845年~851年
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「エレン!!」
小柄な巨人が104期生のクリスタを口に含み、森の奥へと引き返して行く。あの巨人がユミルらしいが…彼女は、ライナーとベルトルトに攫われたはず。しかし私達に背を向けて逃げるという事は、どうやら彼女は、私達の敵になったらしい。
そのユミルの巨人が逃げた先に見えたのは、ライナー、ベルトルト、そして、気を失っているであろう、エレン。まだ手の届く距離にいた事に、胸を撫で下ろした。
しかし彼らに追いつくあと一歩のところで、ライナーが鎧の巨人の力を使い、森から走り去っていってしまった。それを目視で確認次第、馬の元へと引き返した。
まだ、そこにいる。鎧の巨人は、そんなに早く走れない。
みんなよりも一足先に馬に乗り、鎧の巨人を追いかける。そうしてアンカーが届く距離まで近づいたところで、立体機動装置でエレンの元へと飛んだ。
「!」
視界の右から伸びる巨人の手。それがワイヤーを掴む前にアンカーを抜き、慣性で突っ込む。そして、その直線上に体を割り込ませてくるユミルの巨人の両目に、ブレードを突き刺した。
ぎゃあああああ!と、人間のような悲鳴が辺りに響いた。
どうせここに来るまでの間に切れ味の落ちたもの。刺さったままのそれは刺したままにし、新しいブレードを装填した。
「エレン。助けに来たよ。よく眠れた?」
「ひッ…!ライナー!守ってくれ!!」
「…そんなに怯えなくても…。…ねぇライナー。この鎧の隙間はアンカーが刺さるみたいだけど、つまりは刃も通るって事よね?その鎧の下だって、きっと肉、だよね?なら、内側から項を削いでいけば…いずれは引きずり出せる…よね?」
ミカサが到着し、エレンのいる鎧の巨人の首を攻撃しブレードが砕ける。ミカサもいるのなら、きっとできる。私と、ミカサなら。
ブレードを構えて鎧の巨人の鎧の隙間に突き立てるとやはり簡単に刃は通った。が、すぐにユミルの巨人にそれを阻まれた。
「…あなたは、なんなの?私達の─エルヴィン団長の敵?もしそうなら、私はあなたを殺さなくてはならない。エルヴィン団長の邪魔するなら、殺す。エルヴィン団長が、人類を救うためには。」
私は、団長代理として受けた任務を、失敗した。つい先程の事だ。つまりは、役に立てなかった。私を信じてくれたエルヴィン団長の期待を、裏切ったのだ。だから私は、もっと非情になる。ならなければいけない。エルヴィン団長の邪魔をする者は、切り捨てていかなければならない。
「待ってください!…ユミルを、殺さないでください!ユミルも、ライナー達に従わないと殺されるんです!」
「クリスタ…いや、ヒストリア。彼女1人の命と、壁の中の人類の命。あなたはどっちを選ぶ?私は…エルヴィン団長は、人類を救うために動いてる。だから私は、人類を救うエルヴィン団長の邪魔をする、ユミルを殺すよ。だって邪魔だから。ヒストリア…あなたもエルヴィン団長の邪魔をするの?それでも、ユミルを選ぶ?」
ぎゃああ!
