、依然、手は悴んでいく一方だ。
「ユニ。これでは、巨人にやられる前に寒さで死ぬ。君は嫌かもしれないが、生き残るために、我慢してくれ。」
「…?」
寒さに凍え返事をする元気もなくて視線だけエルヴィン分隊長へと向けると、彼は既に私の元へと移動してきていてすぐ隣へと腰掛けた。それも、体と体が触れ合う距離に。
驚きこそしたが、すぐにその意図を理解した。触れ合った箇所からはじんわりと温もりを感じられたし、二重になったブランケットはその温もりを閉じ込めた。人肌の温もり、というやつだ。
「…あったかい…。」
「そうか…なら良かった。」
一度温かさを感じたら、もっと欲しくなった。もっと体をくっつけようとエルヴィン分隊長の方に体を寄せると肩に腕を回されて、ドキリと心臓が跳ねた。
「すまない。しかし、今は我慢してくれ。」
嫌だなんて事は、全くない。これっぽっちも。それどころか、温かくて安心して…幸せな気持ちだ。
「…嫌じゃないです。…えぇと…、その……。とにかく、嫌なんかじゃないです。絶対に。」
「……はは、そうか。」
「はい…。」
スル、と空いた方の手で両手を包まれて、私はまたドキドキしたが、エルヴィン分隊長に他意はない。ただ私が寒がっているから、温めようとしてくれているのだと、自分に言い聞かせた。そうしている内に体は温まり、気づいたら朝を迎えていた。そう、気づいたら、朝に。
ハッとして目を開けると何故かエルヴィン分隊長に抱きしめられていて、体勢も横並びだったはずがエルヴィン分隊長の上に座らされていて何が起こったのか理解ができなかった。混乱する頭でエルヴィン分隊長を見ると「休めたようで、何よりだ」と至近距離で見下ろされた。
「すっ…すみません!!私、眠って…!!」
「ははっ。いや、良いんだ。むしろその方が良い。体を休められたのだから。」
「そ、そうは言っても…!!そもそもなぜ、私はエルヴィン分隊長の膝の上に…!?」
「ウトウトして、落ちそうになっていたからな。壁外調査で落下死は嫌だろう?」
「それは嫌ですけどっ…!!」
数々の失態に、エルヴィン分隊長の方を見られない。穴があったら入りたいとはこの事か…!とこの身をもって理解した。今すぐにでも逃げ出したい気分だ。
「!馬の蹄音…。…まさか、調査兵団が近くに…。」
「…!良かった…!」
エルヴィン分隊長の言葉に耳を澄ませてみると、確かに馬の駈歩の音が耳に入ってきた。それも、1頭ではなく、複数…いや、大勢だ。
「すぐに合流しよう。十分に注意し、森の外へ。」
「はい!」
荷物はそんなに広げていない。ブランケットだけを纏めて荷鞍に突っ込んで馬に乗り、駈歩のする方へと向かう。今回も、生きて帰れるようだ。しかし安心したのもつかの間。朝になって活動を始めた巨人の影が数m先にチラついたように見え、即座にエルヴィン分隊長を引き止めた。
「エルヴィン分隊長っ!この先右前方に今、巨人の姿が。」
「…確かか?」
「…いえ、気のせいかもしれません。ですが、私達は十分に休息を取れていないので、巨人との戦闘は極力避けた方が良いかと…。」
「……!」
「あ…、すみません。エルヴィン分隊長の判断に従います。このまま進んだ方が早く隊に合流できますし、必要とあらば、いくらか休んだ私が確認に──」
「…いや、必要ない。迂回しよう。」
そう言ってエルヴィン分隊長はすぐに進路を変え、遠回りするルートを選んだ。私の不確かな情報を信じてもらえた事は嬉しいが、聞こえてくる駈歩は遠ざかってしまい後悔が押し寄せる。
「あの…どうして私の言う事を、信じてくださったのですか?」
「いや、君を信じたのではない。君の言った事が私の考えと同じだったから、そうしたまでだ。」
「エルヴィン分隊長の、考え…ですか?」
この時、エルヴィン分隊長の班に入るにあたってのいくつかのルールを思い出した。冷静でいる事。無茶をしない事。そして、死なない事。それはどれも、壁外で生きるために必要な事だった。
「私は…調査兵団の常識を変えたいと思っている。今の調査兵団は、いたずらに兵を死なせ、その挙句になんの成果もない。これではみな、なんのために心臓を捧げたか分からないだろう。」
なんのために…。私にはそもそも、分かりっこない感情であった。そしてその口ぶりから、彼には心臓を捧げる理由がしっかりとあるのだと分かり、羨ましく思った。