「やめてユミル!抵抗しないで!死んじゃう!」
「…ヒストリア。切り捨てる勇気のないものは、選ぶ事もできないんだよ。…次にユミルが邪魔してきたら…その時は殺すから。それまでに決めな。」
ジャン達104期生が、ライナーの首元へと集まってくる。私達の目的はひとつ。エレンの奪還。ユミルが邪魔をしない限りは、エレンを取り戻す事だけを考えれば良い。
ガンガンと、ライナーの手の中から音が聞こえる。エレンが中でもがいているのかも、と思っていたら「やめろエレン!暴れるな!」とベルトルトの声が続いた。
「そりゃ無理があるぜベルトルト。そいつをあやしつけるなんて不可能だろ!?うるさくてしょうがねぇ奴だよな!よーく分かるぜ!俺もそいつ嫌いだからな!一緒にシメてやろうぜ。…まぁ出てこいよ。」
「ベルトルト…返して!」
次々と、104期生達が説得を試みる。これで諦めてくれるなら、こんな苦労はしない。そう考えるのは、私が歳を取ったからか…元から非情なのか…。しかしそのどちらだとしても、無理なものは無理だ。
「エレン。私達もがんばるから、エレンもがんばろう。一緒に、壁の中に帰ろうね。だから…もっと暴れていいよ。」
その私の言葉に応えるように、ガンガン、という音が復活した。
「お前ら、このまま逃げ通す気か?そりゃねーよお前ら…。3年間、ひとつ屋根の下で苦楽を共にした仲間じゃねーか…。」
「……。」
「ベルトルト。お前の寝相の悪さは芸術的だったな!いつからか、お前が毎朝生み出す作品を楽しみにして、その日の天気を占ったりした…。…けどよ、お前…、あんな事した加害者が、被害者達の前でよく…ぐっすり眠れたもんだな。」
「…、…。」
鎧の巨人の手の向こう側で、息を飲む音が微かに聞こえた。彼らは我々人類を滅ぼそうとしている悪人だが、元は生身の人間。意外にも、どうやらこの揺さぶりは効いているようだった。
「全部嘘だったのかよ…!?どうすりゃみんなで生き残れるか話し合ったのも、おっさんになるまで生きて、いつかみんなで酒飲もうって話したのも…全部…嘘だったのか?…なぁ!?お前ら…、お前らは…、…今まで何考えてたんだ!?」
「っ…!」
「そんなもの、分からなくていい。こいつの首を刎ねる事だけに集中して。一瞬でも躊躇すれば、もうエレンは取り返せない。こいつらは、人類の害。それで十分。」
「…ミカサ…。」
ミカサの一言で、最後の覚悟が決まった。
ミカサはすごいな…エレンを守る事だけに注力して、もう彼らを殺す事を覚悟している。私は、こんなにも時間がかかったのに。
「だッ…、誰がッ!!人なんか殺したいとッ!思うんだ!!」
とうとう、中にいるベルトルトが感情を爆発させた。彼もミカサの言葉に、心を揺さぶられたらしい。
「誰が好きでこんな事!こんな事をしたいと思うんだよ!!人から恨まれて…殺されても、当然の事をした。取り返しのつかない事を…。でも…僕らは、罪を受け入れきれなかった…。兵士を演じている間だけは…少しだけ…楽だった…。」
ふと、リヴァイ班のみんなを思い出した。正確には、彼らにした話を、だ。エレンの巨人化実験の際、彼らはエレンに刃を向けた。その事に対して、私は「エレンはまだ15なのだから」と叱ったのだ。彼らもエレンと同期なのであれば、同じ年頃であると考えていいだろう。そんな、私からしてみたらまだ幼い彼らが、独断でこんな事をしているとは思えない。つまり、誰かが裏にいるのだ。
その誰かが彼らを使いこんな事をしているのだとすれば…彼らも、被害者なのかもしれない。
「僕らに…謝る資格なんて、あるわけない…。けど…誰か……。頼む…誰か…、お願いだ……。誰か僕らを、見つけてくれ……。」
彼の悲痛な心の叫びを聞き、みんな静まり返った。
「…ベルトルト。何も話せない事は百も承知、なんだけどね…。私は…あなたの話を、聞きたい…聞いてあげたいと思ってるよ。そしてできる事なら、理解してあげたいと…そう思ってる。今のエレンの事とは、無関係にね。…それを聞いても、あなたの置かれている状況を話す事は、難しいかな?」
心からの言葉だった。調査兵団で長い事兵士達の相談役をしていたからか、人の心に寄り添うのが当たり前になっていた私に、彼らの辛そうな状況は胸が痛む。人を大勢、殺してしまっているのだ。私には想像もつかないほど、苦しい事だろう。思わず、涙が一筋零れた。
「……っ、すみません…無理ですッ…!!」
「……そう…、…なら、仕方ないね。私はあなたを…あなた達を、殺すしかなくなった。」
これで無理ならいよいよ、私達は分かり合えない。説得を試みた上で、突っぱねられた。彼らは完全に私達の……エルヴィン団長の敵だ。
「ベルトルト…。エレンを、返して。」
「…駄目だ。できない…。…誰かがやらなくちゃいけないんだよ…、誰かが…自分の手を、血で染めないと…。」
「…!」
鎧の巨人の足音とは他に、馬の駆ける足音と、遠くから巨人が近づいて来る音。その音のする方を見てみると、巨人が多数。その先頭を、巨人を誘導するように走るのは、エルヴィン団長だった。
「エルヴィン団長…!」
慌てて、涙を拭った。団長はまた、なんて大胆な事を…!団長自ら危険な事をするなんて…ここで彼を失ってしまったら、無事に帰る事ができるかすら怪しいのに。
「っ、エルヴィン団長!!」
他の兵士を失うのは、まだ耐えられる。それは彼らが、兵士だから。しかしエルヴィン団長は、ダメだ。彼がいなければ、調査兵団は終わる。団長の存在は、人類にとってだけではなく、調査兵団にとっても、希望なのだ。それに私にとっても…、彼は私の生きる意味、そのものなのだから。エルヴィン団長だって兵士であるが、私にとっては兵士だけではない、大切な存在なのだ。
「お前らそこから離れろ!今すぐ飛べ!!」
駐屯兵の指示を聞いたわけではないが、総員、こちらへ向かってくる巨人の姿を確認次第飛び退いた。
「総員散開!巨人から距離を取れ!!」
巨人と巨人が、衝突する。巨人は彼らを捕食対象として認識している。だから、巨人を引き連れてきた。それは分かる。しかし…、……。
「何だこりゃ…地獄か?」
「いいや…これからだ!総員!突撃!!」
「!…エルヴィン団長…!?」
まさかまた、エルヴィン団長自ら行くと言うのだろうか?そんなの、…っそんなの…!!
「人類存亡の命運は今!この瞬間に決定する!!エレンなくして人類がこの地上に生息できる将来など、永遠に訪れない!!エレンを奪い返し、即帰還するぞ!!心臓を捧げよ!!」
団長につられて、思わず敬礼のポーズを取る、自身の体。彼の指示、命令には従うように、私の体はなっている。自分の意思とは、無関係に。
巨人の群れに向かうエルヴィン団長の背中に、ついて行く。エレンを奪還し、何がなんでもエルヴィン団長を守り、そして、壁の中に──
「進め!!」
バクッ
「っ…!?…エルヴィン団長ッ!!…私がやる!!」
目の前で、巨人に襲われる、エルヴィン団長。急に全てが、スローモーションのように見える。今この段階で、エルヴィン団長を失うわけにはいかない…!!
「進め!エレンはすぐそこだ!!進め!!」
そんな団長の怒号にも似た声すら、ゆっくりに聞こえる。ギュルギュルと立体機動装置に負荷のかかる音は、自身のものからは初めて聞いた。それくらい私は、冷静ではないらしい。ザザザッと肉を裂く音と、感触。これをゆっくりと感じるのは、気持ち悪い。初めて感じた感覚だった。
ピィィイ──
「…エルヴィン団長、ご無事ですか?申し訳ありません。団長の命令に背きました。叱責のお言葉は、あとで聞きます。応急処置をして……っ、…すぐに馬へ。」
我ながら無駄のない動きだったと思う。倒してすぐ地面に降り立ち、指笛で馬を呼んで自身の首からエルヴィン団長に頂いたループタイを外し、止血。その際情けなく手が震えていたのは気が付かないフリをして、エルヴィン団長の馬に彼を乗せてから自身も馬に乗り走り出した。今のでもう、エルヴィン団長の覚悟は分かった。女型の巨人を巨大樹の森で捕らえようとした際、エルヴィン団長はその女型の巨人─アニの覚悟を見、それをえらく高く評価していた。
敵は、全てを捨て去る覚悟があるのだ、と。
あれからエルヴィン団長は、自身もそれと同等のものを賭けていたのだ。きっと。
「…ユニ。私をあそこに、導いてくれ。」
彼がそう言いながら指し示したのは、鎧の巨人。その前には、巨人の群れ。リヴァイなら、できるかもしれない。だが、そのリヴァイに信頼されているらしい、私なら……、できるかもしれない。…いや、やる。エルヴィン団長が、それを望んでいるのなら。
「承知しました…!やります!!」
エルヴィン団長の前に出、そして巨人の間をすり抜け、項を削ぎ、宙を舞った。未だ絶体絶命の場面だが、やはり全てスローモーションのように見え──
今まで感じた事がないくらい、楽しかった。